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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
六章
99/139

99.NEXT SIX


 朝の教室は喧騒に包まれていた。

 あと数分で授業開始のチャイムが鳴る。それまで少しでも楽しもうと、クラスメイト達が和気あいあいと過ごしていた。


 それとは反対に神谷は静かだった。

 先に着いていると思っていた園田と光空がいない。勇気を出してクラスの何人かに聞いてみるも、今日はどちらも姿を見ていないという。チャットアプリの連絡にも既読が付かないそうだ。自分でも連絡はしてみたが、うんともすんとも言わない。


「早くしないと授業始まっちゃうよ……」


 寂し気に呟く。遅刻してでも寮に探しに戻ろうか、などと考えていると。

 こつ、こつ、こつと廊下からかすかに足音が聞こえる。このテンポと音の感じは光空だと判断し、すぐさま立ち上がり教室を出ようとし――ばったり。目の前に思った通り光空がいた。


「陽菜! 遅かったね、それで……みどり知らない? まだ来てな――」


「沙月」


 ぱしっ、と光空に手をつかまれた。そう思った途端ぐいとその手を引かれる。どこかに連れて行こうとしているようだ。


「ちょ、ま、なにするの!」


「ごめん、ちょっと話があるんだ」


 張り詰めた表情。

 引き締められた唇。

 ただ事ではないというのが見ればわかった。

 何故か今ここにいないみどりにも関係していることなのだろうか――そう思い、素直についていくことにした。




 中庭。

 奥まった場所にあるここは、今日も人気がない。

 そんな事情もあって放置されつつある草木たちは世話されることもなく、いつの間にかところどころ枯れ始めている。


「で、話ってなに? そろそろ戻らないと……」


「わかったんだ」


 それだけ言って黙る光空は俯き、顔が前髪で隠れて表情の判別がつかない。

 いま彼女は何を考えているのか。


「私がやるべきこと。これまで何があったのか。これから何が起こるのか」


「……どうしたの、いきなり」


 あまりにも脈絡がない言葉。

 しかし、混乱で満たされた頭に何かが引っ掛かる。胸騒ぎがし始める。

 何かとんでもないことが、取り返しのつかないことが始まろうとしている――そんな予感がした。


「本当はもっと早くに知れたらよかったんだけど、こうなることは決まってたみたい。そういう『順番』なんだって」


 光空の言葉は抽象的だった。

 神谷に向かって語り掛けてはいるが、伝えようという気はないのかもしれない。ただ胸の内に渦巻く思いを吐き出しているというだけ。


「1、2、3、4、5と来たら次は6。そうなるよね」


 ざわり、と全身の肌が粟立った。

 いつの間にか――光空の話は核心に至ろうとしている。

 神谷の中で、まさか、という思いとそんなはずはない、という思いが拮抗している。


 ……いや。そこにあったのは『そうであってほしくない』という純粋な祈りだけだったのだろう。


「……ねえ、チャイム鳴っちゃうよ。そろそろ戻らないと」 


 震える声で語り掛ける。

 そんな神谷に、しかし光空は首を横に振る。


「もう戻れないんだよ」


 思わず息を飲む。

 顔を上げた光空の瞳は、強い意志に満ちていた。


 キーン……コーン……カーン……コーン……

 

 とうとう始業のチャイムが鳴り、反響する聞きなれた音色が二人の鼓膜を震わせる。

 そんな中、光空がスカートのポケットから取り出したのは――――


「それ…………!」


「だめだよ沙月。鍵をポケットに入れたまま私の部屋に来るなんてさ」


 取り出したのは見覚えのある携帯ゲーム機。【TESTAMENT】というゲームを起動するためのハード。


 昨夜の記憶がフラッシュバックする。

 あの時、自室の鍵を閉め、パジャマのポケットに入れ、光空の部屋を訪ね――そして。

 起きたとき、そこには光空はいなかった。

 登校の準備をする際、自室の鍵は開いていて……鍵はテーブルの上に置いてあった。その時は、ああ閉め忘れたんだ、と思っていたのだが。


 こうなると事情が変わってくる。

 

 そう、昨夜彼女が自分を部屋に招いたのは、これが狙いだったのではないかということ。

 つまり計画的にそれは実行されたということ。

 

 ならば、未だ学校に来ていない園田みどりは。そして、もしかしたらアカネも。


「……ッ陽菜!」


「大丈夫。すぐ会えるよ」 


 遮るようにボタンを押す。

 見慣れた真っ白な光が溢れ出し、二人を包んでいく。


「行こう」


 それを最後に。

 あっけなく二人の姿は消え去り、ゲーム機が堅い音を立てて地面に落ちる。


 あとに残されたのは、始まりを告げるチャイムの残響だけだった。


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