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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

隣のサキュバス

作者: 紫陽花

「お姉ちゃん、いい加減、表に出たら? 腐っちゃうよ」

「もう腐ってるからいいんだもーん」

 イラストの仕事を仕上げた小百合は、画像データをクラウドに上げた事を取引先にメールして脱力していた。リビングのソファに身体を沈め、天気予報を流しているニュース番組を漫然と眺めている。

 髪はボサボサ。古い部屋着のスウェットはゴムが伸びてダルダルである。家の中という事で、小百合は完全に女を捨てた格好でくつろいでいた。何しろ仕事が終わった直後なのだ。ダラダラしてビールを飲んでいても誰も責めないだろう。

 小百合の家は母子家庭である。幼い頃に父親を事故で亡くしてから、母一人、娘一人で暮らしてきた。イラストレーターで在宅仕事を生業にしている小百合と違い、母親は外で普通に事務員をしている。

「じゃあ、カビちゃう」

「カビかー。カビはイヤだなー」

「冗談抜きにさぁ」

「って言っても、アタシ引き篭もりだからねぇ」

「お姉ちゃんのは『なんちゃって引き篭もり』でしょ? ただのナマケモノじゃん」

「むー、梨沙ちゃん、今日は随分絡むねー。ウチの母さんに何か言われた?」

「別に、おばさんに言われたわけじゃないけどさ。お姉ちゃんが全然外に出ないのは、やっぱり心配だよ」

 小百合の母親に代わって台所に立っているのは、マンションの隣に住んでいる少女だった。可愛らしいピンクのワンピースにエプロンを着け、ポニーテールをクルクルと揺らして楽しそうに料理をしている。

 お隣さんとは昔からの付き合いで、梨沙の事は生まれた時から知っている。梨沙が幼稚園の頃、当時高校生だった小百合とは将来を誓い合った仲である。もっとも、梨沙の方がそれを覚えているかは定かではないが。

「ふふっ、梨沙ちゃんはホントにいい娘ねー。こぉんな引き篭もりの心配してくれるなんて。惚れちゃいそう」

「ぶは……っ!」

「んん? どしたん? スパイス入れ過ぎた?」

「何でもないっ! ……はあっ」

 梨沙はお玉を再びカレーに沈めてかき混ぜ始めた。香しい匂いがリビングにまで漂ってくる。締め切り前という事でぶっ続けで作業をしていたせいで、ここ二、三日はまともな食事をしていない。そんな時、タイミングを見計らったようにお隣さんの少女は食事を作りに来てくれた。こういう事は今回が初めてでは無い。実際には小百合の母親に言われたのだろうが、物臭な女にとってはありがたい存在だ。

 とはいえ、最近は完全に引き篭もりとなっている小百合への小言が多い。

「お姉ちゃん、美人なのにもったいない」

「うふふん。嬉しいコト言ってくれるのねー。でもダーメ。アタシは二次元に生きるの」

「ホントに腐ってるよ……。イラストのお仕事も男の人ばっかり描いてるし。そんなんだから、彼氏いない歴=年齢なんだよ」

「正直、そう言うのは面倒なんだよね。リアルは。梨沙ちゃんも大人になったら分かるかもね」

「子供に言うコト、それ? 今時ウチの小学校でも彼氏彼女がいるよ?」

「アタシより梨沙ちゃんは? そんなにお盛んなら、梨沙ちゃんもそろそろ好きな子でも出来るお年頃でしょ?」

「好きな人かー。いる事はいるけどねー」

「なあんだ。ちゃんといるんじゃない。アタシみたいなのは放っておいて、その子と仲良くしたら良いのに。お隣さんだからって、そんなに御飯作りに来る事ないわよ」

「あたしが好きでやってるからいいの。大体、御飯だけじゃなくって、掃除も洗濯もお姉ちゃんやらないじゃない。おばさんは外で働いてるんだから、お姉ちゃんの仕事じゃないの?」

「うふふ、梨沙ちゃん、きっといいお嫁さんになるよ。アタシが欲しいくらい。ウチに来てくれたら、母さんも喜ぶよ」

「ホント? じゃあ、お姉ちゃんのお嫁さんになろうかな……。あー、そう言えば、昔、約束したね。お姉ちゃんは覚えてないだろうけど」

 小百合は正直驚いた。梨沙が昔の約束を覚えているとは思わなかったのだ。

「へえ、覚えてたんだ」

「忘れないよ……」

 そう言って、梨沙はカレーをかき混ぜる手を止め、コンロの火を落とした。丁寧にお玉の頭を小皿に乗せ、香ばしい匂いを上げる鍋に蓋をする。そしてエプロンを外し、ソファでテレビを見ながら待っていた小百合の膝に跨った。

「……はい?」

 ご飯の用意が出来たと思ったら、少女の予想外の行動に小百合は凍りついた。普段、一緒にテレビや映画を観たりする時には、隣に座って身体を寄せたり腕を組んだりと過剰気味のスキンシップを感じていたが、まだまだ甘える年頃だと思って小百合は好きにさせていた。

 しかし、今のこのような態勢で迫って来られるのは初めてである。相手が男なら、対面座位の完全に淫らな体位だ。

「えーと、梨沙、さん?」

「やっぱりお姉ちゃん、外に出なくてもいいや。あたしが面倒を見てあげる。お姉ちゃんはお家でお仕事。掃除や家事や洗濯はあたしがやってあげる。お姉ちゃん、外に出なくてもお仕事は出来るんでしょう?」

