表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/59

第36章 忌まわしい再会


 婚約式が終わった翌日、私とエドモンド様は王宮を離れた。別れたくないとチャーリー様に泣かれてしまい、私も泣いてしまった。

 しかし、明日には国王陛下夫妻が帰国されるので、私達は王宮に留まることはできなかった。

 まめに手紙を出すことと、隣国に留学したら騎士の本を探し出し、それを翻訳してプレゼントすることを約束して、私達はチャーリー殿下にさよならをした。

 前国王陛下夫妻からは、隣国からの土産を楽しみにしていると微笑みとともに言われて身が引き締まった。土産とは成果のことだろう。

 

 私とエドモンド様は、アイリスさんやキャリーさん達と共に下働きの人間に扮して城を出た。

 そして一旦コールドン子爵家のタウンハウスへ向かった。それは国王陛下御一行とかち合わないようにするためだ。

 

 実は王都から子爵家の領地へと向かう道は、すなわちそれは隣国へと続く道でもある。何度もいうが、隣国へ行くためにはコールドン子爵領にある関所を絶対に通らなければならないからだ。

 

 断崖絶壁の海岸線に囲まれているこの国は、港を持つことができない。そのために昔は国境を越えるためには、野獣の住む深い森を通り抜けなければならなかった。

 それでも昔の人々は魔力を持っていたのでそれほど不自由はしていなかったらしい。

 しかし次第に人々の魔力が減っていった結果、一般人が森を抜けることは困難になった。そしていつしか隣国と行き来するのは軍隊や冒険者くらいになり、我が国は鎖国に近い状態になってしまった。

 そこで二百年ほど前にコールドン家の先祖が軍を率いて野獣を追い払って、隣国へ通じる場所まで森を開拓して街道を造ったのだ。

 それ故、コールドン子爵(元侯爵)領は辺境ではあるがこの国にとっては要となる地だったのだ。愚かな現当主は気付かなかったようだが。

 国王と共にこの国を好き勝手にしたかったのならば、あの土地を手放すべきではなかったのにと、フランお兄様は言っていた。

 

 ✽

 

 まあ、そんなやむを得ない理由で帰郷を二日遅らせることになったのだが、そのせいで私とエドモンド様は、できれば絶対に会いたくない人物と遭遇する羽目になった。

 

「お兄様、お久しぶり〜」

 

 なんと先触れもなくあのバーバラ(現在のミモザ)が突然屋敷にやって来たのだ。

 タウンハウスの者達はバーバラのことを知らないので、当然彼女をすぐには門の中へは入れなかった。

 生憎両親は外出していたのでフランお兄様が対応した。本当は屋敷には入れたくなかったが、門前で騒がれては人目につくので仕方なく中へ通した。この周辺は貴族のタウンハウスばかりだったからだ。

 

 領地の者達は当然セーラとバーバラが入れ替わったことを知っているが、タウンハウスの使用人達は知らない。そもそもお兄様のことは知っていても、バーバラ(セーラ)というお嬢様には会ったことがなかった。もちろんその存在は知っていたが。

 それは両親がバーバラの被害者を増やさないために、彼女を王都へは一度も連れて行かなかったからだ。

 今回私とエドモンド様は主夫妻と共にやってきた、領地の使用人見習いの兄妹の設定になっていた。そのため、私達はタウンハウスでもその振りをしていたので、慌てることなく対応することができてホッとした。

 

 私が客室に通されたバーバラにお茶を持って行くと、初めて入った子爵家の応接室を物珍しげに眺めながら、

 

「やっばり侯爵家と比べると貧相ね」

 

 などと呟いていた。

 

「先触れも無しにいきなり来られては困ります。ミモザさん」

 

「嫌だわ、そんな他人行儀な言い方。私達は……」

 

「僕達は従兄妹同士で、実の兄妹ではないので、知らぬ者から誤解されるような真似はしないでください」

 

 けんもほろろなお兄様の物言いに、さすがのバーバラも目を見張ったが、続けざまに、

 

「いくら君でもおわかりでしょう? 王家を誑かしたとわかったら、コールドン侯爵家と子爵家はおしまいです。爵位を剥奪され、悪くすると投獄されるでしょう」

 

 と、厳しい現実を突き付けられて青褪めた。

 

「そんな……」

 

「そもそもこれは君が伯父上達と決めたことであって、僕は全く関係がないのだから、今更巻き込まないで下さいよね。

 田舎の子爵令嬢であることを嫌がっていた君は、望み通り侯爵令嬢となって王都で優雅な生活をしているのだから、今更文句などないでしょう?」

 

 お兄様が感情を全て消して淡々とそう言うと、バーバラは鼻白んだ。

 しかし彼女はそんなことくらいでしおらしくなるタイプではないので、すぐに復活してこんなはずじゃなかったと文句を言い始めた。

 

 

