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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
四章
71/139

71.二界背反

 

 静まり返った部屋で、神谷は取り残されていた。

 二人は行ってしまった。あの騎士のプラウと戦うために、今ごろ【TESTAMENT】を起動しているのだろう。

 思考が追いつかなかった。まさか園田が自分の代わりに戦おうとするなんて。そこまで強い意思を持っているなんて思いもしなかった。


 侮っていたのだと思う。

 園田がそういう少女だというのはわかっていたつもりだった。しかしそれは所詮『つもり』に過ぎなかったのだろう。何もわかっていなかった。知ったつもりで、何も知ろうとしていなかった。


 それに、アカネのこと。

 アカネは躊躇いなく園田の隣に立った。

 それは自分にはできないことだ。

 臆病で弱い自分にはできるはずがない。


 置いて行かれたような気分だった。

 自分だけがこの場所に立ち止まっている。

 こんなことを、前にも思ったような気がする。【TESTAMENT】を起動しあの世界に行く前。あの時も踏み出せない自分がもどかしかった。

 あれから自分は全く成長していないのか。前に進んでいるつもりで、実はずっとその場で足踏みを繰り返していただけだったのか。


 そんな気持ちを振り払うように、学校の鞄の中に入れっぱなしになっていた携帯ゲーム機を取り出し電源を入れる。

 現実逃避だ。逃げている場合でないことくらいはわかっている。しかしもうこれに縋らないと平静でいられなかった。


 ここ最近プレイできていなかったゲーム。有名RPGの最新作。

 セーブデータをロードすると、ダンジョンの最奥、ボスの直前にあるセーブポイントから始まった。

 目の前にある扉を開けると、短いイベントシーンのあとボス戦が始まった。


「……やっぱ逃避だったんじゃん」


 以前に、自分にとってのゲームとは寂しさからの逃避でしかなかったのではないか? という疑問を抱いたことがあった。しかしその時は光空のおかげで自分が本当にゲームを好きでやっていると確信できた。欠落を埋めるための道具ではないのだと。

 しかし、今考えるとそれはやはり間違いだったのだ。

 これまで通ってきた道の何もかもが自分を否定しているような気がした。

 

 そんな考え事にふけりながらボスと戦っていると、気づけばパーティメンバーの一人が倒されてしまっていた。唯一の回復役だ。慌てて蘇生アイテムを使って立て直そうとするも、こちらが行動する前にボスの攻撃で一人、また一人とやられていく。

 そのまま最後に主人公のHPもゼロにされ、あえなくゲームオーバー。


「……やっちゃった……」


 画面にはGAME OVERの文字と、その下に『タイトルに戻る』という表示。

 神谷はそれをぼうっと見つめていた。


「――――ゲームならやり直せる」


 『タイトルに戻る』を選択する。


「たとえ死んだって、こうやって……」


 タイトル画面の『LOAD GAME』を選択する。


「なかったことに出来る」


 でも、


「でも、」


 アレはゲームじゃない。


 腕に滑り込んできた冷たく硬い金属の感触がフラッシュバックする。


「ッ!!」


 目をきつくつむり、右腕を掴む。


 毎晩夢に見る。

 冷たいものが腕の中を滑る感覚。

 飛び散る鮮血。

 くるくると宙を舞う右腕。


 そしてあの、言葉にできないほどの激痛。


 絶望的な記憶が神谷を縫い付けて離さない。

 もう、一歩として動けそうになかった。





 そして満月の下。

 以前と同じ交差点で園田とアカネは騎士のプラウと対峙していた。


「あたしがあいつを直接叩くから後ろで援護よろしくね」


「ええ。でもアカネちゃんと二人で戦うことになるなんて思ってもみなかったです」


「あたしもよ。人生わからないものよね」


 前回と同じようにこちらへ向かってゆっくりと歩いてくる騎士を一瞥し、アカネは小さく嘆息する。


(……しっかしどうしたものかしらね。あいつの剣技はあまりに洗練され過ぎてる。血を使って出力を上げても倒せるかどうか)


 本気を出せば食らいつけはするだろうが、倒すまでに至るかというと微妙なところだ。武器が大鎌ということもあり、リーチでは勝っているもののそれも大した差ではない。立ち回りで簡単に埋められてしまう程度のものだ。逆に大振りになりがちな性質が命取りになる可能性もある。


 どうするのがベストか。

 身体に染みついた戦闘の経験に訴えかける。


「やっぱり、みどり次第ってところかしら」


「私ですか?」


「ええ。あなたの頑張りにかかってるわ――さあ、行くわよ」


 そう言うとアカネは騎士へと猛然と接近し、鎌を振り下ろす。

 それに素早く反応した騎士は剣を打ち合わせる。

 何度も何度も刃がぶつかり合い、火花が散る。


「まじで速いわね……!」   


「《イーグル》!」


 園田の銃から素早く撃ち出された鳥のような形状の弾丸が襲う。しかし騎士はアカネと交戦しながらも身体をひねり回避してみせた。


「くっ…………」


「いいからどんどん撃ってみどり! 攻めまくって対処を強要し続ければ、いつかはほころびが出るはずよ!」


 機械でないかぎりはいつまでも最適解を選び続けられるわけではない。

 肉体的にも精神的にも疲労はする。

 だから、こちらの体力が限界を迎えるまでに相手の隙をアカネが見つける。それしかない。


 猛然と足元を払う剣をバック宙でかわしたかと思うと、アカネは逆さまのまま空中で鎌を振るい騎士に一撃を加える。しかし装甲は思ったより硬く、傷をつけるに留まった。


「堅い……!」


 歯噛みする。しかし相手は確実に体勢を崩している。

 そこへ、


「《レイジングブル》!」


 渦巻く巨大な弾丸が発射される。

 一直線に騎士へと激突し、凄まじい威力でもって何メートルも吹き飛ばした。

 だが、


「…………駄目! 吹き飛ばしただけでダメージになってないです!」


 園田の言う通り、視線の先ではむくり、と騎士が何事も無かったかのように起き上がっている。

 やはりあの鎧の中にまで直接ダメージを通すことができないと有効打にはならないらしい。


「そうなると斬撃、貫通……あとは熱とかかしら」


 大鎌を構え直す。

 やはりメインの火力源はアカネだ。

 この場でもっとも通用するだろう。

 ならば、


「私がなんとか隙を作ります。アカネちゃんは一撃に懸けてください。最大の一振り(フルスイング)でお願いします」


 急造コンビながら意思の伝達は上手くいっている。

 摩擦もない。

 これなら勝てるかもしれない。

 だが。


(それでも)


 園田にとって、一番隣にいてほしい少女がこの場にはいなかった。


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