87.AM1:08
横たわる自分の息遣いが聞こえる。
真夜中。窓から入る月明かりを視界の端に捉えながら、それをまっすぐ見ることはない。
園田みどりは、眠れない夜を過ごしていた。
床に敷かれた布団で眠るアカネは静かな寝息を立てている。
気を遣わせてしまっているだろうな、と申し訳なく思う。できる限り普段と変わらないような態度を心掛けてはいるが、そんなこと彼女は察しているだろう。
どうして打ち明けてしまったのか。
どうして気持ちを伝えてしまったのか。
それでどうするつもりだったのか。
そんなことを、ここの所ずっと考えている。
やはり隠しておくべきだったのではないか。
結局あれから神谷とはぎこちないままで、まともに話せた記憶が無い。
こんなことになるくらいなら――と、どうしても考えてしまう。
ずっとこのままなのだろうか。
それはとても悲しくて、なのになぜだろう。
涙は一滴たりとも出てくれない。
月あかりを頼りにスマホを探し、チャットアプリを開く。
神谷とのトーク履歴――背景がピンクのハートまみれで目に痛い――を表示する。なんでもない会話の記録がそこには並んでいた。
本当に他愛もないやりとり。
それでも、過去の自分は文面だけでも楽しそうなのが伝わってきて――眩しくて。
この頃に戻れるならどれだけいいだろう。
告白した時の神谷の澄んだ瞳が忘れられない。
あの、幼い子どもにサンタクロースの正体をばらしてしまった時のような壮絶な罪悪感。
言ってしまったことは取り返しがつかない。もう二度と無かったことにはならない。
こんな夜をあと何度過ごせばいいのだろう。
いつか平気になっていくのだろうか。そうしたらまた以前のように神谷と接することができるのだろうか。想像もつかない。
何もかもが嫌になって、ゆっくり、ゆっくりと目蓋を閉じ、闇の中へと意識を落とそうとして――ぽこん、と。
「うひゃいっ……!?」
とっさに抑えたが声をあげてしまった。
恐る恐るアカネの顔を覗き込むが、起きてしまってはいないようだ。
ひとまず胸を撫で下ろし、原因のスマホを見ると、
『いまおきてる?』
神谷からのチャットが来ていた。
「……………………」
たっぷり五秒間固まって、スマホを拾い上げる。
画面をつけっぱなしにしていたせいで既読がついてしまった。これでは、寝ていたという言い訳は使えない。
「沙月、さん」
こんな深夜にどうしたんだろう、と思う。
わざわざ話したいことなんて――ひとつしかない。だが、だとしてもいきなりだ。
そこまで急を要することなのか。
園田は迷って、迷って、迷って、迷った末に――『はい』と、その二文字だけを返して自室を後にした。
ぱち、と目を開く。
アカネは起きていた。毎晩園田が寝付くまで、こうして寝たふりをしていた。
見守ってやることしかできない自分が歯がゆかったが、それでもできることはしたかった。
「ふあぁあ……ねむ」
ごそごそと布団を深くかぶって丸くなる。
少し安心した。あとはきっと大丈夫だ。
明日からはまた枕を高くして眠れそう。
「ほんと、面倒かけないでよね……」
悪態をつくアカネは、嬉しそうに笑みを浮かべていた。