『淑女のマナーなんてとっくに身に付けているつもりだったのに、下位と高位貴族とでは違うとマナー教師からは厳しくされて、すごく煩いし面倒なの。

 王太子さまの婚約者になるつもりだったのに、情けない第一王子は病弱で王宮に引き込もってしまって、到底王太子にはなれそうにもないんですって。最低よね、男のくせに軟弱だなんて。

 それなら第二王子とも思ったけど、いくらなんでも年下過ぎるから無理。私は甘やかして尽くしてくる人でなきゃ嫌なの。だから子守をするなんて絶対にお断りよ。

 だから王太子妃になるのは諦めて公爵夫人か、まあ仕方ないから侯爵夫人でもと思っているのに、なかなか上手くいかないの。

 国王陛下の信頼が厚いコールドン候爵家の娘であり、こんな美しい私が態々お茶会に参加してやって、しかも私の方から声をかけてやっているのに、何故かみんなに避けられるの。

 まあ、釣り合わないと身を引きたくなる気持ちはわからないでもないけど、それにしたって失礼でしょ?

 レックスお兄様が上手く取り持ってくれればいいんだけど、あの人はフランシスお兄様と違って本当に気が利かない人なの。頭は悪いし、いいのは見かけだけなのよ。

 どうせならフランシスお兄様もレックスお兄様と入れ替わってしまえば良かったのに』

 

 

 最後の愚痴を聞いた時、フランお兄様の眉が一瞬つり上がったのを私は見逃さなかった。

 自分勝手な言い分にただ呆れていた私でも、さすがに最後の言葉には呆れを通り越して彼女の頭を殴りつけたくなったわ。

 実の兄をまるで自分のために尽くすべき存在かのように発言したのだから。いや、尽くすのが当然だと本気で思っているのかしら?

 何故そんな発想になれるの? もしかして自分自身が奇麗だから? 

 もしそんな理由なら、貴女も奇麗なレックスお兄様やフランお兄様に尽くさないといけないということになるけど、その矛盾には気付かないの?

 思っていた以上にずいぶんと彼女は……だわ。

 

 内心ムカムカしていた私と違い、長い付き合いのフランお兄様はすぐに無表情に戻って、バーバラにこう告げた。

 

「侯爵以上のご令息と付き合いたいのなら、お父上か兄のレックス様に紹介してもらうしかないでしょう?

 子爵家の父や僕ではお役に立てることは無いですよ。それは君もよく知っているでしょう?」

 

「でも、お父様やレックスお兄様の仲の良い方々は、皆伯爵家以下の方々ばかりなのよ。

 ねぇ、フランシスお兄様にだって学園に侯爵家や公爵家のご出身のご友人がいらっしゃるのでしょう? 是非その方々を紹介して頂きたいのよ」

 

 いけしゃあしゃあとバーバラはこう言った。侯爵令嬢にさえなれれば、すぐに自分に釣り合うご令息に出逢えるわ…と言っていたと聞いていたんだけど、それはどうなったんですか?

 その理由を知っていながらも思わずツッコミたくなった。

 しかし、この流れからすると、態々こちらから仕掛けなくても、フランお兄様の目論見通りになるのではないかしら?

 チラッとエドモンド様の方に視線を向けると、殿下も同じようなことを考えたのか、どこか面白がっている風にも見えた。まあそれはフランお兄様も同じみたいだったけれど。

 

「僕は子爵家の人間なので、同級生と言っても高位貴族の方々とはそう親しくはありません。

 しかし、格上の従妹殿にそれほど頼まれては無下にはできませんね。仕方が無い。一応声だけはかけてみますよ」

 

 頼まれて嫌々仕方なく…という体を作ってフランお兄様がこう言うと、バーバラは素直に喜んだ。

 そして、用が済んだとばかりに立ち上がって客室を出る際に、エドモンド様と私にようやく気付いたらしく、頭の天辺から足元までジロジロと見た後、小馬鹿にするように笑みを浮かべた。

 それからフランお兄様を振り返るとこう言った。

 

「やっぱり子爵家だとこれ程度の使用人しか雇えないのね。侯爵家ならいくら使用人とはいえこんなみっともない容姿の人間なんて雇わないけれどね」

 

 先程まで無表情だったフランお兄様もさすがに焦った表情になった。それは私も同じだった。

 私のことはまあ、今更どう言われようが平気だが、たとえ変装しているとはいえ王子殿下のことを侮辱するなどと… 不敬罪で牢獄行きのレベルだろう。

 

 しかし、エドモンド様は平気の平左、いや、怒りを上手く隠してフランお兄様を見た。早くこの女を追い出せとばかりに。

 それはそうだわ。元々の人生において殿下に薬を嗅がせて操った悪魔のような女なのだ、バーバラは。

 普通の人間ならば憤怒してこの場で手打ちにしてもおかしくないだろう。早く殿下の前から消さないと。

 それにしてもこうやって冷静でいられるエドモンド様は本当に凄いと、私は心の中で殿下を礼賛したのだった。


 読んで下さってありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