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第22話 剣聖預任

 やがて、その世界は夕闇から夜になった。

 その夜は満天の星。


 星空が一瞬強く光り、一頭の白いドラゴンが降臨した。

 巨躯であった。

 その異界に風が吹く。

 ドラゴンの羽毛のような白い毛が、風になびいた。


「良い夜だ」とドラゴンが言った。

「そうね。良い夜だわ」ノヴァが返事をする。


「ちゃんと来たのね」

「当たり前だ。俺は約束は破らない。ああ、しかし、ここは奇妙な世界だな」

「ええ、ここは『エウロハ』、マリアが創った仮想現実ヴァーチャルリアリティ

「マリアが創った非現実世界といった所か」


「そこな人間は〈剣聖〉であるか?」


 白いドラゴンがフタバに聞く。


「白きドラゴン殿、確かに私は〈剣聖〉でございます。エスタ・ノヴァ・ルナドート神に〈剣聖〉の任に預かりました」

「エスタ・ノヴァ・ルナドート神」

「未来の私のことよ」ノヴァが言う。


 そう言うノヴァをドラゴンは笑った。


「シロ! 何を笑ってるのよ!」

「ハハハ、すまない。お前が神とはね」


 ノヴァはドラゴンをシロと呼んだ。


「シロ?」フタバが聞いた。

「俺の名だ。本当の名前ではないがな。剣聖か、ならばその証しの剣を持っているな」


 フタバ・ディア・レイクが念じると彼女の手に銀色の剣が現れた。

 剣は、満天の星の光に照らされサッと光った。


 白いドラゴンは、その大きな体に比すると小さく見える手で、フタバから剣を受け取った。

 彼はその指で器用に剣をつまむと、炎が混ざる息を吹きかけた。

 そして、その剣を大地に突き刺した。


「抜いて見せよ」


 ドラゴンが言う。

 しかし、フタバ・ディア・レイクがどんなに頑張ろうとも、剣はうんともすんとも抜けることはなかった。


「抜けぬであろう。何体かの者がその剣を抜くことができるだろう。剣を抜く者がそなたにとって良き者であることを祈ろうぞ」

「俺はその剣を抜く者を知ってるぜ、なんと言っても俺は全知全能の神だからな」


 猫のニコルがそう言った。


「ニコルさん、あなたは黙っていて。あなたが話し始めると、話がややこしくなるから」


 ニコルは少女、ノヴァを見た。

 ノヴァを見た次の瞬間、視線を彼女の後ろに移した。


「あ、なんか来たぞ!」


 彼女の後ろ、はるか向こうの星空を喰う者がいた。

 大量の触手の生えた大きな口が、空を喰べている。

 その口が喰べた空は、『無』になっていった。


「ゾンダークの者か!」


 ノヴァは振り向きそう言い、両手の指を大きく開く。


 左手は縦、右手は横に振る。

 彼女の両手の十本の指から、赤い光が(ほとばし)る。

 その赤い光は十字の閃光となり、星空を喰う者を切り裂いた。

 死んだのであろうか、ともかくその星空を喰う者は消え失せた。


「じき、この『エウロハ』も消失するわ。もうマリアも、もっときちんとした世界を創ってよ!」


 彼女が『エウロハ』と呼ぶこの世界に、轟音が鳴り響く。

 この仮想世界が消えようとしている。


「もう時間がないわ。近い未来にその剣を抜く者に会うはず。その者があなたの世界を、あるべくように未来に導くはず」


 ノヴァがそう言うと、『エウロハ』は消えた。


お読みいただきありがとうございます!

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