 確かに、今は在宅で仕事が出来る環境が整っている。原稿は全てデジタル化しており、紙はレイアウトのアタリを付けるくらいしか使わない。打ち合わせもオンラインでやっているし、資料が欲しければ大抵のものは座ったまま調べる事が出来る。紙媒体の本なら通販で取り寄せられるし、ロケハンにしてもドローンを飛ばしてゴーグルで見るという事を試したばかりだ。

 本当に、仕事で家を出る必要がない。

 後は生活面だが、掃除や家事や洗濯をやってくれる主夫でもいれば完璧だなーと小百合は梨沙にボヤいた事がある。

 早くに父親を事故で亡くした小百合は母子家庭だった為、家事は一応一通り出来る。それが災いしてか、家を出るのが物臭な女が出来上がってしまった。そんな小百合を見かねてか、隣に住んでいる梨沙は事あるごとに小百合の部屋に来るようになったのだ。赤ん坊の頃から知っている梨沙が、家事万端をやってくれるのは昨日今日の話ではない。

「いや、確かに家で仕事は全部出来るけど……、冗談! さっきのは冗談だから、ね?」

「冗談? ふふっ、そんな冗談、うかつに子供に言わない方が良いよ。本気にしちゃうから……」

「いや、だから、冗談……。そう! こういう事は好きな人としなきゃダメよ。いるんでしょ、好きな人?」

 ふと我に返ったような表情の無い顔で、梨紗は倍近くも年上の残念美人を見据えた。そして、軽くため息を吐く。

「はあっ。うん、そうだね。こういう事はやっぱり好きな人としないとね」

 納得したように見えた梨沙が腰を浮かした。そして自分から離れると思った一瞬の後、小百合の唇は幼い少女の唇に奪われた。

「……っ!」

 梨沙の可愛らしい唇が、小百合の大人びた唇に重なっている。身体を硬直させたまま、小百合は少女を振り払う事も出来ない。

 しばらく唇を重ねていた梨紗は、ほんの少しだけ唇を浮かせた。薄紙一枚分の隙間を開けて、小百合の口に向かって囁きかける。

「もしかして、お姉ちゃん、キスするのは初めて?」

「……っ!」

 小百合は自分の顔が火を吹くような感覚を味わった。鏡を見なくても、自分の顔が羞恥で真っ赤になっているのが分かる。

 小百合は既に社会人で良い年だが、セックスどころかキスもした事が無かった。何しろ恋人いない歴=年齢の残念美人なのだ。異性と手を繋いだ事など、幼稚園のお遊戯以来、皆無である。

 だから、ファースト・キスを奪って余裕のあるように見えるお隣の少女が小憎らしく見えた。

「り、梨沙だって初めてでしょっ?」

「うふ、どうしてそう思うの?」

 小悪魔。

 小百合の膝に跨がって妖しい笑みを浮かべる少女を見て、彼女にふさわしい形容詞が小百合の脳裏に浮かんだ。

 可愛らしいポニーテールを軽く振って、少女は再び顔を近付けて来る。桜色の唇をペロリと舐めるその仕草に、小百合の心臓が跳ね上がった。

「舌、出して」

 年下の少女が放つ妖しい視線に射抜かれて、小百合は不思議と逆らう事が出来なかった。おずおずと口を少し開き、舌を差し出す。

 次の瞬間、梨沙は餌を視界に捉えた猛禽のように食らいついた。腕を首に回して抱きつき、貪るように暴力的なキスを振る舞う。少女も舌を出し、年上の美人が差し出した舌に自分のそれを絡める。

「ん……むふ……」

 舌と唇で小百合の舌を舐ると、梨沙は更に舌を突き出してお隣さんの口の中に挿し込んだ。幼い少女の舌が、イヤらしい音を立てて大人の女の口を犯している。

 事ここに及んで、小百合はようやく梨沙の想い人が誰なのか、察する事が出来た。唇を犯されまくってから気付くのはさすがに遅いと言えるが、恋愛経験の少なさを考えると仕方のない事かもしれない。

「ぷは……、は……、はあ……っ」

「お姉ちゃんは何もしなくていいよ。これまで通り、絵のお仕事をしてて。その代わり、あたしがお姉ちゃんの事、全部面倒見てあげる。料理も、洗濯も、お買い物も、全部。あと、それ以外も、ね……?」

 上から、そう精神的に上から、梨沙は小百合に甘く囁きかけた。

 梨沙はもう一度小百合にキスをした。今度は首ではなく、身体を密着させて腰に手を回しながら。そして少女の手は、だらしのないダルダルの部屋着の中へ挿し込まれていった。

「あ……は……」


   ***


 半年後。

 小百合の描いた美少女サキュバスのイラストがブレイクした。

 幼女に近い少女の、外見とは裏腹の滲み出るようなエロティックさがSNS界隈で話題になったのだが、それはまた別のお話である。


   了


全年齢版です。

続き(R18)が読みたい方は、続きを書きますので感想まで(^^;

ちなみに、梨沙にキスの手ほどきをしたのは、小百合の母親と言う裏設定があります(笑)

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[良い点] 百合エッチ描写は読むのも書くのも結構不得手なジャンルゆえ、短いながらも勉強になりました。 小悪魔美少女に襲われる小百合お姉ちゃん、やられっぱなしではなく、しっかりイラストのネタにしてるあた…
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