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第41章 父のやらかし〜エドモンド王子視点(10)〜  


 キャリーの本名はキャリーナ=ヴァッサム、伯爵家の長女だ。彼女の五つ下の妹は僕と同じ年で、時々セーラの身代わりをしてくれている。姉同様変装が非常に得意らしい。

 

 それにしてもキャリーナだからキャリーだなんて安直過ぎる。本当に誤魔化す気があるのか疑問だ。

 

 素顔はかなりの美人だ。あの美の化身のようなルイード卿と並んでも遜色ないだろう。

 まあ、彼も僕と同じく人の美醜に拘ってはいない人種のようだから、そもそもキャリーが美人かどうかは気にしなさそうだが、やはり公爵夫人となると、周りが煩いだろうから、まあ、釣り合いが取れた方が面倒じゃなくていいんじゃないかと思う。

 元々仕事の時は変装して身分も偽装していたのだから、結婚後素顔を晒しても問題ないしね。

 

 それにキャリーは伯爵令嬢だから身分的にも問題ないはずだ。そもそも彼は、彼女の身分など知らないで申し込もうとしていたくらいなんだから。

 ルイード卿って神経質そうで細かい男かと思ったら案外大雑把だな。

 これも恋は盲目だから? いや、公子に限ってそれはないな。

 

 それにしても、あの公子の妻になることを望まない人間などいないとは思うのだが、実際のところキャリーが彼をどう思っているのか、本当にわからない。

 ただし彼女はこう言った。

 

「殿下の命令なら結婚も吝かではありませんが、さすがにすれ違った際に夫からスルーされるのは辛いですね。

 というか、私のどの顔を好きになられたんでしょうかね? やはり殿下の女騎士の一人として、殿下のお手紙をお渡しに伺っていた時…のですかね?」

 

 キャリーの疑問はもっともだと僕も思ったが、その疑問の答えが何となく僕にはわかるような気もした。ただし不確定なことは口にしないけどね。だから、こう提案した。

 

「それじゃあ、公子がどんな変装をしている君が好きなのか試してみよう」

 

「試す?ですか?」

 

 僕は早速ルイード卿に手紙を送った。キャリーとの結婚を本気で考えているのなら、面と向かって話をしたいので、一度こちらまで足を運んで欲しいと。

 

 もちろんその手紙はキャリーが運んだのだが、彼女から手渡されたその手紙を読んだルイード卿は、にっこりと笑って承諾した。

 しかも、キャリーが隣国へ戻る際に一緒に同行すると、その場で彼から言われた時は、さすがのキャリーも驚いたという。

 その上こう言われて、思わず彼女も頬を赤らめてしまったらしい。

 

「こんなに早く貴女と一緒に旅をすることになるなんて僥倖です。色々な話をしましょう。楽しみです。貴女のことをもっと知りたいし、私のことも貴女に知って欲しいから」

 

 まあ、そんな甘いことを囁いた割に、ルイード卿が道中で話したことと言えば、自分達の国をこれからどうやって変えていくかだったらしい。

 しかし、キャリーはそれがとても楽しかったというのだから、全くお似合いのカップルだ。

 

 そしてルイード卿は三日間、僕の留学先のコンドミニアムに滞在したのだが、僕達のお試しに見事合格した。

 ルイード卿はキャリーがどんなに見事に変装していても、すれ違いざまに必ず彼女の名前を呼び掛けたのだから。

 

 やっぱり彼も、祖父や僕や弟と同様に王族の特殊能力が備わっているらしい。

 となると、もし僕と婚約する前にルイード卿がセーラと逢っていたとしたら……後になってそのことに気付いた僕は震えが止まらなかった。

 

 しかしそれはともかく、ルイード卿とキャリーは無事に婚約した。結婚式は僕達の留学が終わって帰国してからするそうだ。キャリーは責任感がとても強いから。

 しかも彼女は婚約者に向かってこう言った。

 

「意外に思われるかも知れませんが、結婚式を挙げたら、ゆっくりと新婚旅行にでかけるのが私の夢なんです。

 だって、今まで働き詰めだったんですもの。それに結婚した時くらいしかお互いに長期のお休みが頂けないでしょう?

