第122話 新しい家族の誕生(第三部開始)
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
何処で生まれたのかはよく覚えてないが、雨風をしのぐため家主のいない犬小屋の中でニャーニャーと鳴いていたらヒョイとつまみあげられ、今此処に居るというわけ。あとで聞くにはド畜生で町一番の【しろちゃん】という人間に拾われたらしい。
シロウ&あんこ「ハァ〜」
しろちゃんの膝の上には一匹の猫が乗っているのでした。
シロウ「あの、まさか飼うつもり?」
しろちゃん「飼い主が見つかるまでだってば」
あんこ「生き物を最期まで責任を持って飼うのは大変だって、しろちゃんもしろたんに言ってなかったっけ?」
しろちゃん「でもこの子、ノラで弱ってたし。それに頭も良いんだよ?会長の犬小屋で雨宿りしてたんだ」
シロウ「ふむ、コレのいったいどこが?」
猫はそれまで眠そうに虚ろにしていた目を見開きシロウに若干キレ気味のガンを飛ばした。
しろちゃん「ほらね?人間の言葉を理解してるみたいなんだよ」
シロウ「ええ〜たまたまなんじゃないの?」
あんこ「飼うなとは言わないけど、ちゃんと世話できるの?」
しろちゃん「え!?良いの?」
あんこ「だってこの寒空の中、いきなり放り出すのも可愛そうだし。ねぇ?」
シロウ「まぁ成り行き上なら仕方ないけど、大事にしてあげるんだよ?」
しろちゃん「やったぁ!うん、大事に飼うよ♪ありがとう〜!」
と、そこへ。
四葉「ただいま〜。あら?猫ちゃんじゃない?」
そして一緒に帰ってきた、しろたんも。
しろたん「うわ〜、可愛いねぇ♪」
猫は、しろちゃんの膝から飛び降りると、しろたんの足に駆け寄りスリスリしました。その足はあの短かった頃の足ではなく、どこかスラリと伸びており。
そうなんと、しろたんはあれからもう中学生になっていたのでした。
しろたん「この子、名前もう付けたの?」
しろちゃん「ん、まだだよ」
四葉「じゃあ、強そうな名前はどうかしら?ゴリアテとか」
猫は、それはちょっと簡便してもらえませんかねという表情で片手を左右に振るポーズをしました。
しろちゃん「ね?この子、やっぱり人間の言葉を理解してるんだよ!すごくない?」
四葉「じゃあ、なおさらゴリアテのいったい何処が嫌なのかしら?」
シロウ「脳筋ぽいからなんじゃないかな?だったら知性の塊みたいな感じでテセウス、いやシュレディンガーってのはどう?」
あんこ「シュレッダーねぇ。カッコいい名前だけどなんで?」
シロウ「箱を開けてみるまで生きてるか死んでるかわからないって有名な物理学者の名前だよ。てかシュレッダーにかけたら開けるまでもなく駄目なのがわかってるだろ(笑)」
あんこ「あーソッチね、知ってるわ。フランダースの犬みたいなやつね」
猫はなにやら恐ろしいことを言ってる二人に怯えるも。いやでもソレ、そもそも猫の方の名前じゃないよね?たまに間違えてる人いるけども。てかフランダースに至ってはもはや犬じゃんという落胆の表情を浮かべ「ニャ〜↘」と鳴いた。
しろちゃん「なんか良い線は行ってたみたいだけど、ちょっと違うんだよなと言いたいぽいね」
あんこ「しろちゃん、猫の言葉がわかるの?」
しろちゃん「まぁなんとなく。しろたんは、なんか思いつかない?」
しろたん「えぇ〜、ンー。じゃあ【肉】はどう?」
四葉「ハァ、いくらウチが質素倹約だからって食べ物に見えてしまうなんて。育て方を間違えたのか、しろちゃんの影響なのか」
しろたん「いや、食べないよ(笑)ほら、この子の肉球がぷにぷにしてるから♪」
四葉「ホントだ、柔らかくて気持ち良い〜♪」
しかし猫はその「ニク」という言葉に何か閃きのようなものを感じたようで、めちゃくちゃ惜しいところまで来てるよ、あともう一声!という期待感の現れのような表情を見せました。
しろちゃん「じゃあ、ニクに決定〜!」
猫は盛大にズッコケたのでした。
シロウ「じゃあ、これからみんなでちゃんと世話してあげような?約束だぞ」
一同「はぁ~い♪」
しろちゃん「良かったね、ニク♪」
吾輩はそう、この家庭でニクと呼ばれることになった名前の猫なのである。めでたし、めでたし♪