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第21章 償い


「あいつ最低だな。今もクズだと思っていたけど、やり直し前も同様のクズだったんだな」

 

 エドモンド様から巻き戻る前のエメランタ様の話を聞いたお兄様が、吐き捨てるようにこう言った。

 フランお兄様はエレガントで繊細で中性的な風貌をしているが、見かけに反して騎士のように無骨で、はっきりとした物言いをする。

 

「我が甥ながらなんて奴なんだ」

 

「公女様はお日様アレルギーだったのね。それなのに帽子も日傘も無しに、そんな日陰もないような広場に無理矢理引っ張り出されただなんて、どんなに恐ろしかったことか……」

 

「しかも、うら若き乙女を衆人環視の中で醜女!と叫んだんですよ、あの人は。

 

 そのせいでエメランタ様は、お顔の腫れが引いた三週間後以降も、ずっとお屋敷に引き籠もるようになってしまわれて、二度と学園には戻れなかったのです。

 知らない若い男の人を見ると、酷い過呼吸を起こすようになってしまったからだそうです」

 

 私は怒りで震えながら言った。

 あの後兄を含めエメランタ様を囲んでいた連中は、自宅での謹慎処分を受けただけだった。

 彼らはエメランタ様がアレルギー持ちだとは知らなかったからだ。

 

 とはいえ無理やりご令嬢の手を掴んで室外へ連れ出したり、周りを取り囲む行為は、相手に対してかなり恐怖を与える行為だし、紳士としては破廉恥極まる行為だった。

 学園からの罰則は小さかったが、カーネリアン公爵家の怒りを買ったのだから、彼らの今後が暗澹たるものになったのは明らかだった。

 

 その中でも特に兄はもう日の目を見ないだろう、とその時私は確信した。そしてそれはすぐに証明された。

 エドモンド殿下の側近に選ばれた者の中には、殿下の推薦通りにフランお兄様がいた。

 しかし、国王陛下が推していた兄レックスは選ばれなかったのだ。宰相閣下やカーネリアン公爵が不適当だと認定したからだ。

 

 そのことで兄は、将来要職に就く可能性が完全になくなった。いくら国王といえども、宰相と国一番の実力者のカーネリアン公爵を敵に回したくはなかったからだ。

 

 ところが、この当然の結果にも愚かな両親、というか兄は納得しなかった。そしてさらに悪手に出た。

 なんと兄レックスは、カーネリアン公爵にエメランタ様との結婚を申し込んだのだ。

 

『病弱な上に醜女だと噂が流れてしまっては、この先公女様には良い縁談は無いでしょう』と。

 

「信じられないわ。その噂だって自分のせいだったのでしょう?」

 

「どの面下げてそんな馬鹿な申し入れをしたんだ!」

 

 母と兄が怒りと呆れの混じり合った声で呟いた。

 父は頭を抱えた。

 その後コールドン侯爵家だけでなく、コールドン子爵家がどうなったのかを容易に想像ができたからだろう。

 

 当然ながら兄の失礼極まりない求婚は、コールドン侯爵家を孤立させる結果となった。

 カーネリアン公爵家のみならず、今迄懇意にしていた貴族達にまで批判され、次々と距離を置かれるようになったからだ。

 今度はさすがにあの元両親でさえ慌てたようだ。

 そして、何と彼らは私に兄レックスの代わりに詫びを入れて、エメランタ様の許しをもらってこいと命令してきた。

 

 私だってもし可能であればエメランタ様に直接お会いして謝罪したかったし、それが無理でもせめて謝罪の手紙を出したかった。

 しかし、加害者の妹の私からの謝罪など、あちらが到底受けて下さるわけがないではないか。執事の手元に届くかどうかさえ怪しい。

 そもそも私はこれ以上、傷付いているエメランタ様に不快な思いはさせたくなかったので、両親からの命令など無視したのだった。

 


「それでその後、その公女様はどうなったのですか?」 

 

 お母様が聞き辛そうに私達に尋ねた。

 するとその質問に答えたのはエドモンド様だった。

 

「ミモザ嬢が亡くなった後になってしまいましたが、エメランタ嬢は、無事格好良く社会復帰しましたよ」

 

「格好良く?」

 

「当然皆さんは覚えていらっしゃらないでしょうが、彼女も僕達国王派追討作戦の仲間でしたからね。共に戦ったんですよ。

 隣国からの援助を引き出せたのは彼女のおかげなんです」

 

「「「へぇ~っ!」」」

 

 予想だにしなかったエドモンド様の言葉に、私は皆と一緒に驚いてしまった。

 

「ということは、仲間になる以前には既にもう、公女様は引きこもりではなくなっていたということですか?」

 

 とフランお兄様。

 

「ええ。確かにまだ屋敷内には引き籠もっていたのですが、貴方とセーラ、いいえ本物のミモザのおかげですっかり体調は良くなっていたんです。そしてそれに伴って精神的にもかなり強くなってましたよ。それはセーラ嬢も覚えているんじゃないかな」

 

「はい」

 

 と私は頷いた。確かにその辺りのことまでは私の記憶にあった。なんと私はエメランタ様と親しくさせてもらっていたのだ。

 というより、おこがましいことだが、あの方は私にとって唯一の友人であり姉のような存在になっていた。なんと名前呼びまで許されていたのだから。

 

「僕とセーラは一体何をしたのですか?」

 

 フランお兄様はアルフレッド様の言葉に、信じられないという顔をした。

 そこで今度は私がその経緯について語った。

 


 私は親に命じられるまでもなく、兄レックスが事件を起こして間もない頃から、エメランタ様に直接会って償うことを望んでいた。しかし、それが難しいということも理解していた。

 それでもエメランタ様の為に何かできることはないかと、ひたすら考え続けた。

 そして、事件が起きる以前のエメランタ様の様子を従兄のフランお兄様に尋ねてみた。

 私はエメランタさまより二つ年下だったのでまだ学園に入学していなかったが、お兄様は当時学園の二年に在学していたからだ。

 

 するとフランお兄様は直接エメランタ様と接触したことはなく、遠目から見かけただけだと言った。

 学年も身分も違うので、そもそもエメランタ様には関心などなかったらしい。

 しかしそんなお兄様の耳にさえ、エメランタ様の噂は聞こえてきたという。

 

 まるで秋の木漏れ日のように、儚げでありながらも光輝く美しいご令嬢。その姿を間近で見たら一目で恋に落ちそうな魅力的な美少女だと。

 そして昼食は王族専用の食堂で取り、休み時間は必ず図書室で過ごしていた。

 しかし決して一人が好きだとか、人付き合いを避けていたというわけではなく、教室内では多くの友人に囲まれて優しい微笑みを浮かべていたという。

 

 レックス達はいつも集団で屯し、滅多に一人で行動することはない。いや、できないといった方がいいのかも知れない。

 そんな彼らだったので、自分の目的がしっかりとあり、そのためには一人で行動することを躊躇わないエメランタ様は、独りぼっちの孤独で哀れな人間に見えたのかもしれない。愚かなことだが。

 

「エメランタ嬢は学園の図書室で、いつも何かを真剣に調べていらしたらしいよ」

 

「その調べものが一体何なのか探って貰えないかしら、お兄様。

 それがわかれば私も何かお手伝いできることがあるかも知れないと思うのです」

 

 私はそうフランお兄様にお願いをした。私はまだ学園に入学していなかったので、自分では調べることができなかったからだ。

 

 するとお兄様は、それをすんなりと承諾してくれた。そして優秀なフランお兄様は間もなく、その『何か』を見つけてくれたのだった。

 読んで下さってありがとうございました!

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