 ですから、その休みが絶対にとれるように、結婚式を挙げる前に懸案事項を全て解決いたしましょうね」

 

 と。

 

 それを聞いた僕は正直動揺した。このままじゃキャリーの婚期が遅れてしまう。まずいぞ。ただでさえルイード卿より一つ年上なのにと焦った。

 ところがルイード卿は余裕の笑みを浮かべ、横目で僕を見ながら言ったのだった。

 

「ええ、もちろんです。僕も貴女と心置きなくゆっくり旅をしたいので、サッサと問題を解決しますよ。

 大丈夫です。なにせ僕達の上司はとても優秀でしかも部下思いですから、きっとやってくれますよ。

 大体彼も婚約者を溺愛していて、僕達同様に早くみんなの前で、彼女をお披露目したいでしょうからね。しかも安全に」

 

 ううっ……確かにそれは言えてる。頑張らねば。

 

 合理主義者のルイード卿はこの際だから、妹達と合同で式を挙げようかな、などと言っていた。

 本当はそこに自分達も混ぜてもらいたいところだが、やっぱりそれは無理だろうなあ、と僕は思った。なにせ彼女はまだ社交界デビューもしていないんだから。

 

 

 それにしてもルイード卿のことに限らず、巻き戻る前の記憶は時々僕を怒らせ、かつ不安に陥れた。

 また同じような過ちを繰り返してしまうのではないかと、不安で堪らなくなるのだ。

 現在、前回の人生とは大分違ってかなりいい方向へ進んでいるとは思うのだが。

 

 父である国王は、レックスの件でコールドン侯爵と仲違いをする前から、今のところ密輸にはまだ関与していない。

 まあ、この国に父が訪問してくるたびに、僕や僕の影達が張り付いているから、変な物を手にする機会など全くないからなんだけど。

 

 それに隣国の麻薬組織や密輸組織をすでにほとんど壊滅させていた。

 この国で知り合った公安担当者に、こっそりと前の人生で知っていた情報をリークしてやったのだ。もちろん情報屋に変装して。

 だから以前とは違い、この国ではそう簡単には麻薬を手に入れることはできないようになっていた。

 

 しかし僕は父を試すことにした。商人に化けて、ケーシンという植物の種を国王に手渡してやったのだ。この種はこの世のものとは思えないほど美しい花を咲かせますよと言って。

 そしてそれは嘘ではないのだが、その種は知る人ぞ知る、とある麻薬になる植物の種にそっくりなのだ。

 父がこれをどうするか、その動向を確認するつもりだ。

 

 もっとも、さすがに父もコールドン侯爵とは完全に縁は切ったとは思う。それは半年前のレックスのやらかしの件のせいではない。

 実はその前から父はコールドン侯爵とは距離を取ろうとしていた。

 その訳は、コールドン侯爵のせいで、危うく両国間が危機にさらされそうになったからだ。

 もちろんその事実を知っている者は限られた人物だけで、その諸悪の根源であるコールドン侯爵でさえ知らないことだったが。

 

 一年半ほど前に隣国の国王が我がアースレア王国を訪問された際に、土産物として手渡したある物がとんでもない品物だったのだが、それを準備したのがコールドン侯爵だった。

 そしてその手土産がとんでもない品物だったとようやく気付いたのが、それから数か月後のこと。

 今度はアースレア王国の国王である父が隣国へ訪問した時だった。

 

 僕は父と共に王宮の貴賓室に招き入れられ、その話を隣国の国王の口から聞かされた時は、父親同様驚愕し、そして一瞬ここで抹殺されると思った。

 もう済んだことだからと言った国王陛下。彼の口角は確かに上がっていた。しかしその目は僕達を呪い殺してやりたいというように、怒りの炎が燃え上がっていたからだ。

 

 

 しかし今現在もこうして友好な関係が維持され、僕も幽閉や強制送還されずに無事留学生活が続けられたのは、偏にセーラ嬢のおかげだった。

 まあ、彼女の正体を明かすことはできなかったので、父はそのことは知らず、息子のお陰で命拾いをしたと思っているようだが。

 ま、それはともかく、この件でさすがにお人好しで友人思いの父も、コールドン侯爵を信じられなくなったようだ。

 

 そして、そんな父である国王の言動に、元々以前の半数になっていた国王派の貴族達がさらに減ったという。いや、国王派を抜けたというよりコールドン侯爵に従うのをやめたという方が正確だろう。

 

 その上レックスのやらかしだ。コールドン侯爵に付き従う貴族など、今では数えるほどなのではないだろうか。

 まあ、彼ら自身がどのくらい己の状況を判断できているのかは定かではないが。

 読んで下さってありがとうございました!

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