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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
五章
86/139

86.恋超えて


 昔から恋愛というものを意識したことがなかった。

 成長するにつれ、周りの子たちがそういった話をよくするようになり、やっと考えの範疇に入ってきたくらいだ。

 それでも自分自身が『それ』をすることはなく、少しだけ置いて行かれたような気分になっていた。

 誰も好きになれないというわけではない。17年の人生で、これまでいろんな人と仲良くなったし、好きになった。特に光空や、例のゲームを起動してから出会った二人……園田とアカネは何より大切に思える友人だ。


 だが。

 それが恋だとはどうしても思えない。


 何が恋なのかは、正直わからない。ひとりひとり違うのではないかとすら思える。

 いつか人それぞれがその形を見つけていくのだろう。もしくは最初から持っていない人もいるはずだ。 

 それでもいい、と思う。

 正直言って恋がしたいわけではない。

 なぜなら『わたし』はそれが自分にとって究極の幸せだとは思わないからだ。恋の形が人それぞれであるように、幸せの形もまた人それぞれ。大好きな人たちがそばにいてくれるならそれ以上の幸せはない。


 だが、それでも知りたいと思う。

 自分の恋の形を。

 どれだけ歪でも構わない。空っぽでも、透明でも、虚無だろうと構わない。

 それがどんな姿であるのかを確かめたい。


 そうでなければ、あの子が伝えてくれた想いに答えられない。




「こんな時に限って北条さんいないんだもんなあ……」 


 ぼやきながらキャベツを刻む。

 丸い緑色に一定のペースで包丁を入れていると、考えに没頭できる。意識せずとも手に染みついた動きができるから。 

 ただ、だからといって答えが出るわけでもなく、そもそも答えがある問題なのかどうかもわからない。

 

 北条という、自分よりは間違いなく人生経験豊富な大人になら何かしら聞けるのではないかと考えてはいたのだが、あいにくと彼女は寮を空けている。

 たびたびいなくなる北条は、もしかしたらカガミを探しに行ってくれているのかもしれないと神谷は思っている。もちろん仕事というのも嘘ではないだろうが。


 困ったとき、北条はいつも親身になってくれた。道を指し示してくれた。いつだって誠実であってくれた。そんなところはカガミに似ていると、神谷はそう思う。

 だからこそ、こんな時いてくれたら――――

 

「……ああ、いたいた」


 などと考えていると、アカネがキッチンに顔を出した。

 毎日顔を合わせているはずなのに、なぜか久しぶりのように思える。それだけまともに話せていなかったということか。


「アカネ……みどりは」


「あの子は……普段通りに振る舞ってるけど、やっぱり落ち込んで――いや、違うわね。戸惑ってるみたい。どうしたらいいのかわからないんだと思う」


 それは、アカネ自身もそうなのだろう。

 ただ告白して、それにどう答えるか――そういった単純な問題ではなくなっている。

 

「みどりは、わたしと、その……付き合ったりとかしたいのかな」


「どうなのかしらね。あの時は半分勢いみたいな感じだったから……もともと気持ちを伝えるつもりはなかったようにあたしには見えた。まあ大して長い付き合いでもないから実際どうなのかはわからないけど」


 そういって肩をすくめる。彼女自身も困っているようだった。


 なら神谷はどうするべきなのだろうか。

 今までと同じように接するのは難しい。かと言ってこのままも嫌だ。

 気持ちを知ってしまった以上なかったことにはできない。


「……やっぱりまた話さないと。こんな何もわかんない状態じゃ何もできない。言わなきゃ何も伝わらないから」


「それで、あんたはどうするの? 気持ちに応えるの?」


 根本的な問いだった。

 神谷の想いは園田のそれと重なっているのかと、そう聞いているのだ。


「わたしは、」


「あの子に気を遣って応えても、みどりはすぐにわかるわよ。あんたの嘘なんか簡単に見抜くでしょうね」


「……うん。だから正直に気持ちを伝えようと思う。それが報いるってことだと思うから」


 その言葉に「そ、ならいいわ」とだけ言って食堂を後にした。

 きっと神谷がどうするつもりなのかを確かめに来たのだろう。

 下手なことを言えば真っ二つにされていたかもしれない、と少しだけ身震いする。


「ふう………………」 


 目を閉じ、園田の姿を思い浮かべる。

 これまでのあの子を思い出す。


 共に過ごした時間は数えるほどしかないかもしれない。

 しかし彼女との思い出は数え切れないほどある。

 

 綺麗な子。強く優しい子。自分を好きになってくれた子。

 あの子のおかげで自分は今ここにいる。

 なくてはならない存在だと、胸を張って言える。

 園田みどりのことが好きだ。


 ならこの想いは恋だろうか。

 心臓は、優しく脈をうっている。揺らぐことはない。


 これは恋ではない。そう思う。


 だが。

 この想いが恋に劣ることは絶対にない。

 それだけは胸を張って言える。

 世界中に届くほどの声で叫ぶことができる。

 であれば尻込みする必要はひとつとしてないだろう。


 あとはぶつけるだけだ。

 素直な気持ちをまっすぐに。 


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