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第4章 提案

 ミモザの一世一代の芝居が始まります。屋敷の心優しい人々は心を痛めます。

 しかし見かけは十一歳でも中身は十八歳。苦労人のミモザは見事に仮面を被り続けます! お楽しみに!


「何故さっさと王都にやって来ないのだ! 何度も催促させおって。私が迎えに来ないと王都の屋敷にはこないとは一体どういう了見だ」

 

 父であるコールドン侯爵は、娘の体調を確認することも気遣うこともなくこう言い放った。

 だから私もきちんとした挨拶をすることも無くこう答えた。

 

「態々(わざわざ)こんな辺境の地までお越し頂きまして申し訳ございません。

 でも、五日もかけて王都へ行った挙げ句すぐにまたここに戻されたのでは、私の体力が持ちません。ですからお父様達に来て頂いたのです」

 

 私の言葉を聞いて、ようやく両親は私の異様な姿に気が付いたようで、目を大きく見開いた。

 

「なに、その包帯は! 貴女は病気だと聞いていたけれど怪我だったの?」

 

 そう、私の顔半分、首、両腕には包帯が巻かれていた。その上私は車椅子に乗っていたのだ。

 

「いいえ、怪我ではありませんわ。ただ病気の後遺症で未だに水疱ができるのです。

 そしてこの水疱が破れてその汁が誰かに触れてしまうと、その人に(やまい)をうつしてしまうのです。ですからこうして包帯を巻いているのです。

 車椅子に座っているのは、足の裏にもその水泡ができていて、痛くてとても立っていられないからです」

 

「なんてこと」

 

 母は両手で口を覆い、元々離れていた私との距離をさらに広げるように後方へ下がった。

 

「後遺症が残るかもしれないとハッサンは言っていたが、その水疱のことか? しかし、時間はかかっても治るだろう?」

 

 父は眉間に皺を寄せながらそう言った。だから私は(わざ)と悲しい顔を作って、

 

「確かにやがて水疱はできなくなるでしょう。でも、その水疱の痕である痘痕(あばた)は消えませんわ」

 

 と言いながら、左腕の包帯を少しほどいて、そこにある大きく醜い痘痕(あばた)を見せた。

 すると母は悲鳴を上げて、今度は両手で目を覆った。そして父親は舌打ちをした。

 

「娘がこんな傷物になるなんて、一体どうすればいいんだ」

 

 広い居間の中がシーンと静まり返った。聞こえてくるのは庭の噴水と鳥達の(さえず)りだけだ。

 執事のカーリーさん、護衛のパットンさん、侍女頭のアリエッタさん、そしてその他の使用人の皆さんが全員青ざめた。

 私は今日のことを頭の中でシミュレーションしていて、事前にこのような展開になるであろうことはみんなにも伝えてあった。

 しかし、まさか両親が実際にそんな態度に出るとは、さすがに皆思ってもいなかったのだろう。

 

 (わざ)と時間をとってから、私は切なそうな顔で両親にこんな提案をした。

 

「お父様、お母様。こんなに醜い姿になって申し訳ありません。こんな風になってしまってはとても王都の屋敷には行けませんわ。コールドン侯爵家の恥になってしまいますもの」

 

「しかし、まだ十一歳のお前をここに一人で置いておくわけにもいくまい。

 それに、来月の王城のパーティーには伯爵以上の令息令嬢は参加が義務付けられているのだ。病気の場合は王城の侍医の診断書がいる。誤魔化しはきかない。

 だから醜い痘痕(あばた)が残ろうが、病気自体が治癒していれば参加せざるを得ない。どんなに我が家にとって恥になろうともだ」

 

 恥、恥って、実の娘を何だと思ってるのよ。まあ、痘痕(あばた)がなくたって地味顔を恥だと言われていたけれどね。巻き戻っても結局この人達は変わらないのね。

 ショックというより、これで私も踏ん切りがついたわ。今後はもうこの人達とは関わらない。何があっても絶対に。

 

「そこで、私から一つ提案があるのですが」

 

「提案?」

 

「はい。その王城のパーティーには、私の代わりに従姉のバーバラに参加してもらっては如何でしょうか? 彼女とは同じ年ですし」

 

「子爵家の娘であるバーバラをお前の身代わりにしろというのか! 

