第28章 弟〜エドモンド王子視点(7)〜
間が空いてすみませんでした。
弟のチャーリーの話が出ると、それまでずっと暗い顔をしていたセーラがパッと顔を綻ばせた。
「それでは、こちらにいらしてからも、チャーリー殿下とはご連絡を取り合っていらっしゃるのですね?」
セーラが嬉しそうに言った。
巻き戻る前の人生では、彼女は僕よりも弟をかわいがってくれていた。僕は前国王派、弟は国王派の貴族が後ろに付いていたので、表面上あまり仲睦まじい態度がとれなかったのだ。
しかし、ミモザは僕の婚約者ではあったが、彼女の両親のコールドン侯爵夫妻は国王派だった。そのため弟擁立派とは一線を画していたとはいえ同派閥だったので、彼女が弟とコミュニケーションをとってもあまり問題にはならなかった。
しかも二人は年が離れていたために、変な邪推をされることもなかった。
僕同様に両親に関心を持たれず、孤独だったチャーリーが国王派に取り込まれずに済んだのも、ミモザが実の姉のように愛情を持って接してくれていたからだろう。
「チャーリー殿下、無理に武闘派の振りをなさらなくてもよろしいのですよ。
もちろん剣の鍛錬はとても大切ですし、騎士様を目指されることを反対は致しません。
ですが、殿下はお勉強もお好きでしょう? 関心の無いふりなどする必要はないのですよ。
国の歴史や戦術を学ぶことも騎士様には必要となると思います。
一緒にお勉強を致しましょう。そして私にも色々教えて下さいませ。そちらの勉強はまだしたことがありませんので」
ミモザのこの言葉で、チャーリーは本来の姿に戻ることができた。
兄のために態と武闘派の振りをする弟に申し訳無く思っていたので、僕は心からミモザに感謝していたのだ。
「ミモザが殺された時のチャーリーの怒りは、僕に匹敵するのではないかと思えるくらい激しいものだったよ。
まだ十四だったのに、近衛の先頭に立ってコールドン侯爵一派を追い詰めて全員捕縛したくらいだ」
「まさか、まさか国王陛下夫妻にまでは手を出されてはいませんよね?」
ミモザが怯えるようにこう尋ねてきたので僕は首を振った。
「まだ成人前のかわいい弟にさすがにそんな鬼畜な真似はさせていないよ。王太子である僕がその責務を全うした。
もっとも刑を下したのは、正確には裁判所だけどね。
療養名目の蟄居閉門など甘過ぎる。国王自身が麻薬の密輸に手を貸したのだから、国家反逆罪だ。だから裁判にかけたんだ。
その結果、国王である父は毒杯を命じられた。麻薬の影響でまだ正常な精神状態ではなかったから、少しは恐怖が軽減されたのではないかな。
王妃である母はそれらには直接は関与していなかったので、北の塔に幽閉となったよ」
セーラだけでなく、コールドン子爵家の人々は僕に気遣うような視線を向けた。
僕の精神年齢はとうに成人だったが、今現在の姿がまだ少年であったため、容姿と過酷過ぎるこの話との乖離があまりにも大きかったので、いたたまれない気持ちになったのだろう。
しかし、僕の方はこれから更に辛い事実を述べなくてはならなかった。実の親のことよりむしろこちらの方が気が重かった。
「コールドン侯爵一家は養女になったバーバラを含め、四人とも公開処刑になった。
彼らは密輸以外にも脱税やら公金横領やら賭博など、様々な犯罪を犯していたのだ。そしてバーバラはミモザの殺人を教唆していたので、死刑以外の刑罰はなかった。
死刑が公開となったのは、ルイード=カーネリアン公爵令息が強くそれを要望したからだ。
彼はレックスとバーバラがしたエメランタ嬢への様々な行為に相当腹を立てていたのだ。
ようやく外の世界へ出られるようになった妹を公衆の面前で笑い者にし、彼女の弱点を晒しものにしたことが許せなかったのだと思う。もちろんそれは父親である公爵も同じ思いだったのだろう」
コールドン子爵一家は沈黙した。そしてダイニングルームは、恐ろしいほどの静寂に包まれた。
どんな大罪人だろうが彼らにとっては親であり、子であり、兄弟、従姉なのだから。
最初に口を開いたのはコールドン子爵だった。
「殿下、今ならまだ、あの愚か者達のその最悪な結末を変えることが可能でしょうか?」
さすがアンドリュー=コールドン子爵。どんな時でも前向き思考だ。
「ええ。可能だと思います。未来は変えられるものですから。ただし、持って生まれた人の性格はそうは変えられないでしょう。
それ故それを変えるためには、彼らが引き起こすであろう犯罪を未然に防ぐことが必要なのです。しかし、それら全てを防ぐことは現実的には不可能です。
ですから、最悪のシナリオだけは回避できるかも・・・という曖昧な言い方しか僕にはできません」
僕の返答に子爵は苦笑いをした。そして、
「殿下はリアリストですね。私のような楽天家ではない。さすが王となるべき方です。
今ここで、私は貴方に忠誠を誓います。何なりと指示を与えて下さい。そのご期待に必ずや応えてみせましょう」
と言うと、椅子から立ち上がると僕の側に来て、そこで片膝を突き頭を下げた。
そして子爵のご子息であるフランシス卿もそれに倣ったのだった。
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