44.※誤解を招く表現が含まれています
そこは炎上する街だった。
人の気配はない。
飲食店やビルを始めとした建物はひとつ残らず火に巻かれていて、原形を留めているものを見つけるほうが難しい――そんな状態。
初めて【TESTAMENT】を起動したときの学校よりなお酷い惨状だ。
そんな街に二人の少女が立っていた。
ひとりは神谷沙月。小柄な黒髪の少女。
もうひとりは園田みどり。灰色の髪と瞳が印象的な少女。
二人がここにやってきたのはプラウという名の怪物を倒すためだ。
神谷は熱に顔をしかめながら、先ほどまで繰り広げていた園田とのやり取りを思い返していた。
「作戦会議するぞ! おー!」
「おー……って、なんですか作戦会議って」
園田は、突然部屋に上がりこんできた神谷に対して怪訝な瞳を向ける。
日曜日だった。休みの日だからと油断しきった園田はベッドに寝転びながらチョコを齧っていたのだ。彼女の癒しの時間であった。
そんなことはつゆ知らず、神谷は短パンのポケットから白い携帯ゲーム機を取り出して園田に見せる。
「これ。いつの間にかゲージ溜まってた」
「あ……!」
とうとうこの時が来たか、と園田に緊張が走る。
これまでは偶然巻き込まれたり、危険を冒して自分から着いていくだけだった。
だが今回からは違う。戦うことを前提に、あの世界へ行くのだ。
「つまり作戦と言うのは【TESTAMENT】のための、ということですね」
「うむ」
何故か腕を組み尊大な様子で神谷は頷く。
「はー……私はてっきりまた『ゲージ溜まった、今すぐ行くよ!』みたいな慌ただしい感じになるものだとばかり……」
「うぐ……あ、あの時は色々焦ってて……とにかく! さくせんかいぎするの!」
駄々をこねる子どものような姿に園田は苦笑する。
「……わたし、前回はいろいろ不甲斐なかったから。準備もせずに勢いで行って、結局やられて……みどりに助けてもらうことになっちゃったし」
「沙月さん……」
以前の軽率な行動を、神谷は恥じて反省している。
命が関わる戦いなのだから、もっと入念に準備していくべきだったのだと。
「まあ、わたしってそもそもボス戦前は装備を整えていくタイプだからさ。付き合ってよ」
「……はい!」
こうやって改まった行動に出たのは、園田の存在も理由としてあるのだろう。元はと言えば神谷が巻き込んだことだ。だからその責任をできるだけ果たそうとしてくれている――そのことは、言葉にせずとも園田にはわかっていた。それが何より嬉しかった。
「まずみどりの異能を教えてほしいんだけど」
「ああ、そういえば言ってませんでしたね」
あれからあまり【TESTAMENT】関連の話はしてこなかった。
だが一緒に戦うとなればお互いのできることを把握しておくのは大事だ。
「まず私の異能はですね――――」
そう言って園田が何ともなしに手を空中で開いた瞬間だった。
ぎゅるるる、と空気が渦を巻いて黒い銃を形成したかと思うと園田の手に収まった。
「えっ」
「えっ」
沈黙が下りる。
二人はゆっくりと、その銃を見つめる。
その後、これまたゆっくりと顔を見合わせた。
「ちょちょちょちょ、待ってなんで!? 異能ってあっちの世界じゃないと使えないんじゃないの!?」
「し、知りませんよ! 私だって使えるなんて思ってなかったですもん!」
その時、部屋のドアがノックされる。
「園田ちゃーん? 沙月もいるの? どうかしたー?」
ドアの向こうから聞こえてきたのは光空の声だった。騒ぎ声が聞こえてしまい、心配して来てくれたのだろう。だがその優しさが今は痛い。非常に痛い。
なにしろ今現在園田の手には黒光りする銃が握られているのだ。
「このままだと最低でも変な子と思われちゃいます……っ!」
「みどり早くそれ消して!」
「どうやって!?」
「知らないよそんなの! もう隠しちゃおう!」
ここまですべて小声である。
ただ、慌てていたのが良くなかった。
二人ともが銃を隠そうとした結果、
「あいたっ!」
「あうっ」
ごつん!
額どうしをぶつけて折り重なるように倒れ込む。
「ちょっと、大丈夫!? ………………ええ………………」
光空、異様な音の連続に突入を敢行。
そこで目撃したのは……園田に床ドンされる神谷の姿だった。客観的にどう見てもマジでキスする五秒前。
二人はおそるおそる光空の方を見る。
「スーーーーーーッ………………お邪魔しました」
ぱたん。
無情にも扉は閉められた。
「…………」
「…………」
しばしの沈黙が下り、
「「待ってーーーーーー!!」」
その後誤解を解くのに30分を要した。
冷静になることの大切さを、神谷と園田は学んだ。不本意な形で。




