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第24章 理由  


 アルフレッド様の話を聞いた後、私はずっと泣いていた。

 私が死んだことで、エドモンド殿下とエメランタ様にそんなにも辛い思いをさせていたとは思いもしなかったからだ。

 私はただ自分の不幸を嘆くばかり。そして同じ過ちを犯さない、同じ辛い思いをもう二度としたくない、そればかりを考えていた。

 

 巻き戻る前の私はもっと早く、自分の胸の中にあったモヤモヤする正体に、きちんと向き合うべきだったのだ。そしてやり直しの人生を生きるようになってからのモヤモヤも。

 アルフレッド、いやもう面倒くさいのでいい加減名前はエドモンド殿下で統一しよう。彼から話を聞いて、私にはストンと腑に落ちるものがあった。

 そう。自分が巻き戻りしていることに気付いてから、ずっとモヤモヤしていた事に。

 

「エドモンド殿下、そしてお父様、お母様、フランお兄様、私のせいで悲しく辛い思いをさせてしまって申し訳ありません。どうか私のことはもう気にしないで下さい」

 

「セーラ……」

 

 お母様がとても切なそうな顔をして、両手で優しく私の手を包み込んでくれた。その手の温もりに、巻き戻れて本当に良かったとしみじみと思った。

 巻き戻る前の人生では、祖父母が亡くなった後、私にこんなにも寄り添ってくれた身内は誰もいなかったのだから。

父と王家の監視下にあった私は、エドモンド殿下の側近だったフランお兄様以外の親族と接触を持てなかったのだ。

 

「強がって無理をして言っているわけではないの。

 さっきエドモンド殿下から私の最期を教えて頂いた時、私は本当にホッとしたのです。

 だってエドモンド殿下に裏切られ、それを儚んで自殺していたとしたら、とても情けないし惨めでしょう?

 あんなに頑張っていたのに、それを全てなかったことにされて、諦めて絶望して、その挙げ句に自ら命を絶っただなんて。私はそんなに弱い人間だったのかって。

 

 自分の時間が巻き戻ったとわかった時、私が最初に思い出したのは、あの日のパーティーで婚約破棄を言い渡された時の記憶だったのです。

 そしてすぐに思ったのです。二度とあんな思いをしたくない。愛する人に裏切られたくないって。

 

 でもこのままではまた私はあの両親に利用され、みんなに馬鹿にされ疎まれて、最終的にはエドモンド殿下から婚約破棄されてしまう。

 だから、今度はそうならないためにどうすればいいのか、それを考えました。そしてその結果、バーバラとの入れ替わりを思いついたのです。

 

 でも、私は結局現実から逃げていたのですね。ちゃんと自分自身と向き合っていたら、あの日のことを真剣に思い出そうと努力していたら、私は気付くことができた筈なのです。

 私に婚約破棄を告げたのはエドモンド殿下じゃなかったことに。そしてあの場にいたエドモンド殿下と国王陛下が正常では無かったということに。

 

 私は時々不思議に思っていました。

 先程も言いましたが、人生が巻き戻ったことに気付いた時、二度とあんな辛い目に遭いたくないと思いました。

 それなのに、何故か巻き戻らなければ良かったとは私は一度も思わなかったのです。

 実の両親や兄から愛されない未来がわかっていたのに。

 社交界で虐められ貶される日々が待っているとわかっていたのに。

 

 今朝の散歩中に私はエドモンド殿下から、忘れていた自分の最期を教えて頂きました。それでようやくモヤモヤしていたその理由に気付いたのです。

 だから今の私はとってもスッキリした気分なのです」

 

 自分の最期を聞かされてスッキリした、という私の言葉に四人はそれこそ信じられないという、驚愕の表情をしていた。

 それはそうだろう。その私の最期とは自然死などではなく殺されたのだから。

 でも、殺害されたということより、自殺ではなかったとわかったことの方が重要なことだったのだ。私にとっては。

 

 

「私は決して自分に負けて、絶望して、この世をはかなんで、愛する人を憎みながら自らの命を断ったのではない。

 そのことを知ることができて、本当に嬉しかったのです。

 

 死と直面したあの時、私はきっと凄く悔しかったのだと思います。

 バーバラや自分の家族に陥れられたことに。愛する人と共に生きる人生を断ち切られたことに。

 そしてこう強く思ったのだと思います。もし今度生まれ変われたなら、絶対にあんな奴らに負けてなるものかって!

 

 だからきっと、私の時は巻き戻ったのだと思います」

 

 私のこの言葉に、エドモンド殿下は何度も目を瞬かせた。そして徐ろにこう言った。

 

「僕と同じだ。

 僕も君の葬儀の時に思ったんだ。悔しい。こんな理不尽なことがあってたまるものかと。

 ミモザはこれまでどんなに過酷で辛い状況下でも、逃げずに真っ直ぐ前だけを向いて必死に努力を続けていた。

 そして僕達はようやくこの手で幸せを掴める筈だった。それなのに、何故あんな奴らのせいで壊されなければならなかったんだ。

 許せない! 許せない! 許せない! 

 こんな理不尽な運命など認めない!

 

 教会の鐘の音を聞きながら、僕は心の奥底から叫んだ。

 

 そして七歳の時に、自分の人生が巻き戻っていることに気付いたんだ」

 

 エドモンド殿下の言葉を聞いて、私は確信した。

 その時エドモンド殿下が私との人生を諦めずにいてくれたから、私ともう一度やり直したい、戦いたいと望み願ってくれたからこそ、私達の人生が巻き戻ったのだと。

 

 それにしても、エドモンド殿下は私よりも四年も前に巻き戻りに気付いていたのね。道理で巻き戻る前の世界とは大分違っていたはずだわ。

 エドモンド殿下も私と同じように、藻掻きながらも運命を変えようとしてくれていたのね。

 もしかしたらそのせいで巡り会えなくなる恐れもあっただろうに、それにもめげずに進んでくれたのね。

 エドモンド殿下の勇気と強さに感謝の気持ちしかない。

 

 でもその割には辺境地に来てからも、私との接触を恐れて一年近くもグズグズなさっていたけれどね。

 私は今まで知らなかった、エドモンド殿下の意外に臆病な側面を知って、クスッと笑ってしまったのだった。

 読んで下さってありがとうございました!

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