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第10話 白魔導書・ハクバイ

 ベアーとマルコが冒険者ギルドに戻ってくると、辺りはもう夜になっていた。

 マルコはまだ泣きじゃくっていて、アラタがベアーに聞いても「人にはいろいろあるでやんす」と言うだけで、修道院病院でいったい何があったのかアラタにはまるでよくわからない。


「アラタ君、アラタくぅ~ん、俺は、俺は最低な男だよぉ~」

「マルコ先輩、いったい何があったのかよく分かりませんが、僕にすがりついて泣くのはやめてください」

「そんなこと言うなよ、アラタくぅん、俺は最低なんだよぉ」

「分かりました、先輩が最低だってことは分かりましたから、離れて下さい!」


 しばらくしてやっとこさマルコは少し冷静になってアラタから離れると、アラタの前任の受付係の人が『蒼き死の病』の疑いで修道院病院に隔離されているということを説明した。

 『蒼き死の病』を治癒する方法はないとされている。アラタは、可哀想だが何もできないと思った。


「親分、しかしおかしいのは通常『蒼き死の病』ってえのは、いっぺんにこんなにたくさん患者が出ることはねえでやんす......それにこのギルドの中にまでクロノ鴉が現れたでやんす」

「そうだ、クロノ鴉......あれはいったい......」

「親分が一瞬で片付けてくだすったから良かったでやんすが、クロノ鴉がこの世界にやって来るなんざ滅多にないことでやんす」


 ベアーの言う通りアラタが一瞬で片付けたわけだが、アラタは記憶があいまいであった。


「なんだかあの時の記憶はあいまいなんです。それから僕のこと親分っていうのやめてくださいね」


 それにしても、とアラタは思った。

 クロノ鴉は異界の生き物である。クロノ鴉が現れるとき必ず悪いことが起こる。不吉を呼ぶ生き物だと昔からそう言われている。

 そして、『蒼き死の病』が発生したのだ。アラタは不吉なものを感じて身を震わせた。


「(『蒼き死の病』といえば治癒させる方法はないが、病状の進行を止める方法はあるはずだが......俺は白魔導には詳しくはないのだが【白魔導書・白梅(ハクバイ)】に『蒼き死の病』についての記述があると聞いたことがあるが)」


 女神・フォウセンヒメがそう言うと、


「女神様、俺、白魔導を極めます!」


 ようやく元気を取り戻したらしいマルコ・デル・デソートはそう宣言した。

 ところで【白魔導書・白梅(ハクバイ)】とは何だろうか?


「女神殿、【白梅】は失われた魔導書といわれているでやんす」

「(ん? 失われてないぞ、そこにいるアラタが持っているはずだが)」

「え、僕が持ってるの???」


 (そういえば、冒険者養成所から荷物が送られてきたんだった。確かに僕は大量の書物を持ってはいるのだけど......あれの中のどれかが【白梅】という魔導書なのだろうか?)


「でも僕、魔導書なんてどれがなにだか全然わからないし」

「親分、よかったらあっしに親分の荷物を見せて下さいやせ、こう見えてあっしは白魔導が専門なんでやす」

「ベアーさん、白魔導士だったんですか? てっきり武闘派かと」


 ベアー・サンジ・ドルザは武闘派と言われ笑い、昔、強え男と一戦を交えてこてんぱんにやられて以降は武闘派はやめたでやんすよと言った。

 その強え男とは、アラタとマルコの親方である元剣聖のことであるが......

 アラタは、この冒険者ギルドの「自由に使って良い」と言われた部屋へ彼らを案内すると、自分の荷物をベアーに見せた。


 ベアー・サンジ・ドルザは大量の書物を一つ一つ見ていき、


「親分、おそらくこれが【白梅】でやんす」


 一冊の古書を手に取りそう言った。


 それらアラタが大量に持っている古書は、彼の母親のものだ。

 アラタに母の記憶はない。

 彼が母について知っていることは、母親はアラタが幼い頃にこの国の兵士に殺されたと親方から聞かされたことのみである。


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