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魔ッポは時間とも勝負です!

親知らずの痛みで何も手につかず…更新遅れてしまいました

「なにを考えてるんだおまえら。緊急逮捕? 勝算はあるのか? アン、お前がついていてどうしてこうなった。こいつらが何かしでかすのは予想できただろう。そもそもな、まず上司に相談するってことを覚えろ。おまえらは昔から……」


詰所に戻りアリソン部長に呼び出された僕たちは、現在の事情を説明したところ大変お怒りになって目下のところお説教真っ最中だった。

違法薬物栽培、販売の容疑者を緊急逮捕したとのことで朝一で部長も急いで出勤したのだろうか、いつもビシッと決まっている七:三の髪型からはらりと一束二束乱れた前髪が何度直しても垂れ落ちてくる。


「大変申し訳ございません! 大変申し訳ございません!」

「勝算はありません! 見切り発車です! ですが! 俺の見立てではイケる方の見切り発車です!」

「ぶちょー、絶対やってますよ彼女。だから止めなかったんですよあたし。てかイケる方てなに?」


各々が言いたいことを好き勝手に発言しているので混沌とした空間になってしまった。

うつむきつつ呆れたようにため息を溢しながら聞いていた部長は、僕らに書類を差し出した。


「これは……?」

「もしやクビ?」

「え!? あたしも!? ちょっとぶちょー! クビにするならこいつらだけにしてください! あ、そうそう、石碑泥棒コイツです!」

「ちょっ、おいふざけんなおまえ!」


血の気が引いた僕の目の前で喧嘩を始める二人。

どういった家庭環境だったのかお互いの胸倉と髪の毛をつかみあい取っ組み合いの様相だ。

デルーマン先輩の赤髪はぶちぶちと抜けていき、アンネ先輩は掴まれた胸元から平らな胸部と、もはやさらしにしか見えない下着が見えている。

幼いころからこんな喧嘩を日常的にしていたのならアンネ先輩の凶暴性にもうなずける。


「石碑泥棒……? まぁそれは後で聞く。ひとまず落ち着け。おい、ブルム。ちゃんと読め」

「は、はい……。これは、内定調査報告書?」


手に取って見るとそれらの書類は例の娼館の女性たちや街のゴロツキの内定調査の報告書だった。

書類に目を滑らせれば、そこにはここ最近様子がおかしいと思われる人物たちの金の動き、日常の行動が詳細に記録されていた。


「おまえらが捕まえたのはマトリの獲物だ。連中がここ最近目を付けてた麻薬に関連する人物の資料を流してもらった。なかなか尻尾を捕まえられなかったようだが、今回一気にネタを握ったってところだろう。おまえらが勇み足の緊急逮捕さえしていなければな」

「……………」

「……………」

「……………」


マトリとは麻薬取締部の略称で潜入捜査などを得意とする麻薬専門の部のことを指す。

彼らが目を付けマークしていた人物に僕たちがちょっかいをかけたことになってしまったらしい。

極秘に潜入していることの多い彼らとのいざこざはよくあることはよくあるのだが、大抵はどちらかが逮捕まで行きつく前にお互いの存在をなんとなく察知し水面下で確認を取ったりするものだ。

