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大晦日の夜~利香の後悔

胸糞注意です。

「どうしてなの...」


 彩希の消える背中に呟く。

 分かってる、自分の身から出た錆で全てを失った、でも何とかやり直したい。

 家族との仲を、辞めてしまった学生生活を、悠太との関係を...


「大丈夫ですか?」


 しゃがみこんでいると、通りすがりの女性に声を掛けられた。

 心配そうな顔で私を見る。

 忙しい年末、私なんかに構ってる暇なんか無いだろうに。


「大丈夫です」


 何とか立ち上がり、雑踏の中に。

 涙は止まらない。

 道行く人は私を見ると驚く、きっと酷い顔をしているのだろう。


「馬鹿よね」


 行く宛なんか無い、結局街を彷徨(うろつ)いた私はチェーンのハンバーガーショップに。

 端っこに席を取り、注文したコーヒーを一口啜る。


「苦い」


 ブラックのコーヒーは苦くて、美味しく飲めそうも無い。

 悠太はどうしてこんな苦いのを平気な顔で飲めるのだろう。


「....悠太」


 浮かぶのは悠太の優しい笑顔。

 幼馴染みの悠太は保育園からずっと一緒。

 小学校、中学校、そして高校までずっと一緒だったのに。


『さよなら』

「ウップ」


 不意に浮かぶのは忌まわしい記憶。

 ハーレム野郎と悠太の前で交わした激しいキス、絶望する彼の顔だった。


「ゲェェ...」


 トイレに駆け込み便器に踞る。

 朝から何も食べて無い、飲んだばかりのコーヒーが胃液と共に吐き出された。


「どうしてなの...」


 同じ言葉を何度も呟く。

 誰も答えてはくれない。

 大切な幼馴染みで、大好きだった筈の恋人をどうして私は裏切る事になってしまったの?


「お客様、大丈夫ですか?」


「は、はい」


 個室の扉がノックされ心配そうな声、きっと店員だろう。

 慌てて立ち上がり、元の席に座る。

 時折、先程の店員が私の様子を窺う。

『面倒事は止めてくれ』そんな心の声が聞こえてくる。


「ん?」


 携帯からメールの着信、お父さんからだ。


[利香、早く帰って来なさい。友加里も心配しているぞ]


「嘘ばっかり」


 姉さん(友加里)が私を心配なんかするもんか。

 大学の下宿先から父さんが無理矢理帰省させたのは分かってる。

 きっと私の今後を家族で話し合う為だろう。


『利香、阿久津に近付いちゃ駄目ってあれ程言ったでしょ!』


 私が阿久津のハーレムに入った事を知った姉さんが言った。

 1つ上で阿久津と同学年の姉さんには分かってたんだ。


 アイツの狡猾さを、女を自分のステータスの道具としか見てない事を、性の捌け口としか考えて無い奴って事に。


 上辺のアイツは人が善く、誰にでも優しく、なによりイケメン。

 話題も豊富で恋愛にも詳しい。

 馬鹿な私は悠太の事を相談する内に完全に絡め取られた。

 私だけじゃない、真弓先輩も...


「...伊藤彩希」


 悠太の1つ下の妹。

 私なんか足元にも及ばない綺麗な子。

 昔は一緒に遊んだ、私を『利香姉ちゃん』と慕ってくれて、妹だった私は本当嬉しくて、可愛い子だった。


 高校2年の時、彩希と悠太には血の繋がりが無いのを知ったのが阿久津と最初の相談だった。


 綺麗な彩希は学校でも有名な存在。

 そして悠太を慕ってる態度が兄としてじゃない、異性の男性に向ける物と気づいていた。


 最初に堕ちたのは真弓先輩だった。

 元々悠太の所属する生徒会の会長だった真弓先輩。

 悠太が好きだけど、私ならチャンスがあると思っていたんだろう。

 しかし彩希の存在が彼女を狂わせた。

 真弓先輩も綺麗だったけど、彩希には到底及ばない。

 そこを阿久津は突いた。


 どう口説いたかは知らない。

 きっと私と同じ手口。

 励ましに暖かい言葉、歯の浮く様な美辞麗句。


『私阿久津君にファーストキスあげちゃった』


 幸せそうな真弓先輩に嫉妬した。

 もう私は狂っていたのだ。


『私も』


 キスくらいなら悠太にバレない、安易な気持ちで阿久津に許した。


 阿久津のハーレムで明らかに自分のポジションが上がり、周りの女達から向けられる嫉妬の視線が心地良かった。


『初めてを...』


 ある日真弓先輩が顔を赤らめた。

 さすがにそれは出来なかった。

 悠太と付き合っている以上それだけは。

 でもハーレムは抜けられない。


『伊藤君に話を着けよう』


 阿久津の言葉に頷く。

 別れ話になる、もう戻れないと覚悟した。


『悠太、話があるの』


 呼び出した悠太は薄々気付いていた。

 明らかに避けていたし、保育園から一緒だった登校も別々になっていたから当然だろう。


『話って?』


『別れて欲しいの』


『...そっか』


 あっさりと頷く悠太に怒りが沸いた。


(私の存在ってそんなに軽かったの?やっぱり悠太も彩希の事を!)


『おい!』


 阿久津が凄む声を出した。


『何ですか?』


 不審そうな悠太の顔。

 今なら分かる、何でお前が居るんだって事。


『利香は俺の女だ!』


『は?』


 阿久津が私の顎を摘まみ口づけた。

 それは激しいキスで...


『分かったか』


『ええ、利香もアンタもクソバカだとね』


『なんだと!』


 掴みかかる阿久津の手をネジ上げた悠太、その目には涙が浮かんでいた。


『終わりだよ利香、じゃあな』


『ま、待って!』


 立ち去る悠太を追おうとする私の腕を阿久津が掴んだ。


『これでいい』


『阿久津さん?』


『今は利香も伊藤君も辛いだろうが、しっかり縁を切らないとお互い先に進めないからね』


『はい!』


 こうして私は悠太と別れた。


 そして...阿久津に抱かれた、その様子をカメラに撮られて...


 結果、地獄に墜ちるとも分からず、私は...


「お客様!」


 意識が遠退くのを感じた。


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― 新着の感想 ―
[一言] さっさと死ねばよかったのに
[一言] なんで責任転嫁してんだこの生ゴミ
[一言] 見たいなあ。阿久津さんの地獄。半端なのは無しだぜ、この世という苦界が楽園に見えるほどの地獄が見たいdeath
感想一覧
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