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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
五章
89/139

89.いつの間に彼方


「丸く収まってよかったわね」 


「本当に。ご迷惑おかけしました」


「…………うんんぐ」


 次の日の放課後である。

 アカネと園田は、神谷の部屋でたむろしていた。

 テレビの画面にはすごろくを模したパーティゲームが映っており、それぞれの手にはコントローラーが握られている。神谷が以前に買ったもののやる機会を逃していたものだ。


「ええ、ほんと一件落着と言いたいとこなんだけど……いちゃついていいとは言ってないのよ」  


「いちゃ? どういうことですか?」


「助けてアカネ……」 


 神谷は、園田の膝に座らされていた。

 小さな身体は座るというよりはすっぽりと包まれているという感じで、逃げ場がないように見える。

 とても居心地が悪そうだ。

 当の園田はすっとぼけているが。


「いやだから……もういいわ」


「見捨てないで……」


 諦めたように首を振るアカネ。打つ手なし、というところだろう。

 無言でボタンを押してサイコロを回転させている。出た目は8。アカネの操るキャラクターは余裕でスターを取得した。


「あたし独走状態なんですけど。あんたゲーム上手いんじゃなかったの?」


「運ゲーで上手いも何もないじゃん! アカネが運良すぎなんだって!」


「違うわよ。あんたが変なマス踏みまくってあたしにコインやらスターやら献上しまくったんでしょ」


 そう、神谷に不運が続いているのだ。

 なぜかこのゲームをやっている今日に限って運が悪く、手に入れた資産が次々他のプレイヤーへと流れていく。


「大丈夫ですよ。例え身ぐるみを全部はがされても私が養いますから」


「み、みどり……せめて裸一貫になる前に何とかして……」


「いちゃいちゃきっついわあ……」


「不本意だよ!」


 本人としては全くそんなつもりはないはずなのに、どうもアカネの目には『そういうふう』に見えるらしい。よくよく考えると抱きかかえられている時点で何を言ってもという感じなのだが。


 そんなこんなでプレイを続けていると、ついに終わりの時がやってきた。

 ラストターンが終了し、集計が始まる。

 ……なんというか、予想通り。劇的な逆転があるわけでもなく、順当にアカネが一位を勝ち取った。その下に園田、神谷と続く。


「もうやだあ! 格ゲーとかにしない?」 


「それだとあんた勝っちゃうでしょうが。勝負にならないっての」


 慣れたジャンルだと、初心者にはそうそう負けないのである。

 少年野球に高校球児が踏み入るようなもので、ひとえに地獄だ。

 

「そういえば光空さんは?」


「部活。最近忙しいらしくて……わたしたちのことも気にしてくれてたらしいけど、なかなか時間が合わなくて」


「そういえばあんたたちは部活入らなかったの?」


「あー……わたしはあんまり、そういう気分になれなかったっていうか」


「私はテニス部に入ろうとして断念しました……ふふふ、キラキラしすぎてて目が潰れそうでしたよ」


 突然部屋に暗雲が立ち込め始める。

 一年生の時の話は二人にとってタブーのようだ。

 片や家族を失って間もなく、片や色濃い家庭の影響で誰とも仲良くなれず。

 アカネは空気を読んで話を変えることにした。この面子――光空を除いた三人なら話すべきことがある。


「そういえば【TESTAMENT】の方はどうなの? 前回からそこそこ経ってるけど」


「ん? ああ、ゲージはもう溜まってるよ」


 なんともなしに。

 園田に抱えられながら放ったその一言は部屋の空気を凍り付かせた。


「…………んん? え?」


「もう溜まってるんですか!?」


「うん、そうだけど。ああそうか、今日言うつもりだったんだ。忘れるところだった」


 あはー、などと笑う神谷を二人は信じられないものを見る目で見ていた。

 なぜ、と。

 前回あれだけ焦っていたのに、と。


「溜まってるなら早く言いなさいよそういうことは……!」


「いやほら、最近それどころじゃなかったしさ」


「確かにそうですけど……」


 痴情の縺れではないが、惚れた腫れたのあれこれで大変だったのだ、本当に。

 だからこそ話題に上げなかった。


「あとは、まあ、わたしも反省したってこと。前回あんなことになっちゃったでしょ、だから今回からは落ち着いて臨もうと思って」


 焦った結果、本当に死ぬところだった。

 あの時アカネが駆けつけていなければ、状況を打開できる異能(ちから)を持っていなければどうなっていたか。

 

「あと二回でクリアなんだ。だからできる限り慎重に挑みたい。三人で戦えるけど、それは楽勝ってわけじゃない。どんな敵が来るかは全然わかんないしね」


「成長したわね……抱っこされながらだからいまいちカッコつかないけど」


「……わたしもそう思う」


 みどり離して、といって腕の中から抜け出す。

 少し乱れた服を直すと、居住まいを正した。


「だから準備をしよう。異能の使い方を練習して、連携とかも考えて、あとはどんな相手が来るかっていうのもできる範囲で予想したり……できることはあるはずだから」


「私もそう思います。頑張りましょう!」


「仕方ないわね。ここまで来たらとことん付き合ってあげるわ」


 三人は誰からともなく手を重ねる。

 あと二回。それだけでクリアだ。この戦いも終わる。 

 だから絶対に負けられない。

 

 ――――そっか。あと二回で終わりなんだ。 


 気を引き締めながらも、神谷の内心は、薄い郷愁に晒されていた。


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