第33章 王位継承
前国王陛下は話を続けられた。
「ハリスツイードの忠告は正しかった。エドと次男の嫡男のトーマは一つしか年の差がなかったせいで、二人の力量の違いは一目瞭然だった。
トーマは確かに性格は良いのだが、ただそれだけだ。統治者となるだけの器量がないのだ。
私は三人の男の孫の教育に、私情を捨てて国王として関わってきた。冷静に見極めるために。息子達の時は多忙を言い訳にして、まともに向き合うことをしなかったからな。
だからこそ、トーマの能力がはっきりとわかった。
あの子を国王などにしたら、狡賢い貴族どもにいいように利用され、必ずや傀儡政権になってしまうだろう。
私はエドモンドこそが国王に向いていると思っている。賢いだけでなく何事にも冷静沈着に物事を諦観できる姿勢といい、清濁併せ持つ柔軟性といい。
ああ、フランシス君にもそれが言えそうだね。
次男を国王にして、その次にエドモンドを王にすることができれば理想なのだが、過去ならいざ知らず現在では、後継者争いを減らすために多くの国と同様、我がアースレア王国も完全な男系長子制度を採用している。もちろん特例はあるが。
それ故にエドを将来国王にするためには、次男を後継者にするわけにはいかなかった。
だから致し方無く二年前、あれを国王にした。エドが成人になるまでの中継ぎにするためだ。次男の孫が無責任な者達の傀儡の王になる未来を防ぐために、私が責任を取れる今、あれを私の傀儡にしたのだ。
あれは色々と失敗をしでかしているが、大事になる前に私達が対処している。しかしそれはエドが成人するまでだ」
つまりエドモンド殿下が成人した暁には、現国王陛下を……
私はゾクッとした。
前国王陛下にとって現国王陛下を退位させることは、もはや変えられない既定路線になっているようだ。おそらく既にそのための証拠は揃えてあるのだろう。
とはいえ今後の現国王の行い次第で、その退位後の処遇は違ってくるに違いない。
穏やかな隠遁生活なのか、監禁生活なのか、牢獄生活なのか、はたまた最悪の場合は……
巻き戻る前の世界では私は早々にいなくなってしまったので、現国王の結末を実際に目にしたわけではない。けれどもエドモンド殿下から話は聞かされている。
しかし私が殺されるという未来、つまりは実の父親であるコールドン侯爵を筆頭にした現国王派の暴走を止められたら、もしかしたら国王陛下の最悪のパターンは変えられるかもしれない。是非ともそうなってもらいたい。
前国王陛下が息子を、エドモンド殿下が父親を断罪しなくて済むように。
その為には、国王陛下が大罪を犯す前にその元凶になるであろう私の元家族を、まずなんとかしなければならない。そう私が思った時だった。
前国王陛下がこうおっしゃった。
「良い目をしているな、セーラ嬢。いや、本物のミモザ嬢。
さすがは我が親友ハリスツイードが自慢していた令嬢だけのことはある。これだけ裏情報を聞かされても怯えもせず、果敢に挑もうとしている。
エドのために、現国王と元父親をどうにかしなければならないと、そう思っているのだろう?」
私は驚嘆した。
何故前国王陛下は私の心が読めたの?
