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第14章 推測〜コールドン子爵視点(2)〜  


   


 驚愕の表情を浮かべるアルフレッド様((エドモンド殿下))に私は言葉を続けた。

 

「そもそも婚約者を決める大切な日にたまたま倒れるなんて、そんな偶然があるはずがないじゃないですか。

 貴方はそのパーティーでコールドン侯爵令嬢だという私の姪のミモザを見て驚愕されたことでしょう。

 貴方はかつての婚約者であるミモザに逢えると心躍らせていたでしょうからね。

 

 ところがミモザ=コールドン侯爵令嬢だと紹介されたその令嬢は、かつて貴方が愛していたミモザではなく、貴方がもっとも憎んでいたミモザの従姉のバーバラだった。

 

 貴方はきっと混乱したことでしょうね。でも敏い貴方はすぐに気付いたのでしょう? やり直しの人生は既に誰かの手によって改編されていたということに。

 そしてそんなことをしたのが誰なのかも。だから貴方は意図的に体調を悪くして、ここへ静養しにいらしたのでしょう?

 本物のミモザと逢うために。そして、あの偽ミモザの悪の手から逃れるために」

 

「凄い推察力ですね、子爵は。貴方の言った通りです。セーラ嬢も僕の正体を知っているのでしょうか?」

 

「いいえ、知りません。貴方の正体を話してはいけないと前国王陛下からきつく命じられていますからね。貴方自身がお話ししなければセーラが知るわけがありません。

 貴方はやり直し前の人生でもご自分の正体を明かさなかったのでしょう? 婚約した後もずっと。

 それは何故ですか?

 

 セーラは巻き戻る前の人生において、アルフレッド様とエドモンド殿下、二人に愛されなかったことが原因で、この人生において結婚を諦めているのですよ。

 どうせ自分は好きな人には愛してもらえないのだと」

 

 私の言葉に殿下は絶句した。 

 

「ミモザはアルフレッドだった僕を好きでいてくれたのですか?」

 

「ええ。ですが貴方は、留学してから一度もミモザに便りを出さなかったそうですね。助けを求めたくても相談がしたくても、アルフレッド様と相談できなくてあの子は随分辛かったようですよ。

 そしてエドモンド王子との婚約が決まった後、七日七晩泣き暮らしたと言っていました。

 

 でも最終的には今まで何も連絡をくれなかったのだから、どうせ自分のことなんて何とも思っていないのだと思って、無理矢理にその想いを消したようですよ。

 

 そしてその後、殿下と共に過ごすようになって、次第に殿下を好きになっていったそうです。殿下の役に立つ人間になりたくて精一杯努力をしたつもりだったと言っていました。

 どんなに周りから(さげす)まれ馬鹿にされようとね」

 

「何故ミモザが馬鹿にされるのですか! ミモザが辛い立場に置かれていたことは十分理解しています。でもそれは嫉妬され、やっかみからのものでしょう? 

 ミモザは誰よりも可愛らしくて気品があって魅力的な女性だった。だからみんなして彼女に嫉妬して酷い仕打ちをしたのでしょう?

 

 僕自身も周りが敵だらけだったから、彼女への配慮が疎かになってしまった。彼女を守れなかったことを死ぬまで後悔していた。いや、死んでからもずっと。だから今こうして巻き戻ったのだと思っている。

 でも、もう少しだったのだ。あと少しであいつらを排斥できるところまで追い詰めていたのだ。

 それなのに、あのバーバラのせいで……」

 

 私はエドモンド殿下が感情を顕にするのを初めて見た。殿下はいつどんな時でも冷静沈着で穏やかな子供だったから。

 ドンドンと、殿下は何度も何度も激しくテーブルに拳を叩きつけた。

 

 

 バーバラは私の実の娘だ。しかし彼女が彼らを不幸のどん底に突き落としたという、そのやり直し前の記憶は私にはない。

 だが、今のバーバラを思い返せば、あの娘がどんな極悪非道な行いをしたのかは容易に想像がつく。

 自己の欲望を満たすためならどんなことも躊躇(ためら)わない娘だから。

 

 バーバラは幼い頃から、どんなに教え諭しても善悪の区別がつかない子供だった。人としての罪悪感をかけらも持ち合わせていなかった。

 そして一体どうやったらあんなに万能感に浸っていられるのか、それが不思議でならないくらい傲慢な性格だった。

 

 巻き戻る前の人生において、娘バーバラのせいで不幸にしてしまったセーラとエドモンド殿下を、今度は絶対に幸せにしてやらなければならない。

 そのためには、今はミモザを名乗っているバーバラを今度こそ何とかしなければならない。

 涙を溢しながらテーブルを叩く少年を見つめながら、私はそう決心したのだった。

 

 

 

 それにしても、ミモザ((セーラ))を誰よりも可愛らしくて気品があって魅力的な女性だった、そう殿下が思っていることに驚いた。

 確かに私達家族はそう思っているのだが、だからといって王城に集う者達が皆、ミモザ((セーラ))の容姿に嫉妬していたのかというと甚だ疑問だ。

 

 まあ確かにミモザ((セーラ))は本当に優秀な令嬢だった。しかし実際のところ、ミモザに嫉妬していたという連中は、単にミモザ((セーラ))があの優秀で美しい王太子殿下の婚約者だからという理由で嫌がらせをしていたのだろうと思う。

しかもそれはミモザ((セーラ))が美し過ぎたからではなく、むしろ彼女の容姿では殿下と不釣り合いだと不満に思っていたのではあるまいか。

 何せあの子の実の親や兄でさえ、見かけの容姿だけを重要視して、実の娘であるミモザ((セーラ))を蔑ろにしていたのだから。(そして巻き戻った今も変わらない)

 

 

 エドモンド殿下、それほどミモザを愛していたのに何故貴方のその思いを正直に彼女に伝えなかったのですか? 

 せっかくやり直しの人生を送っているのに何故今回も思いを伝えようとしないのですか?

 あの子の自己評価が低いのは、貴方にもその責任の一端があるのではないですか?

 

 過去のことだからだなんて済まされないのですよ。今のセーラにはミモザだった頃の記憶もちゃんとあるのですから。

 そしてこの十か月の間、私は情けなくて貴方を見ていられませんでした。何度も発破(はっぱ)をかけたくなって、必死でそれを堪えていましたよ。しかしもう限界です。

 明日から頑張って下さいね、殿下!


 誤字脱字報告ありがとうございました。助かります。


 読んで下さってありがとうございました。

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