第23話 魔導書の中でひと眠り
第四章 シエルクーン魔導王国
アラタは今日も仕事である。
もちろん冒険者ギルドの受付係だ。
受付の仕事のかたわら、護符やひのきの短剣も作っている。
ひのきの短剣を作っているのは「王がこの町をモンスターに襲わせようとしているのだ」と女神が言ったからだ。
「僕にどうしろと言うのですか?」
「(自分で考えるのだ。それにお前は王になりたいのだろう?)」
「え? あ、はい。僕は王様になりたいんです」
「(お前は、この町ひとつ救えずに王になりたいと言うのか?)」
そう。アラタは王になりたいのであった。
母を殺させた父王を絶対に許さない。と彼は思っている。
(それにしても大量のモンスターが襲ってくるって、どうすればいいんだろう?)
「ご主人様、ご主人様ならどうとでもお出来になりますでしょう? 私も微力ながらお手伝い致しましょう」
「クロヒメさん、どうとでもお出来にはならないと思うのですが」
「私が事前にこの町に【魔法陣・剣】をはっておきます」
(【魔法陣・剣】て何でしょうか?)
「クロヒメ先輩が魔法陣をはるのでしたら、私も【魔導結界・梅】をはらせていただきます」
(【魔導結界・梅】って?)
「白梅さん、クロヒメさんのことクロヒメ先輩て呼ぶんですか?」
「ええ、クロヒメ先輩は魔導書の精の中でも憧れの存在ですので」
「そ、そうでしたか」
クロヒメは見た目はただの黒猫なのだが、
たしかにもの凄い黒魔導を操る魔導書の精である。
「ところで、なぜ僕のことをご主人様と呼ぶのでしょうか?」
「ご主人様、なぜってどういう意味ですか?」
「どういう意味ですか? って逆にどういう意味なんですか?」
「ご主人様、私は悲しいです。ご主人様は私のことをお忘れなんですね」
(お忘れも何もこないだ出会ったばかりかと思うのですが)
「私は生まれてこのかた、アル様にお仕えする魔導書の精です。そもそも私を創り出したのはアル様ではありませんか!」
「あ、あ、あの、たしかに僕はアラタ・アル・シエルナで、母親の家系がアルという姓なのですが、クロヒメさんがおっしゃっているアル様とは別人かと思いますが!」
「別人? どういうことでしょうか、意味がわかりません」
(あ、たぶん、クロヒメさん、僕のご先祖様と勘違いしているんだ)
「あの、クロヒメさん、ジュノー太陽歴ってわかりますか? いまジュノー太陽歴3020年なんですけど」
「ジュノー太陽歴3020年!? 私が魔導書の中でひと眠りしているうちに1000年以上たってる!」
(1000年以上? そんなに寝てたんですか!)
「クロヒメさん、おそらくたぶんそのアル様というのは僕のご先祖さまかと思います」
「そうでしたか、失礼いたしました。アル様はもうお亡くなりになっているのですね。それにしてもアル様にそっくり。ちょっと小さくなったかなとは思ったのですが」
「なので残念ながら僕はクロヒメさんのご主人様ではないと思うのです」
「はい。新しいご主人様ということですね」
新しいご主人様がアル様のご子孫の方で良かったです。とクロヒメは言った。