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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
六章
98/139

98.晴れた青、はじまりの朝


 その時は突然やってきた。

 前触れなく、まるで通り雨のように。

 

 もしかしたら、避けられる道もあったのかもしれない。

 もしかしたら、どこかに前触れがあったのかもしれない。


 だがすでに全ては終わってしまった。

 あの頃に戻れたら――なんて望みは永遠に叶うことはない。


 この世にセーブポイントなんてものはないのだから。





 その日は抜けるような青空だった。雲一つない、綺麗な青が空を覆っている。

 朝起きたら、そんな景色が窓の外に広がっていた。

 今日はなんだかいい日になりそうだ――神谷は寝ぼけまなこを擦りながらそう思った。


「ふあぁ……ねむ」


 起きたら、隣に寝ていたはずの光空がいなくなっている。

 今日はずいぶん早い。朝練でもあるのだろうか。


 枕もとの目覚まし時計を見てみると、アラームはセットされていなかった。



 いつものように作った朝食を、いつものように園田と食べた後。

 いざ登校しようとすると、アカネが欠伸を噛み殺しながら階段を降りてきた。


「おはよ、おねぼうちゃん」


「うっさい……今から学校?」


「うん。行ってきます」 


「はいはい、行ってらっしゃい……あれ、みどりは?」


 神谷の皮肉にも、眠いからかおざなりに返しつつ、あたりを見回す。

 いつもなら登校するときは二人でいるのに、珍しく神谷は一人だった。


「それがさっきから見当たらないんだよね。先に行っちゃったのかな」


「ふうん……?」


 あの園田みどりが神谷に何も言わず先に登校などするだろうか。

 かすかな、しかし確かな違和感にアカネは考え込むが、気づけば神谷は出て行ってしまっていた。

 目の前でゆっくりとドアが閉まる。


(まあ、そこまで気にすることでもないわよね) 


 そう考えを打ち切り、朝食を済ませに食堂へ行こうと踵を返し、


「や、アカネちゃん。おはよう」


 いつの間にかそこに光空陽菜がいた。

 あまりに突然で心臓が止まるかと思ったが、普段通りの光空であることがわかると、身体の力を抜いた。無意識に戦闘態勢になってしまっていたようだ。


「……おはよう。まだ学校行かないの?」 


「うん。園田ちゃんが忘れ物したみたいでさ、届けようと思って……アカネちゃん同室でしょ? 案内してくれないかな」


「なんだ、そうなの。じゃあ行きましょうか」 


 納得し、二階の自室へ足を向けようとして何かが引っ掛かった。

 なぜ園田の忘れ物を、光空が知っているのだ?

 そのことを訪ねようと振り返る――しかし、光空の含みのない笑顔を見て思わず口をつぐむ。

 きっとスマホか何かで連絡を受けたのだろう、そう結論付けた。



 園田とアカネの部屋は綺麗なものだ。

 以前は神谷がたまに来て整理していたのだが、今はアカネがその役割を担っている。生活面で意外と世話が焼ける、というのが神谷とアカネに共通する園田評だった。

 そんな部屋に入ると、


「さて、あの子なにを忘れたのかしら」


 がちゃり。

 入口のドアが閉まる音が、やけに大きく聞こえ、思わず振り返る。

 そこには光空が立っていた。

 まるで出口に立ち塞がるかのように。


「アカネちゃんはさ、どこから来たんだっけ」


「え? いきなり何よ。オーストラリアに留学してたって前言ったじゃない」


 そういう設定になっているはずだ。園田が苦し紛れに言い出したことだが、言ってしまったからにはそれを貫くほかない。


「違うよ」


 光空は笑顔だった。

 だが、その笑顔はまるで張り付けたかのようで――仮面じみていることに、アカネは今初めて気づいた。こんな笑顔を、どこかで見たことがあるような気がした。


「あんた、何を……」


「みんないつかは元いた場所に帰らないといけないんだよ。私も、アカネちゃんも」


 いきなり何を言い出すのか。

 何が言いたいのか、わからない。

 ずい、と一歩踏み込んでくる光空に合わせて、思わず一歩下がる。


「だから帰してあげるよ。君のふるさとに」


 そう言った光空は、おもむろに懐からゲーム機を取り出した。

 アカネにも見覚えのあるものだ。

 白くコンパクト。画面がひとつに、ボタンが四つに十字キー。

 それは、【TESTAMENT】。あの世界へと繋ぐデバイス。

 それををなぜ光空が――混乱の最中、電源スイッチがオンになる。純白の光が画面からあふれ出す。


「ま、さか――みどりは…………!」

 

「じゃあね。またあとで」


 目も開けられないほどの強い発光のあと、一瞬のうちに輝きは引っ込み――アカネの姿はどこにも無くなっていた。

 ふう、と光空はため息をつく。


「…………さて、学校行かないと。遅刻しちゃう」


 まるで何事もなかったかのように部屋を後にした。


 最後の戦いはとっくに始まっている。よって――日常はすでに崩壊。そこにあるのはただの残骸である。


 光空の笑顔は、いつしか消えていた。 

 





 ざあ、と風が木々を揺らす。


「……?」


 ふと、寮の方を振り返る。

 特に変わりない、いつもの寮の姿がそこにあった。

 だが、何か……忘れ物をしているような気がする。


「なんだろ」


 考えてもわからない。

 踵を返し学校に向けて歩を進める。

 何の変哲もない一日が今日も始まる予感がした。




 ――――しかし、今日この日。彼女の運命は再び変わる。


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