第128話 会長とニクの再会
おちょぼんと会長が、しろちゃん家でお泊りをした夜のこと。
おちょぼん「おじいちゃん、もう寝た?」
会長「ん、なんだい?まだ起きてるよ♪」
おちょぼん「あのね。前に、おばぁちゃまに将来何になりたいのか尋ねられたとき、私は特に思いつかなかったから、なんとなく弁護士かお医者さんかなって答えたの」
会長「ほぉ、おちょぼんなら賢いからなれるんじゃないですか♪」
おちょぼん「でもね、おばぁちゃまに医者はやめておきなさいって言われたの。なんでだろって」
会長「、、、。それはおそらく、おちょぼんの答え方次第だったのではないかと思います。弁護士さんも人の人生に関わる仕事ですが、お医者さんは人の命を預かる仕事ですからね。おちょぼんの答えにはまだその覚悟というものが感じられなかったからではないかと」
おちょぼん「なるほどね」
会長「ええ、おちょぼんは知らないと思うけどもね。おばぁちゃんは、お医者さんを目指してたんだよ」
おちょぼん「そうなの!?」
会長「うん、でも私と出会って子供が生まれたことでその道は諦めたそうです。だから本音では、おちょぼんがお医者さんを目指すというのは嬉しかったんじゃないかと思いますよ♪」
おちょぼん「そっか、そういうことか。おじいちゃん、ありがとう。これでモヤモヤがなくなった♪私、覚悟を決めた(笑)」
会長「それは良かった♪私もおばぁちゃんも、おちょぼんを応援してますからね」
そして。
おちょぼん「スースー、、、」
会長「おちょぼんは眠ったようですね。私は、ちょっとおトイレにでも」
会長がそっと客間の襖をあけると、そこには猫がいたのでした。
会長「おや。君は、しろちゃんの新しいご家族ですね♪私は会長と申します、おトイレをお借りしようと思いまして」
ニクはついてこいといわんばかりに、会長をトイレのほうへと誘導しました。そして。
会長「ありがとうございます♪おかげで漏らさずにすみました(笑)君は人間の言葉がわかるようですね♪」
ニクは「ニャア♪」と返事した。
そして会長が部屋に戻ろうとしたところ、ニクはまたついてこいといわんばかりに今度はリビングへと誘うのでした。
会長「はて?どうしたことやら」
会長はそのままニクの後をついていき、リビングのソファに腰かけました。
会長「これで良いのかな?」
ニク「ニャア♪」
会長「君は人間の言葉がわかるようですが、言葉を話すことは出来ない。つまり、私に何か秘密を聞きたいことがある。違いますか?(笑)」
ニック「ニャア〜♪」
会長「正解のようですね♪なるほど、君のことがなんとなくですがわかってきたようです(笑)なら君を信頼のおけるシュレディンガーの猫として、お話しましょう♪」
そして。
会長「かつて私の教え子の中で二人の優秀な生徒がいました。そのうちの一人は、のちに世界的な発明をする事になるのです。ただ最後のほうで彼はある発明を諦めることになりました。いや、彼に諦めさせたのは他でもないこの私なんです」
ニクは「ニャア」と元気のない返事をしました。
会長「彼は無欲でした。そのぶん時代を急ぎすぎたのかもしれない。しかし時代の流れが急激に加速するのを当時の私は危惧しました。科学の早まりは社会の繁栄と同時に衰退を早めることになると。ただそのせいで彼は表舞台から消えることになりました」
ニク「ニャア」
会長「後悔はしています。ですが彼ならその意味をわかってくれるだろうと。そしてその償いもあり、のちに私は彼の後を継ぎその研究を続けたのです」
ニクは驚いた瞳で会長の話を聞くのでした。
会長「そう。科学の進歩というものは平和利用と共にその真逆の利用をも可能にしてしまうものですから、あのままそれを見過ごすことは出来なかったのです。アインシュタインが核の原子力を後悔したように」
ニクは「ニャア」とだけ答えました。
会長「正直素晴らしい技術だと思いました。世界のエネルギー問題を解決することは間違いなく、歴史はさらに変化していたことでしょう。人類が月へ行くように劇的な歩みを進めることになると。ただそれは同様に人類の文明も早く終わらせてしまう原因にもなるのです。だから私は世に出ることがないようその【神の雷】とも言える技術を幻にする事を選んだのです。それがまだこの世界にミサイルというものが残っているという答えでもあるかと」
ニクは会長の話に満足したように「ニャア♪」と答えました。そして会長の手をペロリと舐めたのでした。
会長「不思議ですね、君に打ち明けたことで何か長年の胸のつかえが取れたようです♪豆ではなくてね(笑)では皆さんが起きてくる前にもう一眠りいたしますか」
人類の歴史は長きに渡り多くの人の手により紡がれてきたものですが、人ひとりひとりの人生というものはおおよそ百年足らずの儚く短い期間であり、その中で生まれた軌跡もその大半は夢幻の如くにして忘れさられゆくものかと思われます。私は創作することでそれらが暗に実在していたという証を残すことにしたのですワラ。めでたしめでたし♪