 そんな王家を騙すような真似ができるわけがないだろう。ばれたらどんな罰を受けるかわからない」

 

「ばれませんよ。私もバーバラも王都へ行ったことがないし、身内以外の貴族とは全く面識もないのですから。

 それに、彼女は私よりもお父様に似ていますから、誰にも疑われないと思いますよ」

 

「しかし、その場はどうにかなっても、その後、誰かに招待状でも送られてきたら返事に困る」

 

 能天気な人だと思っていたのだが、さすがに父親もそれくらいは頭が回ったようで、すぐには私の案には乗ってこなかった。

 しかし私が次の言葉を発する前に、なんと母親の方がこう提案した。

 

「ねぇ貴方。いっそのこと一時的な身代わりというより、ミモザとバーバラを交換してしまいましょうよ。

 確かにバーバラは貴方によく似ていて美しい子だわ。もしかしたら王子様の目にも留まるかも知れない。そうしたら王族との関係ができるのよ。素晴らしいじゃない。

 レックスにも今よりもっと良い縁談話がくるに違いないわ。ただでさえあの子は侯爵家の嫡男で、しかも飛び抜けた美貌を持っているのだから。

 

 それに比べてこんな傷物になったミモザでは、いくら侯爵令嬢だといっても高位貴族どころか、下位の貴族や商人にだって貰い手がないわ。

 我が家にとって利益を生むどころか、無駄金を使う厄介者になるだけの娘よ。

ミモザはレックスの将来にとっても障害にしかならないわ。

 貴方の弟に引き取ってもらいましょうよ。あの夫婦は人が良いからきっとミモザを憐れんで面倒を見てくれるわ」

 

 母の言葉を聞いて、さすがに私も全身が震えた。

 以前の私は本当に愚かだったと再認識した。こんな女の愛情を必死に求めていたなんて。

 母性が無い以前に人間として屑だ。父より酷い。

 

 マーシャさんが私を慰めようと肩に手を添えてくれた。しかしその手がやはり酷く震えていたために、却って私は冷静になれた。

 そして大丈夫よ、というようにマーシャさんに微笑んだ。

 

「お母様の仰る通りです。こんな私ではコールドン侯爵家のお役に立つどころか害悪となってしまいます。

 ですから、どうかバーバラと交換して貰えるように、アンドリュー叔父様とナタリア義叔母様に交渉してみて下さい。

 ただし、こんな役立ずの私と、あんなに愛らしくて可愛いバーバラをただ交換したいと願っても無理があります。いくら叔父様が優しいといっても、義叔母様にとって私は赤の他人ですから」

 

「それはそうだな。いくら子爵令嬢を侯爵令嬢にしてやるとしても、こんな傷物の娘の面倒を見させるのだから、何か少しは見返りを与えないと流石にまずいか……」

 

 似た者夫婦だ。もはや清々(すがすが)しいほど屑過ぎる。

 そしてそこに私が口を挟もうとしたら、今度もまた母の方が先に、こちらにとって都合の良い提案をしてくれた。

 

「それならこの領地を貴方の弟に譲ってやりましょうよ。そもそもここは王都近くの領地とは違って子爵家の領地に近いのだから。それに大体こんな辺境でなんの特産も無い貧しい領地の管理なんて、面倒なだけで旨味がないじゃないの。

 今まではお義父様が管理して下さっていたけれど、今度は私達がしないといけないのよ。王都近くの領地経営だけでも大変なのに」

 

「そういやそうだな。ここは関所を守る仕事が義務付けされている。

しかし、こんな田舎に度々来るのはうんざりだしな。弟に譲ってしまった方が楽だな。

 そうしよう。この領地を交渉材料にしよう。

俺は子供の頃からここが嫌いだったが、あいつは気に入っていたからな。あいつは本当に親父に似て変わり者だよな」

 

巻き戻る前の人生では、父が結局関所の仕事を全て叔父アンドリューに丸投げをしていた。

そのせいで、叔父は大変な目に遭ったのだ。何せ名目上の責任者である父自身が、密貿易や贈収賄に関与していたという疑惑を持たれていたのだから。

だから今回両親の方からこの領地を手放してくれるというなら、願ったり叶ったりだ。


 それに特産も何も無いはずのこの領地には、以前から泉が湧き出てくる場所がある。そしていずれそれが貴重な鉱泉だとわかるのだ。

 巻き戻る前の私は、そこに療養施設を造って領民に開放しようと考えていた。

しかし、父は屋敷を貴族用の高級療養所に改装して、領民達をそこで安く働かせた挙げ句、彼らには鉱泉を一切使わせなかった。

 そして鉱泉を使って開発した私の薬の権利も、父が全て奪って(ぼう)()(むさぼ)った。


 だけど今度は絶対にそんなことはさせない


 読んで下さってありがとうございました。

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