そんな動揺している私を見て、先程まで冷酷なまでに冷たい表情をしていた前国王陛下が、急転直下好々爺のような穏やかでにこやかな微笑みを浮かべて、
「どうやら当たったようだな」
とおっしゃった。
そして今度は王太后陛下と共にとんでもない話を始められた。
「ハリスツイード様はミモザ嬢を自慢すると同時にずっと心配していたのよ。頼りにしていた奥方のローズリィー様が、若くして先に亡くなってしまってからはより一層に」
「自分にもしものことがあったら、ミモザ嬢の将来がどうなるのか気掛かりだったのだろう。
まさか実の両親が揃っているのに叔父夫婦が面倒を見させるわけにもいかないだろうし、もしそれが可能であってもあの従姉と暮らさせるのも不憫だと。
だから私がゆくゆくはミモザ嬢をエドの婚約者にし、お妃教育を受けさせるためとして、王宮に呼び寄せようと考えていたのだよ。
しかし、それを実際に告げる前に突然奴は逝ってしまったのだ……」
亡くなった親友のことを思い出して涙する前国王陛下を目の当たりにしながら、陛下の話された内容に私はただ呆然とした。
すると、隣に座っていたエドモンド殿下が私の両手を優しく握ってくれた。
私達の関係はまだ秘密にしておくはずだったのに、あまりの衝撃に失念されてしまったようだ。
まあ、私もそんなことに気を回す余裕はなかったけれど。
「親友の葬儀に私達は参列できなかった。他国の国王の結婚式に参列しておったのでな。
帰国して突然の親友の死に私がショックを受けているうちに、侯爵がミモザ嬢を王都に呼び寄せようとしているという情報が耳に入ってきた。
たった一人残された君はきっと辛い思いをしているだろうと、私達も心を痛めていたのだが、間もなくエドの十二歳の誕生日パーティーが開かれる。
だからその時に招待されるであろうミモザ嬢と、エドの仲を取り持とうと算段していたのだ。
そしてお互いに嫌でない様子であれば、そのまま婚約の話を進めようと思っていたのだよ。ところが、現れたミモザ嬢は偽物だったというわけだ」
「もしやお祖父様はミモザ嬢が子爵家のバーバラ嬢と入れ替わったことを知って、僕の療養先を子爵領にしたのですか?」
エドモンド様がようやく合点がいったとばかりに、それを確認するために問うと、陛下は頷いた。
「その通り。自然に触れ合いをさせて、二人の相性を見ようと思っていたのだよ。セーラ嬢はアンドリュー君のところで幸せそうだったので、無理に政略結婚をさせるつもりはなかったが。
するとエドがセーラ嬢に怯えて、いつまで経ってもビクビクしていて、まともな会話すらできないと影が報告してきた。それ故、正直縁がなかったのかと半ば諦めていたのだよ。
しかしそれは杞憂だったようだな。いつの間にか手を握りあう間柄になっていたとはな。
まあ、セーラ嬢の留学申請が出ていた時点である程度は予想をしていたがね」
微笑みを浮かべた前国王陛下にこう言われて、私は恥ずかしくて居た堪れなくなって、エドモンド殿下の手から逃れようとした。しかし殿下から却ってギュッと握られてしまってそれは叶わなかった。
最初から前国王陛下は、私と婚約をさせようとエドモンド殿下を辺境の地に送られたのだ。それを知って私達は呆気にとられた。そしてそれと同時に嬉しくて舞い上がりそうになった。
陛下に認めてもらえるとは正直思っていなかったからだ。認めてもらえなくても誠意を込めて二人でお願いしようと考えていた。
前国王陛下は私が留学することもあっさりと許して下さった。というより、陛下に積極的に応援された。
国で貴族達に認めて貰うためにも、目で見える実績をつくる必要があるからと仰って。隣国での評価ならすんなりと我が国でも受け入れられるというのだ。
エドモンド殿下はまだ幼い頃から様々な発言や発案をされていて、既に幾つもの成果を上げている。
しかしその手柄は全て父親である国王陛下のものになっているという。巻き戻り前の世界と同じだ。
「是非ともあれよりも立派な成果を出して、あいつらの度肝を抜いてやって欲しい。
しかしそれは、いくらエドでも簡単なことではないだろう。故に優秀なパートナーが必要だ。私にとっての王太后のようにな。
だから、くれぐれも孫のことをよろしく頼むよ、セーラ嬢」
前国王陛下はそれこそ眩いばかりの笑みを浮かべて、お隣に座っている王太后陛下の手を取った。
そう。両陛下は昔から変わらず、それはそれは仲睦まじい。
陛下の若い頃は今よりもさらに国内外ともに荒れていて、厳しい社会情勢だったと聞く。
その中をお二人は手を携えて共に戦ってこられたのだと、亡き祖父からも聞いていた。
酸いも甘いも知っているからこそ、お二人はこんなにも信頼し合っておられるのだ。
私もエドモンド殿下と、いつかお二人のようになりたい。今度こそきっと……
私がそう思った時、前国王陛下がこう仰った。
「君達のことを公表すれば、コールドン侯爵家だけでなく、国王派の貴族達がなにかしかけてくるかも知れん。それ故に二人のことは表には出さない。
しかし、セーラ嬢との確固たる結び付きがないと、エドが不安だろう?
そこで神殿の前で誓約式を行なっておこう。見届人のいる中で神の石に二人で手を触れて成約すれば、たとえ親であろうと、二人の意志に反して無理矢理に引き裂くことは出来ぬからな」
その言葉にエドモンド殿下と私は即座に頷いたのだった。
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