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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
四章
62/139

62.突発ソロチャレンジ(未遂)


 次の日。

 神谷の熱はすっかり引いていて、体調も平常時と変わらないところまで戻っていた。

 当人は大丈夫だと主張していたが大事を取って一日休むことになった。

 

 そして日中の間神谷が何をしていたかと言うと、アカネと一緒に軽い説教を受けていた。

 記憶を失い不安定な状態なのに何も言わず一人で出歩いたことを北条は咎めた。


 そして神谷は……正直扱いが難しかった。

 ああなった原因ははっきりしているがゆえに責めづらいこともあり、もう少し落ち着いて行動するようにという注意を受けて、二人は解放された。


 その日、神谷とアカネの二人にほとんど会話は無かった。

 アカネは寮の屋上で、神谷は自室でそれぞれの時間を過ごしていた。


 二人が話さなかったのは、神谷が妙に静かだったからだ。

 今日の彼女はほとんど言葉を発しなかった。ぼんやりしているわけでもなく、はたから見ていると雰囲気は変わらないように見えるのだが、何かが違っていた。

 意識だけが遠くに行っているような虚ろさ。心ここにあらずという状態だ。


 しかしアカネに何ができるわけでも、したいわけでもなく、放っておいた。

 そのままぼんやり時を過ごしていると、見下ろす視界に人影が写った。

 学校の方から寮へと歩いてくるその少女は、


「……あれ、帰ってきた」




「園田ちゃんどこかいくの?」


 昼休み開始のチャイムと共に教室を出ようとしている園田の背中に光空は声をかけた。

 喧騒をかき分けて、少し急いだ様子の園田は足を止め振り返る。


「一度寮に帰って沙月さんの様子を見てこようかと思って」


「ん、じゃあ私も行こうかな。大丈夫だとは思うけど」


 昔から、神谷は傷や病気の治りは早い方だった。

 今日だって朝にはピンピンしていて、むしろ学校にいけないのを残念がっている様子だった。

 以前とは大違いだ、と光空は内心喜ぶ。前の神谷は毎朝覇気が無く、直接口にはしなかったが学校に行くことに気が進まないようだったから。

 

 ただ、今日は神谷の顔をあまり見れていないので、少しでもその時間を増やそうと思い園田に連れ立って出ていこうとするが――――


「陽菜さんよ。あなたは部活のミーティングでしょ」


 クラスメイト兼陸上部の子にがっしりと肩を掴まれる。

 カチューシャで前髪を上げおでこを見せている活動的な印象の少女だ。


「や、休みます」


「拒否権なし。さっさと行こうねー」


 いやだあああぁぁぁぁああ……と引きずられていくのを見送った後、園田は教室を今度こそ出た。

 光空は気の毒だがこれはどうしようもない。



 

 そんなこんなで寮に戻ってきた園田は二階への階段を昇る。

 なんとなくだが、神谷は自室にいるような気がしたのだ。

 体調はどうか聞いて、昼食を共にして――そんなやり取りを想像しながら一歩一歩昇っていく。

 元気でいてくれたらいいな。そう思っていた。

 

「さて、いるでしょうか」

 

 だが、昇り切った園田はそこで信じられないものを見た。

 神谷の部屋の、少しだけ開いたドアの隙間から――純白の光が溢れ出している。

 それは以前にも見た光景だった。忘れるはずもないあの日。

 神谷と初めて言葉を交わしたあの日。つまりそれは、【TESTAMENT】が最初に起動した日。

 つまり。


「沙月さん!?」


 慌ててドアを開くと、ゲーム機から溢れる純白の光の奔流と、今まさにそれに包まれかけている神谷の姿があった。


「あ、」


 驚いたような声を上げたが、それとは裏腹に全くの無表情を見せて、神谷は光に飲まれた。

 慌てて後を追おうとするが今度は、


「みどり!? 何なのこれ!」


 後ろにアカネがいた。

 屋上から帰ってくる園田を見つけて、出迎えようとしたのだ。

 

「――――とにかく行ってきます! 近づかないで!」


 この光に飲まれれば、アカネまで『入って』しまう。

 もしかしたらこの中ではアカネも異能を使えるのかもしれないが、それでも(いたずら)に巻き込むわけにはいかなかった。

 園田の大声にびくりと動きを止めたアカネを見て頷き、白光に身を任せる。


 早すぎる、と思った。

 前回から一週間と少ししか経っていないのに。

 【TESTAMENT】のゲージの溜まり具合にはばらつきがある。

 何か法則性、または溜まる要因があるのか。

 

 だがもう起動してしまったならプラウを倒すしかない。

 前回は、じっくり準備してから行くべきだと神谷は主張していたはずだ。

 なのにどうして今回はここまで気が急いてしまったのか。

 偶然園田が戻ってこなければ、一人で戦うことになっていた――いや、あの表情からすると、神谷は実際にそうするつもりだったのではないか。

 どうしてと考え、すぐに思い至る。


 昨日のことが原因かもしれない。

 トラウマを喚起された神谷は、カガミへの情念を沸騰させたのだ。

 だからクリアを急いだ。


 今日この日――おそらくはついさっき。

 神谷は【TESTAMENT】のゲージが満タンになっているのに気づいた。

 その瞬間、すぐに起動することを決めたのだろう。

 プラウと戦うにあたって、準備をすることも、仲間(園田)を待つことも放棄して。



 その軽率な利己心がどのような結果を生むのかも、未熟な神谷にはわかっていなかったのだ。


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