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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
三章
46/139

46.暴星の白兎


「あっつ…………!」


「すごい熱気ですね……」


 気が付くと二人は繁華街にいた。

 学校からそう遠くない距離にある、このあたりの学生が遊びに行くならまずここ、という場所だ。

 駅も近く、このあたりはいつも人で賑わっている。


 だがやはり今までと同じく、知っている場所のはずなのにその姿は変わり果てていた。

 

「はぁ、はぁ、なんでこんなに燃えてるの……」


 ビルも、専門店も、大型ショッピングモールも、彼女たちが立っている場所から見えるほぼすべての建物が、それぞれ程度の差はあれど燃え上がり、そして崩れかかっていた。おそらくここ一帯がまとめて炎上しているのだろう。

 街単位の大火事だった。

 そして人の気配はやはり無い。

 おもむろに空を見上げてみると、星の無い空に巨大な満月が輝いていた。


「ふッ!」


 気合を込め、神谷は異能を発動させる。見慣れた白光が四肢を覆った。

 すると暑さがかなり和らいだ。やはり異能には使用者の身をある程度守ってくれる効果がデフォルトで備わっているようだった。


「みどりも早く出した方がいいよ。暑いのかなりマシになる」


「了解です」


 返答すると同時に周囲の空気が黒く染まり、渦を巻いて園田の手に集まる。

 瞬きすると二丁の銃が彼女の手に収まっていた。


「よし、じゃあプラウを探そう。手分けし――――」


「その必要はない」


 全く聞いた声の無い声が割り込んできた。


「え」


 とん、と。

 驚くほど軽い着地音とともにそれは現れた。


「沙月さん、これは――――」


 言うが早いか、すでに園田が異能のサブ機能とでも呼ぶべき能力『分析』で飛来してきた者の正体を看破している。

 視界に映る文字は『plough3』。倒すべきプラウで間違いない。

 そしてその姿は今までのプラウとはかなり異なるものだった。


 目測で身長は180cm程しかないだろう。最初のゴーレムや、その次の大樹と比べると小さく見える。

 すらりとした長い手足。シルエットだけならほぼ人間と変わらない。

 しかし、全身を覆う白い体毛に、頭部からぴんと真上に伸びる長い耳。そして鋭くつり上がった目が自分たちとは違う存在なのだと主張していた。

 まるでウサギをそのまま人型にしたかのような姿。

 獣人、という単語が頭をよぎった。


 どこかの店から持ち出してきたのか、下半身にはジーンズを着用しており、両手は革のグローブに包まれている。首には炎のように赤いスカーフが巻かれていた。

 その姿からは、これまでの敵とは一線を画す、人間のような知性が感じられる。


 神谷は思わずごくりと喉を鳴らした。

 あのウサギのプラウはただそこに真っすぐ突っ立っているだけだ。それだけのはずだ。

 なのに。


 なんだ、この威圧感は?


 まったく隙が無い。

 どうやって攻めればいいのかさっぱりわからない。

 どんな行動も狩られてしまう――そんな想像が頭から離れない。


 現に今、神谷と園田の視界の外にいた――遠くにいたはずなのに、突然現れた。

 おそらく神谷たちの到来を感知し一息にジャンプしてきたのだろう。

 それなのに着地した時の衝撃がほとんど皆無だった。

 どのような技術、もしくは能力があればそんなことができるのか。


 今までのプラウも確かに強かった。

 持てる力を振り絞り、使えるものは命だろうと使って勝利してきた。


 だが、この相手は次元が違う。

 今、神谷は初めて明確に、恐怖で身体を震わせた。


「ようやく来たか」


 低く重い声だった。やはり、とは思っていたが先ほどの声はこのプラウのものだったのだ。

 そしてそれは、言語を解し使いこなすほどの知能があることを意味している。


「しゃ、しゃべった」


「うん? 別に喋ってもおかしくはないだろう。人間だって口が達者な奴がいれば口下手な奴もいるんじゃないのか」


「そんな問題じゃないと思うけど……」


 こうやって話が成立していること自体が、神谷にはおかしく感じた。

 漫画やゲームなら人でない存在が人語を話すということは往々にしてあるものだが、現実にこうして目の前で喋っているのを見ると違和感が拭えず、頭がバグを起こしそうだった。