今回は一晩の間に僕らが事件の匂いをかぎ取り一足飛びに逮捕に踏み切ってしまったので裏取りをしていたマトリはカンカンといったところだろう。


「やってくれたな」

「返す言葉もございません」

「当たり前だろう」


本来であればもっとしっかり足場を固め言い逃れできないよう証拠を万全の状態にし、起訴が確実にできるところまで持って行ってからの逮捕となる。

部下は確実性に欠ける逮捕を実行し、マトリに苦情を散々言われた部長の心中は穏やかではないことは間違いない。


「……こうなったら仕方がない。なにがなんでも十日間の間に証拠を固めて起訴まで持ち込め」

「もちろんそのつもりです」

「ただ、部長。不安な点が」

「なんだ」

「例の新種の麻薬。現在この国では禁止薬物として指定されていない可能性が高く、そちらの問題をどう解決するかが難しいように思っております」


僕は率直にヘレナさんの指摘した禁止薬物のルールに対する抜け穴の問題を投げかける。

実際、ここで引っかからなければただの精力剤を使って販売していただけのことと逃げ切られてしまう。

現状で僕が考えている方法は一つ。


「なので、いったんは彼女の余罪に対して捜査を行い、別件にて逮捕まで持ち込むのはいかがでしょうか」

「それで彼女の勾留期間も伸ばして服役中に禁止薬物の法改正があればそっちでもう一回引っ張るってことね。まぁあたしとしてもそれしかないと思うなぁ」


今回のように大きな疑いがあるにも関わらず証拠が不十分で、かつ逃亡の恐れがあるような場合には一旦容疑は何でもよいので(それも問題ではあるのだがあくまでほぼ犯人と確信がある場合だ)逮捕し、勾留期間中に余罪でまた逮捕、そして勾留期間の延長、というのもまた王道パターンである。

その延長期間中に証拠を固めたり、別件で逮捕してその服役中にさらに捜査を進めるのだ。


「今回はそれがいいだろう。しかし、彼女になにか余罪はあるのか?」

「いやぁ、調べてみないとなんとも」

「部長。セクシーな女には一つや二つヤバい秘め事があるってもんですよ。ま、あたしにはないけど」

「おまえ、お世辞にもセクシーではないもんな」


僕が曖昧な返事をし、なんとかこの場を凌ごうとしている横でアンネ先輩にチャチャをいれて思いっきり爪先を踏みつけられたデルーマン先輩が無言で悶絶している。


「事実だろうがよぉ!」

「うっさい。自分で言うのは良いけどアンタに言われるのはむかつく」

「おまえらなぁ……」


なにはともかく彼女の別件での逮捕に向けて身辺調査を改めて綿密に行うことが捜査方針として決まった。

あくまで僕らの起こしたトラブルなので人員は多く割いてもらえず、駆り出せたのはクライフ・ペルノのペアとマトリの風俗街担当の一人、都合六人での捜査になった。

しかしクライフさんは現在のところ魔獣密漁の方へ応援に出ていてこちらに戻るのは数日後とのことで実質五人の班となる。

部長の部屋を出た僕らは早速手分けして捜査に当たることにした。

いかんせん時間との勝負だ。

あと十日間、逮捕して数時間経過しているので九日半の間にどうにか彼女を再逮捕する口実を見つけねばならない。


「とりあえず、あたしは彼女の取り調べに当たるわ。補佐は適当にヒマしてそうなやつ付けとく」

「おっけ。俺はルイジのところ行ってなんか適当なこと言って例のハッパ持ってくる」

「じゃあ僕は風俗街で例のマトリの人と合流してなにか情報ないか聞いてきます」

「おう、頼んだ。ハッパ持ってきたらアンに渡すから分析班に回して割り込みで見てもらってくんない?」

「りょ。ペルノには«連絡コンタルテ»で事情伝えといたから、あとでジルと合流するように言っておく」

「あざます。あ、こっち来るとき私服でって言っといてください」

「そんじゃ、またあとで!」


こうして再逮捕のタイムアタックに当たることになった僕たちはそれぞれの持ち場へ飛ぶように散っていった。

と思いきや走り出したデルーマン先輩が振り向きざまに大声で言う。


「あ、おまえさらし見えてるから身なり正しとけよ!」

「ふざけんなスポブラじゃコラァ!」


……大丈夫だろうか。

不安になるが無視して急ぎ風俗街へ向かう。

早足で歩きながら再度合流するマトリの相棒の名前を確認する。

ベント・ガセット。

記憶からどのような人物だったか引き出す。

変装の達人、痩身で小柄、一匹狼、謹慎二回のトラブルメーカー。

……大丈夫だろうか。


ため息をつきつつも足を止めることなく進む。

もう間もなく陽は頭上真上まで登って来ようとしていた。




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