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第13話 運命のいたずら

「けちな女神様だな」

「(何とでも言えばいい。これ以上、お前に何か力を与えるつもりはない)」


 それも道理かもしれない。『恩寵』を消して欲しいという者に【剣の舞い】を女神が教えるというのもおかしな話しではあろう。

 ともかくも〈フォウセンヒメ〉にしてみれば、けちのつもりはない。人間界への必要以上の介入をしない。それが神々のルールである。ただそれだけのことである。


「なあ、ナユタの旦那、これからどうするのだ?」


 ドラゴは聞くが、これからどうするか? ナユタとしても特に何の考えもない。彼の両親を殺した者を探すにも手掛かりすらない。



「ナユタさん、元気になりましたか? 昨日は急に倒れたので驚きました」


 話しかけたのは、アラタであった。実際にはナユタは『アハナ』という空間に連れていかれ女神と戦闘になったのだが、他の者にとってはナユタが急に倒れたようにしか見えなかっただろう。


「元気だ。すごく元気だ。ところでお前は何をしているのだ?」

「何って、僕はこの冒険者ギルドの受付係ですから、受付の仕事をしていますが」

「? このあたりの地域の自治領主だと聞いていたのだが?」

「『冒険者ギルドの受付係』が本業なんです。『自治領主』というのはこの国の王が勝手に決めたことですから」

「言っていることがよく分からないぞ」


 アラタとしても「よく分からない」と言われても困るのであった。確かにアラタの言う通り、『自治領主』というのはこのシエルクーン魔導王国の少年王・ミラノ・レム・シエルクーンが勝手に決めたことである。


 少年王・ミラノの考えは、アラタにはまったく分からない。というのも、そもそも少年王はこの貧民窟地域を『掃討作戦』と称して魔物に襲わせたのである。

 彼は貧民窟地域を消し去ろうとしたのだ。

 その魔物を討伐したのが、アルの力を覚醒しつつあったアラタ・アル・シエルナだったのである。


 ただ、後の歴史のことを考えたら、この貧民窟地域は『掃討』されるべきであったかもしれない。

 シエルクーン魔導王国と隣国・ダルシア法王国との間で、この後、魔導大戦と呼ばれる戦いが起こることになる。

 魔導王国少年王・ミラノとしては、魔導大戦を引き起こさぬ最善手として考えたのがその『掃討作戦』であった。この地域が魔導大戦の鍵を握る場所となるのである。


 しかし『掃討作戦』はアラタにより、おさめられてしまったのである。

 いや、より厳密に言えば、〈ブシン・ルナ・フォウセンヒメ〉がアラタと一緒にいなければ『掃討作戦』は成功していたかもしれない。

 そういう意味で〈フォウセンヒメ〉はもう十分に『人間界への介入』をしてしまっているのである。


 とはいえ、アラタを『自治領主』にというのは、かなり飛躍したアイデアではあるだろう。

 しかし、「この世界のバランスがかろうじて保たれているのは、アラタの存在があるから」というのは〈フォウセンヒメ〉の言葉であるが、魔導王国少年王・ミラノもまた同じことを考えたのかもしれない。


 おそらく、アラタ・アル・シエルナの選択、一つ一つがこの世界の未来を左右することになるだろう。


 そして、これは運命のいたずらと言っていいだろう。

 アラタの従兄弟であり、アル家の血を引くナユタ・エルリカ・アルは、なりゆきとはいえ、ダルシア法王国・王女・サクラ・リイン・ダルシアとの間で「ダルシア法王国に忠誠を誓って」いるのだ。

 未来はまだ確定はしていない。どうなるかは分からない。しかし、ナユタとアラタは敵味方として戦うことになる可能性があるということである。


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