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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
四章
64/139

64.快刀乱麻を断つ


 願いを叶えるため、必死で戦ってきた。

 前だけをただ見つめて走り続けて……その甲斐あって少しずつ目的へは近づいていた。


 だから気づけなかった。

 前だけをひたすら見ていたせいで、大切な何かを踏みにじっていることに。


 全ては仮定の話になるが――もし。

 もし立ち止まって振り返っていれば、そのことに気づけたのに、と。

 往生際悪く、そう思ってしまうのだ。






 プラウの力を切り替え、緑雷をその脚に宿した神谷は果敢に攻める。しかしそのことごとくを捌かれ、そこを園田がフォローすることでなんとか致命傷を避け続けていた。

 

「沙月さん、一度引いてください! 足並みを揃えないと――――」


「時間が無いんだよ! 攻めないと負ける!」


 プラウの力を使える時間が少なくなっている以上、それは正しいのかもしれない。しかしそもそもその力がろくに通用していないのだ。考えなしにただ振るうだけで、技術も何もない。だから騎士のプラウに対応されてしまっている。


 そして時間が少ないというのはもう一つの問題を孕んでいた。

 プラウの力を引き上げる限界励起(オーバーロード)……それは活動限界時間をおよそ三倍の速さで消費する。今の状態でそんなことをすれば瞬く間にプラウの力は終了してしまうだろう。

 その力で一気に決めてしまえれば――そんな考えも頭をよぎるが、リスクを冒した上で通用しなかったら取り返しがつかない。

 その上先ほど二重励起(ダブル・スロット)の使用に失敗していることが心理的ブレーキとして働いていた。また失敗したら――という風に。

 

 園田もそれはわかっている。

 だからこそ二人の連携で攻めないと敵わないと考えたのだ。しかしただがむしゃらに神谷が突っ込んでいくことによりそれができず、フォローに回るしかない。そのせいで園田は迂闊に攻撃することができなかった。

 そして、フォローに追われ攻撃する余裕がないというだけでなく、動き回る神谷を撃ってしまわないかという懸念もまた同時に存在していた。

 あのプラウの剣はまさに一撃必殺だ。神谷を撃って隙を作ってしまえば、容赦なく両断される。


「…………だとしても協力すべきです!」


「だからそんな暇ないんだって!」


 そんな二人の不和は口論にまで発展し――その隙を逃すプラウでもなかった。

 黄金の剣を勢いよく振り上げる。すると凄まじい衝撃波が生まれ、地を這い突き進む。

 その軌道には神谷と園田がまとめて縦に並んでいた。

 

「やば……!」


 とっさに横へ飛び回避する神谷。だが、後ろにいる園田は神谷の身体が目隠しになっていたこともあり、


「――――え」


 反応が遅れ、まともに食らう。衝撃波が巻き込んでいた地面の破片が同時に全身を叩き、園田の身体は無抵抗に吹き飛ばされる。

 一度バウンドし、地面に倒れる。園田が跳ねた地点には赤い血が見間違えようもなく付着していた。そして、今彼女が倒れている場所にも。


「み――みどり!」


 慌てて駆け寄り抱き上げる。

 いたるところから出血しているが、息はある。だがすぐには立てないようだ。


「さ……つき、さん……」


「――――」


 怒りが爆発した。

 園田を傷つけた騎士のプラウにだろうか。

 それとも……。


 もう何もわからない。

 何か正しいのかもわからない。

 だから、ただこの衝動を目の前の敵にぶつけようと思った。


「出ろ! プラウ・スリー――励起(ロード)!」


 脚の電光が引っ込み、代わりに両手を紅蓮の炎が覆う。

 ウサギのプラウを象徴する獄炎を引き出した。

 拳を用いた攻撃の大幅な火力アップに加え、纏った炎の操作を可能にするのがプラウ・スリーの力だ。

 とにかく力押し。通常励起でもこれなら通用する――そう考えた。


 滾る熱を宿し、静かに佇む騎士へと詰め寄り拳を振るう。

 だが軽やかなバックステップで騎士はその攻撃を回避した。


「逃げるなこのぉっ!」


 手のひらから小さな火球をマシンガンのように撃ち出す。

 無数の赤い弾丸を、しかし騎士はその黄金の剣でもって全て切り捨てる。

 散り散りになった炎が辺りに着弾し煙幕を作り出した。

 

 ぴくり、と騎士が何かに反応する。

 直後、白い幕を破って眼前に神谷が現れた。

 先ほどの攻撃はダメージを与えることが目的ではなく、視界を塞ぐためだったのだ。

 前回の戦いで有効だった戦法を再利用した。さすがにプラウ・スリーほど優れた聴覚は持っていないはずだからなおさらだ。

 

 とっさに騎士は剣で応戦しようとするが――――


「おっそい!」


 炎の拳が鎧に叩き込まれる。

 軋むような音のあと、小さなヒビがその鈍色の胴体に入る。

 

「まだ終わりじゃないから!」


 さらに拳を叩き込む。一度、二度、三度、苦し紛れに振り下ろされた剣を弾いて四度目。

 ずざざっ、と騎士の身体が何mも後ろに滑り、剣を突き立ててようやく止まった。

 活動限界(リミット)が近い。ここで終わらせる――そう決意した神谷は腕の炎を推進力とし、一気に騎士との距離を詰め――――



 それは一瞬の出来事だった。



 ふたつ、衝撃を感じた。

 ひとつ目は右腕。二の腕あたりに軽いもの。冷たく硬い何かに撫でられたような。

 ふたつ目は腹。思い切り蹴り飛ばされた。


 吹き飛ばされ、地面に転がる。


「…………ッ」


 早く起き上がらねば。追撃をかわすべく上体を起こすと、視界の隅、空中に見覚えのないものが映った。

 それは棒のように見えた。月の逆光でシルエットしかわからない。だが、とても見覚えのあるもののように感じた。

 それは飛沫を飛び散らせながらくるくる、くるくると宙を舞い――ぼとりと。

 湿った音を立てて目の前の地面に落ちた。


 騎士は動かない。既に闘いは終わったとでも言うように佇んでいる。


 落ちたそれを、見る。

 長さは数10cmほどで、軽く折れ曲がっているそれの、月明かりでてらてらと光る断面からは赤い液体が少しずつ流れ出て――

 つまりそれは。


「え、」


ゆるゆると、神谷は自分の右半身に視線を移す。


 そこにはあるはずのものがなかった。

 右腕。


「あ、あ」


 切断面からは血が流れ出し、既に小さな血溜まりを作っていた。

 何かが折れる音がした。


 月の下。

 少女の悲痛な叫び声がこだまする。

 

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