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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
五章
90/139

90.ラスト幕間ディスカッション


 日に日に胸のざわつきが大きくなっていく。

 何故かは全くわからない。心当たりがない。

 大きなテストを控えているときのように、避けられない『何か』をただ待っているかのような心地だった。

 そして――時たま起こる頭痛。

 脳に電流が走ったかのようなそれは、何かを思い出させるような感触で。でもそれが何なのかは未だにわからないままだ。だが何もせずともそのうち思い出せそうな気もしている。

 とても大事なこと――のような気がする。でも、その頭痛のたび、なぜかカガミさんのことが頭に浮かぶ。なぜだろう。私はあの人とそこまで関わりがないのに。


 そういえば、あの頭痛のたび、沙月の周りに人が増えてたような気がする。園田ちゃんとかアカネちゃんとか……どうしてだろう。偶然だろうか?




 戦いを前にしてやるべきこと。

 それはとにもかくにも準備だった。 

 

「というわけで、まずアカネの異能について教えてくれない?」


「あたしもよくわかんないんだけど……」


 アカネの異能は大鎌である。

 すさまじい切れ味を誇るとともに、血を捧げることでその力はさらに増す。


「とりあえず出してみてよ、あの鎌」


「はあ? 今は出せないわよ。あっちの世界じゃないと」


「嘘だあ、わたしたちは出せるもん。ほら」


 そう言いつつも神谷は両手から白光を迸らせ、園田は双銃を生成する。

 それを目の当たりにしたアカネは目を剥いた。


「え……なんで? あたし出せないわよ、ほら」


 ぐっ、ぐっ、と手に力をこめるアカネだったが、うんともすんとも言わない。

 異能の片鱗すらもない。

 どういう理屈か、こちらの世界ではアカネの異能は使えないようだった。


「…………なんでしょう。何が違うんでしょうね、私たちとアカネちゃん」


「さすがに今の段階だとわかんないわね」


 とりあえずこの問題については置いておくことにした。

 少なくとも向こうでは戦えるのだからそこについては心配ないだろう。


「私の異能……は、できることは増えてきましたけど……」


 そう言いつつ双銃を引っ込める。

 空気を自在に操る力――それが園田の異能だ。だが、極めて自由度の高いその特性から、逆に使いづらいというのが彼女の弁である。

 そういった事情もあり、補助としての双銃が彼女の武器になっている。異能の噴出点を指定する役割、そして空気を弾丸の形にしやすくするイメージの補助線的役割を担っている。


「ちょっと決定力不足が目立ってきました。前の騎士みたいな守りが堅い敵相手だと牽制程度の役割しか持てなくて……」


「ならそこはわたしとアカネが補わないとだね」


 空気という性質上、堅く重い敵相手ではろくに攻撃が通らないことがある。もう戦うことはないが、神谷が最初に戦ったゴーレム――プラウ・ワンもその類だ。  

 薄く成型した弾丸や、貫通力の高い弾丸を放つことはできるが、それでも決定打にはなりづらい。前回の騎士戦ではその特性が顕著に出てしまっていた。


「あたしの異能は、まあ、シンプルよ。柄の中に血を塗れば強くなるっていうだけ」


「鎌いいよね……」


「正直言っていい?」


「なに?」 


「大鎌って武器ね……めちゃくちゃ使いづらいのよ」


 かなり深刻そうに話すものだから、神谷は少し吹き出してしまう。

 あんな大物を軽やかに振り回しながらそんな風に思っていたのか。


「うっそ、あんなに使い慣れた感じだったじゃん」


「そうですよ、すごくかっこいいです」


「いやマジで。やたら長いくせに刃が直角方向に伸びてるもんだから取り回しが悪いったら」

 

「ああ、確かに…………」 


 そう言われるとそうかもしれない。

 普通に振っても刃が敵に当たらないといったことも多そうだ。

 だというのに、アカネはそんな武器を使いこなしている。まるで幾度も戦いを重ねてきたように。記憶を無くそうと、その技術は無くならなかったほどに。


「あたしはいいわ。あんたよあんた」


「わたし?」


「あんたのだけスペック違わない?」


「そうかな……そうかも」  


 使用者の技術を勘定に入れなければ、おそらく純粋な強さでは随一だろう。

 身体能力の強化は園田やアカネの異能にも備わっている機能ではあるが、神谷のそれは二人のそれを大きく上回っている。単純なスピードやパワーでは他の追随を許さない。


 その上、倒したプラウの力を行使できる。

 力のバリエーションは多岐にわたる。

 自在に操れる盾、脚力とスピードの底上げ、そして極めて破壊力の高い炎、など――そこからさらに出力を上げることも、それらを同時に使うこともできる。

 リスクはあれど、間違いなく勝負を決することのできる力だ。


「あのゲームは沙月さんのためのものらしいです。だからクリアできるように強い異能が与えられた――ということではないでしょうか」


 クリアできないゲームはない。あるとしたらそれはクソゲーだ。

 それがゲーマーとしての神谷の価値観だった。

 どれだけ難易度が高くても、クリアできる余地があるならそれはゲーム足りうる。

 やはりあのゲームは、神谷がクリアできるように作られているのか。


「…………といっても油断はできないよね。今まで何度も死にかけてるし」


 というかほぼ毎回である。

 どれだけ強い異能があってもうまく使えなければ持ち腐れだ。

 園田やアカネがいなければ危ない場面が何度もあった。

 やはり頼もしい。だが、そんな神谷の想いとは裏腹に園田の表情は少し暗い。 


「みどり、どうしたの?」


「その、私やっぱり足手まといじゃないでしょうか……以前もウサギのプラウに……」


 『出来損ない』と言われたことがある。

 急増で不完全だ、とも。

 その言葉の意味は今もわからないままだが、やはり見劣りするのではないか、という考えがぬぐえない。


 しかし神谷からすれば、


「今さらなに言ってんの。わたしが何度みどりに助けられたと思う? 細かいのを勘定したら両手両足でも足りないよ」


「そんなこと言うやつがいたの? 見る目無いわね。みどり、あんためちゃくちゃ頼もしいわよ」


「二人とも……」 


 園田がいなければ、という場面はこれまで数え切れないほどあった。

 プラウとの戦いにおいても間違いなく欠かせない存在なのだ。

 汎用性の高い異能に加え、土壇場での食らいつき。執念。

 それがこれまでの勝因になっていることは疑いようもない。


「この三人ならきっと大丈夫。ここからは誰かが欠けても駄目だと思う――だから力を貸して」


 絆はいつの間にか深まっていた。

 出会いは偶然でも、今は同じ方向を向いている。

 絶対に次も勝つ。その意思を三人は固めた。


 五度目の戦いの時は近い。


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