第117話 会長の孤独なグルメ
都内で行われる経済界の会合に出席していた会長。そしてその帰り道。
会長「新幹線の時間にはまだ少し早いようですね。こういう時は何処か知らない個人のやってる飲食店にフラっと入るというのが乙なものです♪」
オフィスビルの立ち並ぶ駅近くの脇道を少し入った所に、年季の入った喫茶店の看板を見つけた会長。
【SAN BEYONDE WA RASSELL】
会長「サン ビヨンド ワ、ラッセル?ふむ、どういう意味かしら?まぁいいや、こういういかにも個人がされているような昔ながらの喫茶店グルメって期待してしまいますね♪」
カランコロン。
マスター「いらっしゃいませ〜」
会長「ほう。ジャズ喫茶ですか、良いですねぇ♪」
マスター「え?いや、ウチはそういうのはやってないですけど」
会長「あれ、違いましたか?今流れてるBGMがジャズだったものでつい(笑)」
マスター「あ、【ジャズ喫茶】ね?いや【茶漬け】に聞こえたもので、このお客さん何を言ってるんだろうって(笑)」
会長「これは失礼しました(笑)いきなり喫茶店で、お茶漬けを頼まれても困りますものね。パプリカとアフリカを聞き間違えるようなものですか(笑)」
マスター「ソレは流石にないと思いますけど(笑)」
会長「そうですよね、いやいや失敬(笑)あのランチの注文をしてもよろしいでしょうか?日替わり定食のハンバーグで」
マスター「はい、かしこまりました♪」
マスターは、お冷やを机に置くと料理を作りに厨房へと入っていきました。
会長「あら、おしぼりがよく冷えてる。なるほど、オフィス街に店を構えてるだけあって、外回りで汗をかいてるであろう営業マンやOLさんが来ることを考えての粋な心づかい。そして何よりこのお冷や、レモンのかすかな風味を感じます。カラカラの喉で来店された、お客様にまず口の中をさっぱりとしてもらおうという細やかな気配り。これは中々期待できるのでは無いでしょうか♪」
マスター「お待たせしました、ハンバーグランチです」
会長「これは美味しそうですね♪あのマスター、お冷やのおかわりいただけますか?喉が乾いていたもので。これレモンが入ってるんですよね?」
マスターはコップにお冷やを注ぎながら
マスター「ええ♪先代からずっと継ぎ足しで入れてます。レモンと水道水を」
会長「継ぎ足し?水道水?」
マスター「ハハッ、冗談ですよ(笑)」
会長「そ、そうですよね(笑)ちょっと驚いちゃいました。ところでこのハンバーグ、とても良いお味をされてますね。口当たりがなめらかで、ふんわりとしていてとろけるような柔らかさ。そして何よりジューシー♪」
マスター「わかります?まだ誰にも触れられていないであろう赤く濡れそぼった合い挽きミンチの果実を優しく手に包み込み、焦らすようにしながら捏ねくり回す感じで作ってるんですよ」
会長「なんだか表現が官能的な気もしますが(笑)それだけ丁寧なお仕事をされてるということですね♪」
マスター「ええ、母がね。私のお弁当を作るついでにランチの仕込みも頼んでるんですよ(笑)」
会長「お弁当、、、。そのついでに?いや、どおりで温かみのある、どこか懐かしいおふくろの味がすると思いました♪」
マスター「ええ、母が現役だった頃の味を求めて通われてるご年配の方もいらっしゃるので(笑)」
会長「あ、そういうことですか。お母様が引退された後も常連さんが困らないようにと?」
マスター「そういうことです(笑)ウチの店名、わかりづらいでしょ?あれ【3秒で笑わせる】って意味なんですよ。どんなお客様が来られても食事の後は笑顔で帰っていただけるようにと名付けたそうです」
会長「ソレわかります♪今の私がまさにその通りですから(笑)またコチラに来たときは是非寄らせていただきますよ♪」
マスター「ありがとうございます♪心より、お待ちしております」
こうして会長は心とお腹が満たされる隠れた名店を見つけられた喜びを感じながら、鬼のいる家へと帰るのでした♪めでたし、めでたし♪