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第13章 後押し〜コールドン子爵視点〜


 セーラから誕生日プレゼントを受け取ったアルフレッド様((エドモンド殿下))はとても嬉しそうだった。

 しかし、包みを開いてそれが使い捨てカイロだと知って、彼がかなりショックを受けたのが私にはわかった。

 

 実は私達夫婦と息子のフランもあの使い捨てカイロをセーラから手渡されていた。

 しかしそれは贈り物というより、使い勝手を試したいからという理由だった。使い難い物をアルフレッド様の誕生日プレゼントにするわけにはいかないからと。

 使用済熱石(ねついし)を再利用した使い捨てカイロの使い勝手は最高だった。胸ポケットに入れて置けば、散歩の時も寒くない。

 冷え性の妻も膝掛けの下に置いているが、腰から下が温まると大喜びだ。

 息子もこれなら冬の乗馬も苦にならなそうだと上機嫌だ。

 これならアルフレッド様も喜ばれるに違いない、と私達は太鼓判を押した。

 

 ところが予想は外れたようだ。

 しかし正直私達も驚いたのだ。そのプレゼントを見て。

 何故ならそのカイロの袋は高級な素材を使ってはいるが、誕生日プレゼントにしては本当にシンプルで普通の日用品のようだったからだ。

 満足度調査のために手渡された私達のカイロにだって、それぞれの名前が刺繍されていた。妻の物にはなんと見事な薔薇の刺繍まで刺されてあった。

 それなのに何故?と一瞬思ったが、すぐにその理由がわかった。

 以前セーラは言っていたのだ。家族以外の人にはもう思わせぶりな贈り物はしませんと。気を使わせてしまうと申し訳ないのでと。

 

 

 誕生日会という名目の夕食を終えた後、話があった私はアルフレッド様達と共に別棟へ向かった。

 そして居間のソファに向かい合って座ると、侍従と護衛達に距離を取って欲しいとお願いし、サイドテーブルの上にこぶし大の防音装置を置いた。これがあれば同室していても半径一メートル内の音は聞こえなくなる。

 

「祖父から何か業務連絡が届いたのですか?」

 

「はい。今後の見通しを知らせよとのことです。まだここで養生するのか、それとも留学するのかと」 

 

「留学はいずれするつもりです。人脈を広げたいし、異なる文化も学びたいので。でも、それは一年後の予定です。最初にそう祖父にも伝えておいたのですが……」

 

 何故今頃それを確認しようとするのか、と殿下は少し不機嫌そうな顔をされた。だから私はこうフォローした。

 

「殿下、何事も予定は未定です。最初はこのように早く殿下が回復されるとは誰も思ってはいませんでしたからね。

 ハッサン医師も『あと数か月経てば、殿下が完全に回復したという診断書を書けるでしょう』と言っていましたよ。あと一年待たなくとも、何の支障もなく留学できそうですよ」

 

「支障……」

 

 殿下は支障という言葉に何故か引っ掛かるものがあったらしく、一人考え込んだ。

 私はそんな殿下の様子を暫く窺っていたが、意を決するとこう切り出した。

 

「殿下、どんなに時が経とうとも、行動を起こさず何もしないでいたら、いつまで経っても事態は変わりません。それは殿下が一番おわかりになっていますよね?」


「子爵……」

 

「先程娘のプレゼントを見て、殿下はとてもがっかりなさっていましたよね?」

 

「そんなことはない。良い物を頂いて嬉しかったよ」

 

「良い物ですか。フッ……

 では私が娘から貰ったこちらを見て下さい」

 

 私は上着のポケットからセーラから貰った使い捨てカイロを見せた。それは艶のある黒のビロード生地で作られた袋で、金の糸でイニシャルが刺繍されている、高級感のある物だった。

 そのカイロを見て殿下が瞠目した。

 

「とても豪華に見えるでしょう? まさか使い捨てカイロには見えませんよね。

 しかしこれは殿下に差し上げたカイロと違って、再利用の生地で作られているんですよ。穴が空いて穿けなくなった私のズボン((パンツ))でね。でも、金の刺繍が刺してあるから再利用品だなんてわからないでしょう?

 本当は人に見せる物ではないので、ここまで手間をかけなくてもよいのです。しかし、少しでも良い物を父親に持たせたいという娘の愛情なのです」

 

「愛情……では僕のカイロがシンプルなのは、僕に対して何の思い入れも無いということなのですね」

 

 殿下はがっかりしたとばかりに両肩を下げて悲しそうな顔をしたが、それを見て私は腹が立った。

 

「娘が殿下に思い入れを持つはずがないでしょう。貴方は我が子爵家の大切なお客人だというだけで、娘の友達でも恋人でも、まして婚約者でもないのですから。

 そんな方に刺繍入りのプレゼントなど贈れませんよ」

 

 私の言葉に殿下が飛び上がるほど驚いて、私の顔を凝視した。

 

「し、子爵、()()()、貴方は……」

 

()()()何ですか?」

 

「貴方も巻き戻ったのですか? 以前の記憶があるのですか?」

 

「いいえ。私と妻と息子はただセーラから話を聞いただけですよ。

 その話を聞いた時は当然驚きましたが、私達は娘の話を疑ったりはしませんでした。

 何せまるで予知能力でもあるかのように、あの子が言った通りの事が起こるし、しかもその内容があまりにも詳細過ぎたのでね。

 

 そして娘の話を聞いた時、ふと殿下のことが頭に浮かんだのですよ。

 殿下とは貴方が七つの頃からのお付き合いですが、当初から疑問に思うことがあったのですよ。いくら天才とはいえあまりにも未来を予見し過ぎると。

 それに慎重な性格でいらっしゃるはずなのに、何故か父や私や妻子に対しては、最初から信頼を寄せて下さることに。

 もちろんそれはとても光栄で喜ばしいことではありましたが、何か特別な理由があるのではないかと感じていました。

 

 そして殿下は十歳の時、いずれうちのフランシスと、カーネリアン公爵家のルイード様を側近に迎えたいと打診されましたよね? これは絶対に何かあると確信しましたよ。

 普通側近を選ぶ時期は、王族の方々の十二歳の誕生日パーティーだというのが暗黙のルールでしたからね。

 私は、殿下が何か急いで事を成し遂げようとしているのだと感じました。

 

 そもそもそれ以前から、殿下は私や宰相閣下やカーネリアン公爵と、何かと接触を持たれようとされていたでしょう?

 まあ、息子達と友達になりたいとか色々こじつけておられましたが。

 

 今から一年と少し前、殿下が毒を盛られた時、我々はすぐに犯人及び国王派を捕縛するために迅速に動きました。でも、結局あれは殿下からの適切な指示やアドバイスがあったからこそできたのですよね?

 娘から巻き戻りの話を聞いた時、私はようやくそのことに気付いたのですよ。殿下も娘同様にこの世界を巻き戻られたのではないかと。

 そして真の意味で私が確信したのは、貴方がこちらに保養にいらしたことですかね。

 まあセーラの話を聞いた時から、かつてこの地に静養にやって来たという少年は、エドモンド殿下に違いないと思ってはいましたが」

 

 そう私は殿下にそう告げたのだった。

 読んで下さってありがとうございました。

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