 

「どうでもいいことにこだわるんだなお前は――ん? ちょっと待て。そいつは何だ」


「わ、私ですか……?」


 まるで今初めて気づいたとでもいうように園田に向かって指をさす。

 

(なんだこいつ……わたしが来ることに関しては予想していたみたいなのに、みどりのことはまるで想定外みたいな……)


「…………ちっ、イレギュラーか。ずさんな創りを……おい、その異能(ちから)はなんだ。どうやって手に入れた」


「え、それは……偶然というか」


「偶然? ありえないな。異能というものは……いや」


 そこで言葉を切った。

 なにか重要なことを言おうとしていた――そんな気がする。

 神谷の異能と園田の異能になにか相違点があるのだろうか。

 

「どうでもいいことだ。一人が二人になろうと――いや、そこのイレギュラーは一人分にも満たないな。ただの出来損ないに過ぎない」


「――――なんだって?」


 それだけは聞き過ごせなかった。

 こいつがどれだけ強くても関係ない。園田の強さを否定させるわけにはいかなかった。


「この子のことをなんにも知らないくせに、好き勝手言うな」


「ああ、知らないな。だけどそのイレギュラーの異能がどういうものかはわかる。急造で不完全。俺どころかお前にも遠く及ばない」


「この……っ」


「大丈夫ですよ、沙月さん」


 隣から聞こえたのは冷静な声だった。

 思わず声の主――園田を見ると、穏やかな笑みすら湛えている。


「あなたがわかっていてくれればそれでいいですから」


「みどり……うん、そうだね。そうだったよ」


 視線と共に想いを交わす。

 ただの一言で、そう簡単には断ち切れるものではない。


「御託はいい。そろそろ始めるぞ」


「いいよ。わたしたち二人ならお前にだって負けないんだ」


「そうか。期待に応えてくれると嬉しいが」


 ウサギのプラウはため息をつく。

 何か、少し寂しそうな様子……そう神谷が感じていると、プラウは再び口を開く。



「――――ならば、火蓋はこちらから切らせてもらうぞ」



 直後、鈍い音がした。

 何が起きたのかわからなかった。


「……?」


 5mほど前方にいたプラウが消えている。

 どこに――そう考えたのと同時。

 はるか後方から轟音が聞こえた。


 思わず振り返ると、ずっと向こうにあるオフィスビルの玄関が、砲弾でも投げ込まれたかのような壊れ方をしていた。

 

「なに、が…………みどり、」


 隣に目を移す。

 しかし。

 園田の姿はそこには無い。

 代わりにそこには――拳を突き出した状態で佇むプラウの姿があった。


 理解が追いつかない。

 しかし、動揺で思考が停止した、その一瞬の空白が命取りだった。


 ……いや。例えその空白がなかったところで、おそらく何も変わらなかっただろう。


「呆けていると死ぬぞ」


 端的なその言葉と同時に、腹部に強烈な衝撃。

 ふわりと空中に浮かされた神谷は、その状態のまま――目にもとまらぬ速さのボディーブローを食らったのだ、と混乱する頭で辛うじて理解する。


 おそらく園田もそう。

 彼女は単純に殴り飛ばされただけだ。ただし常識外れのパワーとスピードで。

 ビルに放り込まれたのは砲弾などではない。園田だ。吹っ飛んだ園田がビルへと叩き込まれたのだ。


 そして、必死に思考を回す神谷を容赦なく追撃が襲う。

 空中に浮いた矮躯を、居合切りのようなハイキックが襲った。


 まるでティーバッティング。

 空中で受けた衝撃は全く逃がすことができず、神谷はホームランボールのように宙を舞う。

 園田が飛ばされたオフィスビル……その地上十階の窓目がけて、小さな身体は真っすぐに叩き込まれた。


 割れたガラスがぱらぱらと雨のように降り落ちる様をプラウは静かに見つめている。


「……俺の縄張りに入って来たからには、絶命なしに出られるなどとは思わないことだ」


 口にした言葉は、事実上の死刑宣告。

 既に二人の侵入者はピクリとも動く様子はない。


 


 第三ステージ。

 炎上する都市。

 そこにいたのは――残酷なほどに純粋な力の権化だった。

 

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