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第11章 婚約

 十章の内容を少し変更しました。

最初の方に、

「そう。アルフレッドとは偽名で、本当の名はエドモンド。

 この国の第一王子で、暗殺されなければいずれ王太子になる筈だ」

という文章を加えました。



 聖水の露天風呂に入るようになっても、なかなか顔色と髪のパサつきが改善されなかったアルフレッド様だったが、半年を過ぎた頃からようやく少しずつ効果が現れ始めた。

 七か月過ぎにはアルフレッド様の顔色はすっかり明るくなり、髪の毛にも艶が出てきて、正しく烏の濡れ羽色になったのでホッとした。相変わらずそばかすや黒子(ほくろ)はあったけれど。

 

 アルフレッド様は元々綺麗な顔立ちをしていたが、ますます美しく素敵になった。ドレスを着たら王女様にも見えるかも。礼儀作法も立ち居振る舞いも洗練されてお上品だし。

 

 ふと、アルフレッド様の姿がかつての婚約者の姿と重なった。

前の人生で、留学から戻ったばかりのエドモンド殿下と私が初めて出会ったのは、今のアルフレッド様や私と同じ十二歳の時だった。

 

 そういえば、エドモンド殿下の誕生日パーティーで初めて挨拶を交わした時も、王子様じゃなくて王女様が冗談で男装されているのかと思った。

 金髪碧眼の麗しい美少女。まるで伝説の黄金の薔薇のようだと、私は思わずうっとりと見惚れてしまって、エドモンド殿下に話しかけられても上の空だった。

 そしてその結果、私はエドモンド殿下の婚約者になってしまったのだ。


「ミモザ嬢、貴女に一目惚れしました。貴女を愛しています。どうか僕の婚約者になってください」

 

 殿下からそう言われて頷いたというのだが、私には全くその時の記憶がない。そしていくら私がそう主張しても、その声が舞い上がった両親の耳に届くことはなかった。


「助けてアルフレッド様!」

 

 私は自分の部屋で、異国へ留学してしまった初恋の人の名を呼んだ。

そう。私はアルフレッド様が留学した後で、彼のことが友達ではなくて異性として好きだったと気付いたのだ。

 しかし、留学先だけでなく、彼の屋敷がこの国のどこにあるのかも知らなかった。だから自分から連絡をとることはできなかった。だから、手紙が来るのをずっと待っていた。

 しかしアルフレッド様から手紙が届くことはかなかった。 

 つまりそういうことだ。わかっていた。

 アルフレッド様と過ごした三年間は、私にとっては特別なものだったけれど、彼にとっては思い出しもしない無価値なものだったということだ。ただそれだけ。

アルフレッド様が今どこにいて、自分をどう思っているのかもわからないに、一方的に思い続けて何の意味があるのだろう。

 

どうせ王家からの申し出を断ることはできないのだ。両親も大喜びしているし。

私は七日七晩泣き続けてようやくアルフレッド様への思いを断ち切り、エドモンド殿下と真剣に向き合う決心をしたのだった。

 

 そして時が流れ、いつしか私はエドモンド殿下を心から愛するようになっていた。

 エドモンド殿下はとても優しく誠実な人で、いつも国を良くしたい、国民を豊かにしたいと言っていた。 様々なアイデアを出しては、祖父である前国王陛下に進言されていた。そしてそのいくつかは既に実行されていた。

 

洪水を防ぐために山間部に砂防ダム建造したり…

農地を広げるために荒れた草原に水路を整えたり…

職を斡旋するための紹介所を開設したり……

 

 ただしそれらは現国王の名によって発令され施行された。それでも、エドモンド様は名より実をとる方だったようで、そのことに何の不満も無いようだった。

 いや、寧ろそれを望んでいたのかもしれない。あまり目立つ行為をすると、現国王派の碌でもない連中に目を付けられてしまうから。

 だから私も、殿下の成果を父に告げることはなかった。私の父であったコールドン侯爵は、私利私欲に走る強欲な貴族の集団である現国王派のトップだった。だから、彼が優秀な国王など望んでいないことを私は知っていたのだ。

 

 

 でも、私は本当に愚かだったと思う。

 地味顔、平凡な容姿で、女性として何の魅力も無かった私。エドモンド様には不釣り合いのそんな自分が何故婚約者に選ばれたのか、そのことを真剣に考えようともしなかったのだから。

