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Q.俺が何した?A.お金を貸した


 始まりは約6年前。

青年が合宿免許から帰宅する前日の夜だった。


『解体で働いてるトコの上司が飛んだ。金が必要だから貸してくれないか?』


 高校時代の学友から、こんなメッセージが届いた。


 青年的には、高校時代そいつに世話になった事が多い。

ロードバイクを安値で譲ってくれたり、プレステ4を安値で譲ってくれたり、こんな自分に卒業後も付き合ってくれたりと。


 そんな友達が困っていると知って、青年は力になってあげようと思った。


 合宿免許から帰り、青年の自宅最寄駅の一駅手前で待ち合わせ、そこで現金4万円を渡した。


 すぐには返せないと言われた。

そいつは当時、解体業に就いていたので、割と稼げるという話ではあった。

だが、上司が飛んだ関係で他にも借金をしているらしく、その合計40万。


 その話を聞き、「こいつも大変なんだなぁ」と、青年も長い期間待つ気ではいた。


 正直自分はバイトの身で、合宿免許もローンを組んで行ったくらいだし、生活も厳しいところはあった。

そんな中で4万という大金を他人に貸して、本当に大丈夫だろうかと不安でもあった。

その時は、「返っては来るだろう」、「飛ばれた経験をしている人間が飛ぶ訳ない」、そう思っていた。


 それが大きな間違いだと気づくのに、6年もかかってしまうとは……


 それから4年ほどの月日が経った2月。

ちょくちょく返ってきては、支払い忘れがどうだとか、財布をスられてどうとかで、追加で貸したり、合計金額が4万ほど。


 そんな中で、とんでもない話が出てきた。


『解体の仕事キツすぎて辞めた。今他県でホームレスしている』


 ……は?


 この時ばかりは、青年も送られてきたそのメッセージを何度も読み返した。


 詳しく聞けば、解体をやめて他県で働こうと思ったが、うまく職に就く事ができず、ホームレス生活を余儀なくされているという。

借金を返す算段どころの話ではなく、生きるのも危うい状態だ。


 流石に世の中を舐めすぎではないか?

いや、夢を追い続けて20越えてもバイト生活を続けている自分が言うのも何だが。


 とにかく、色々な所で面接を受けては、落とされるという日々が続いているらしい。


 そんな状態で極度の飢餓状態が続き、限界だから追加で借りれないかと言われる始末。

流石にここで死なれたら今まで貸した物も返ってこないだろうと、青年は追加で貸すことを承諾した。


 それから数ヶ月後の春終わり頃。

何故か知らない番号からそいつに金を貸し青年が返す算段になっている旨のSMSメッセージが届いたり、色々な面接を受けてはいるが駄目だという連絡が入ったりと様々な事があった。


 哀れに思った青年は、自身のバイト先を紹介する事にした。

内心、飛ばれない用の保険に身近に置いておく、という目的もあったが、流石に同情もした。


 そして、地元の滋賀県に呼び戻す為、交通費として2万円提供した。


 これで貸した金額は合計9万。


 あろう事か、そいつは面接に応募すらしなかった。

青年的にはどうもモヤモヤしたが、別の所で職に着けたと言うので一応納得した。

地元には居てくれるわけだし。


 その年の終わり頃。

金額も金額だし、青年はそろそろ返して欲しいので、催促のメッセージを送る事に。


 返ってきた返信は——


『おばあが二週間前からボケた。家が大変で色々としんどい』


 だった。


 そんな事、大変だろうとは思うがこっちは知った事じゃない。

返せるかどうかの話をしている。


 そう問い詰めると、『おばあを施設に入れる為に貯金を回したいから、もう少し待って欲しい』との事だった。


 月に2、3万貯金しているという話を聞いた青年は、『じゃあ、4ヶ月待つからしっかり用意するように』

と強く言った。

期限の延長はなし、4ヶ月経ってその時点の貯金で返済してもらう、5万円以上足りてなければ消費者金融に直行してもらう。

その条件で、返済期限の延長を承諾した。


 そのわずか2日後だった。


『色々と支払いが重なってキツイから、追加で2万円貸してくれないか?』


 そんな連絡が来たのは、そいつの給料日から8日後の事。

流石にツッコんだが、そうだとしか返って来ず。


 借用書を用意するのであれば貸してやると青年は言ったが、実印をなくしているからそれも出来ないと言われる始末。


 あり得ない。

今までどう生きてきたんだこいつは?


 一応今まで飛ぶ事なく返信してくれていたので、それを信用に置いて、追加で2万円貸す事にした。

ただし、3月に用意できなければ本当に消費者金融に行ってもらうと念押しして。


 そして、年が明けてしばらく経った2月の初日。


『ヘルニアの治療に金が必要だから、もう2万円貸してくれ。その2万は次の週の木曜日には必ず返すから』


 そんなメッセージが届いた。


 まあ、今まで散々待っているし、次の木曜で返ってくるなら良いだろうと、青年は追加で2万円貸してやった。


 そして、件の木曜日。

そいつは、連絡を一切よこさなくなった。


 青年がメッセージや電話を掛けても、何も反応がない。


 やりやがった。

今まで散々金を貸したり、返済を待ってやったりしたのに、そいつはついに飛んだのだ。


 青年は頭に来て、そいつの実家まで足を運んだ。

しかし、インターホンを押しても、本人どころか家族も出ない。

誰かが住んでいる形跡はあるのに。

2日間、そいつの実家を訪ねたが、やはり結果は同じだった。


 まんまとしてやられた。

きっと、3月に返すと言っていた11万も、初めから返す気はなかったのだろう。


 合計13万。

青年は、自分が今まで汗水流して働いて稼いだ貴重な13万を、ドブに捨ててしまったのだ。


 飛ばれた経験のある者が飛ぶ事はないだろう。

これは間違いだ。

どんな経験をしていても、飛ぶ奴は飛ぶし、返さない奴は返さない。

高すぎる勉強代と、6年という歳月を経て、青年は思い知らされたのだった。


 もう二度と他人に金は貸さない。

迂闊に他人を信用しない。

青年は強く心に誓った。

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