殿下の後宮はいつご準備出来ますか
私は、ナルタヤ王国の第一王子だ。
婚約者のアリスと一年後に婚姻し、王太子となることが決まっている。
婚約者と両親との晩餐を終え、ティールームに移ったところだった。
「殿下の後宮はいつご準備出来ますか?」
えっ?
婚約者の言葉に、耳を疑った。
「まあ、何か問題が起きたの?」
「準備は進めてあるが、急いだ方がいいか?」
両親が普通に返事を返すことにも、ギョッとした。
「殿下が昨夜出席した仮面舞踏会のお相手が、隣国のハーランス公爵家の御令嬢だったことがわかりました。陛下の側妃様のご姉妹の娘ですね。また隣国のハニートラップでしょう。私に連絡が来たことから、殿下の変装もわかっていたようです。昨夜、殿下が避妊薬を飲んだことは侍従の証言がありますが…すり替えられていた可能性もあるかと…」
婚約者のアリスが痛ましそうに、私を見た。
が、私はそれどころじゃない。
仮面舞踏会に出たことがバレている。
ヤルコトヤッタノモバレテイル。
冷や汗が背中をつたう。
「陛下と同じなら、向こうは妊娠薬を飲んでいます。王家に連絡がくるのも時間の問題かと存じます」
「また隣国か…」
「あの方が薬を盛った一回しか相手されてないから、次代に標的がうつったのね」
結婚前のちょっとした火遊びのつもりが大事になってるー!!!
やばいやばいやばい…
「影の報告からは、お相手は乙女ではなかったと思われますが、乙女の証の偽装くらいしてきそうです」
「するだろうな。側妃と同じだろう。第二王子が国外で結婚しようとしてるのも感づかれているな」
「ええ。あの子が利用されるのは可哀想だわ。留学を早めた方が良さそうね」
父の側妃が産んだのが、第二王子だ。
かわいい弟だが、血筋で苦労してたらしい。
わあー弟までとばっちりがー。
「あまり素行も良くない御令嬢ですので、こちらからもハニートラップを仕掛けてしまおうかと。上手くいけば、その時に堕胎薬を盛れますわ。進めてよろしいでしょうか?」
「ああ。それはいいな。側妃の時は出来なかったからな。進めてくれ」
ハニートラップ返しって笑えるー。
ひっかかっちゃうのかなー。
…やばい、現実逃避し過ぎた。
「殿下、今回のこともありますし、後宮を早期御用意いたします。殿下と御関係を持った方、十二名の内、問題ない方は三名でした。未亡人のお二人は妾妃、乙女の証の確認が取れた伯爵令嬢は側妃でよろしいでしょうか?」
わ、わあー全部バレてる。
え?なんで?
顔に出てたのか、アリスが困った顔をした。
「あの、殿下は閨教育は終わってらっしゃるのですよね?」
「あ、ああ」
「我が国の複数の男性がハニートラップにより、政治が疎かになり、離縁などで派閥が崩壊し、内乱が起き、あわや国が滅ぶとまでいった過去があるのはご存知ですよね?」
「ああ、それは知っている」
「過去に男性主導で痛い目を見ましたから、今は婚約者又は正妻が女性関係を管理していることは習いました?」
「えっ?!」
「我が国の法律で、側妃又は側室、妾を迎える場合には、必ず、婚約者又は正妻の確認と許可が必要となっています。そして、関係を持った女性は、速やかに婚約者又は正妻に連絡を入れることが義務です。連絡がない場合は関係を持った証明がないので、後から騒ごうが相手にされません」
「お、おう」
「婚約者又は正妻に連絡が来た場合、迅速に事実確認と身辺調査が為されます。側妃又は側室費用や妾費用は決まっていますので、折り合いがつけば受け入れます」
「へえー」
「例えば、殿下と御関係があったマグナリヤ子爵家の御令嬢はかなり奔放な方でした。私に宛てたお手紙も攻撃的でしたわ。彼女は十数名と関係を持ち、その中には媚薬を盛られ襲われた男性もおりました。その男性は婚約者もおらず、脅迫のような手紙が本人に送られてきて参ってましたわ。彼女は素行が酷く、他家でも問題になってましたので、当主とお話しして、今では娼婦となりましたわ」
「マジか」
「後は、ノリグル男爵家の御令嬢は私に連絡がございませんでしたが、他にも隠れて火遊びされてました。婚約者にバレて、婚約破棄後に修道院行きになられましたわ。他の方も素行問題、又はご家族の問題などで受け入れが出来ませんでした」
「わあー」
「殿下のご予算は、側妃3名、妾妃5名が最大数です。政治的配慮の上での受け入れ枠がございますので、当分は新たに迎えることは出来かねます。後は、殿下は私とのお子が出来るまでは、側妃又は妾妃とのお子は作れません。今、知っておくべきことはこんなところでしょうか」
「そ、そうか」
どうしよう、全然知らなかった。
私の教育係ダメじゃない?
「殿下の教育係は、後日全て確認させていただきます。他の部分も偏りがないかテスト致しましょう」
あ、やっぱりそうなりますか。
これも裏がありそうだよなー。
平和なのは、私の脳内だけだったもよう。
そんな暢気な私の隣で、アリスが言いにくそうにもごもごしている。
「後ですね、申し訳ないのですが、殿下の女性のご趣味は奔放な方が多いので、侍医の検査をお願いします。性病に罹った場合、子種がなくなることもございます。その場合は、王位継承権の剥奪となり、後宮の閉鎖と共に、私との婚約も破棄となります。先王陛下の王兄、今の大公様が似た状況です。大公様は、病気持ちによるハニートラップでございました」
目線をそらして、気まずそうなアリス。
なんてこったい。
私の心中はかなり複雑である。
女性めっちゃ怖い。
ハニートラップめっちゃ怖い。
そして、この話してるの両親の前なんだよ。
自分の女性関係、全部暴露されてる。
つらい。すごいつらい。
居た堪れない。
「あらー、それは早く検査しないと!レオナルド、すぐに医療塔に向かいなさい!」
母は強い。そして怖い。
私の心を的確に抉ってくる。
「レオナルド、貴方が種無しだったら、アリスには陛下の側妃になってもらって次代を産んでもらうからね」
囁かれた台詞に唖然としているうちに、ティールームから追い出された私は、トボトボと医療塔に向かった。
もう火遊びは懲り懲りだ。