 

『君は他のご令嬢とは違って賢い。そして勤勉だ。君は王妃に相応しい女性だ。この国のために力を貸して欲しい』

 

 エドモンド殿下から言われたその言葉の真の意味を、私は全く理解していなかったのだ。

 お妃教育をして下さった王太后陛下から、無事終了したとお墨付きを頂けた私は、確かに王妃にはなれたかもしれない。しかしだからと言って、エドモンド殿下の妻として相応しかったわけではなかったのだ。

もっとも彼が必要だったのはこの国のために偏に尽力してくれるパートナーであり、個人的な好き嫌いなどどうでも良かったのかもしれないが。

つまり王妃としての役目が務まる者ならば、別に私でなくても良かったのだ。

 その証拠に私は、エドモンド様から愛しているという言葉を一度も貰えなかったのだから。

 

『エドモンド殿下が貴女に一目惚れしたのですって。

 貴女を愛している。貴女とでなければ誰とも婚約しないって仰ったそうよ。普段わがままなど一切仰らない殿下が……

 ミモザは本当に殿下に愛されているのね。貴女は幸せね』

 

 思い返してみると、私は母のこの言葉でエドモンド殿下に愛されているのだと思い込んだのだ。

 そのことをやり直しの人生で気付いた時は、声を出して笑ってしまった。

 なんて鈍感なのだろう。バーバラの言った通りじゃないの。私以外の人間は全員エドモンド殿下の気持ちをわかっていたというのに、私だけ気付かなかったなんて。

 

 エドモンド殿下はパートナーとしての私が不用になったからバーバラに乗り換えたのだ。

 元々、目の上のたん瘤だった父コールドン侯爵からの情報を入手し、懐柔するために娘の私を利用しようとしたのだろう。

 

 ところが、私は両親に愛されていない上に、融通が利かない人間だった。その上容姿も悪く、貴族社会の笑い者で社交の役にも立たない、そんなハズレ令嬢だったのだ。

 たとえ実の娘であってもなんのメリットもない私より、可愛がられている姪のバーバラの方が父を懐柔するのに役に立つと考えたのだろう。しかも彼女は美しくて華もある。

 仮にも六年もの間婚約者として側にいたのだから、エドモンド様の思考はある程度わかる。彼が本気でバーバラを愛していたわけではないことくらい。

 これは決して嫉妬心からそう思うわけではない。

 

 エドモンド様は優しく慈悲深い方だ。しかし、本気で誰か特定の女性を愛したことがあるのだろうか? 

 もしかしたらどこかの国の女王様のように、国家と結婚しているから、誰か特定の人は愛さないという方なのかしら。

 

 結局私は、領地の人達以外からは愛されなかったのだ。

 エドモンド殿下もそしてアルフレッド様だって、所詮上辺だけ優しくしてくれただけだ。

 もちろん彼らが悪いわけではない。私が勝手に好きになって勝手に失恋して勝手に傷付いただけだ。

 

 でも私は、今度こそ同じ失敗はしない。

 私を不要だと言った人々やこの国のことより、私を愛してくれたこの領地や領民のために働く。

 結婚してここを離れるなんてとんでもない。たとえ平民になって独身を貫いたとしても、できることはいくらでもあるのだから。

 

 

 巻き戻った今、状況が以前とはかなり違ってきているにもかかわらず、結局私はこうしてアルフレッド様のお世話をすることになった。

 ただし、以前のように彼と友人になったり、ましてや恋をするつもりはなかった。これは私が護衛騎士に向いているかどうか、そのお試しに過ぎないのだから。

それでも痩せ細ったアルフレッド様を見た瞬間、やはり心が痛んだ。そして、早く元気になって欲しいと心から思ってしまった。

 

 せっせと世話をして、さっさと丈夫になってもらい、とっとと隣国へ留学してもらいたい。

 当初の予定より少々時間はかかってしまったが、鉱泉露天風呂による効果がようやく表れ始めた。このまま順調に行けばアルフレッド様の療養生活もまもなく終わるだろう。

 早くその日が来て欲しい。そうでないと私はまた失敗をしてしまいそうだから・・・

 

 読んで下さってありがとうございました。

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