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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
三章
37/139

37.できれば青い空がいい


 甲高いホイッスルの音と共にスタート。

 背筋を伸ばし、脚を交互に前に出す。


(――――重い)


 走っても走っても進んでいないような気がして、もっと必死に地面を蹴る。

 やけに自分の呼吸音が良く聞こえた。


(……あれ、私)


 目が眩む。視界が揺れる。ぼんやりとして、地に足をつけている感覚が希薄になっていく。

 意識が散り散りになっていろんな場所に飛んで行っているかのようだった。

 

(どうやって走ってたんだっけ)


 いつの間にかゴールラインを走り抜けていたらしい。

 中腰になって荒く息をつく。

 前はこんなに息が切れることなんてなかったのに。

 

光空(みそら)


 ストップウォッチを持ったコーチが呼んでいる。

 慌てて顔を上げると頭がくらくらした。

 

「――――――――」


 告げられたそのタイムを、自分のものとは信じたくなかった。




「おっひる!」


 四限目の終了とともに神谷は勢いよく立ち上がる。

 鞄から弁当箱を取り出したかと思うと一直線に光空の席へと歩いていく。


「陽菜、今日お昼どうする? みどりと中庭行こうと思ってたんだけど」


「……ごめん、実はもう食べちゃっててさ。これから昼練なんだ」


 光空はへらりと笑う。

 ここのところ光空は今までにも増して精力的に部活に取り組んでいた。

 朝練に、昼休み。放課後は遅くまで部活に勤しんでいるようだ。


「しばらく部活で忙しいかも。ごめんね」


「そっか……がんばってね」


 神谷は少しだけ気落ちしたが、応援したいという気持ちも勿論ある。だからそれ以上は何も言わなかった。

 そもそも神谷は、光空が自身に構うよりも部活などを優先して欲しいと思っていたのだ。


「沙月さん?」


 いつの間にか近寄ってきていた園田が神谷の背中から顔を出す。


「あ、みどり。陽菜部活だってさ。二人で食べよっか」


「そうしましょう。光空さん、部活頑張ってくださいね」


 そう声をかけ、連れ立って教室を出ていく。

 がんばるよ、と光空が呟いた言葉は小さくて誰の耳にも届かなかった。



「あの二人さー」


 がたん、と椅子を傾け、近くの席のクラスメイトが光空に話しかける。


「なんか最近変わったよね。陽菜はなんか知ってる?」


 光空は何かを言おうとして、結局やめた。

 なにも言えることが無かった。二人の関係については、ひとつとして知っていることが無い。


「……わかんない。なんにも……」


 代わりに零した言葉はどこまでも空虚だった。




「最近陽菜の様子がおかしいんだよね」


「そうですか?」


 中庭で弁当をつつきながら、二人は光空について話し合っていた。

 今日の弁当はミニハンバーグにほうれんそうのお浸しに昨夜残った煮物である。

 煮汁がごはんに侵食することを考えてなかった、と神谷は苦い顔をしている。


「うん。少し前から部活のことで悩んでるっぽいのは知ってたんだけど、最近どんどん……なんていうか無理してる感じがする」


「はあ、なるほど。私はだいたい沙月さんを見てるので気づきませんでしたが……」


「堂々と言わないでよ。たまに目線が怪しいぞ」


 よく視線を感じるがそれはまだいい。

 しかし時々だがその視線がきわどい部分に向いているときがある。胸元だとか、スカートの裾あたりだとか。

 いちいち注意したりはしないが、それなりに気にしてはいた。


「まったく、こんなちんちくりん見て何が楽しいんだか……」


「サイズの問題ではないんです! 沙月さんだから見るんですっ!」


「拳を握りしめて力説する前にまず視線を外しなさいバカ! 女同士でも関係なく普通にアウトだから! 反省して! ……いやそれより陽菜だ。みどりにかかずらってる場合じゃなかった」


 本当にそんな場合ではない。

 神谷はスカートの裾を伸ばして座りなおす。

 みどり、基本的にいい子なんだけどこれさえなければなあ……とため息をつく。


「何とかしたいんだよ。陽菜には笑っててほしいから」


「大事な幼馴染ですもんね」


「うん。といっても昔と今で関係は変わったから、そう言っていいのかわかんないけど」


 食べ終えた弁当をランチクロスで包みながら神谷は言う。

 小学生の時と今では二人の性格も少なからず変化しているし、学校内での立ち位置はほぼ逆転してしまっていると言っても過言ではない。

 まだ子どもだとはいえ、あの時ほど幼くもない。微妙な年ごろだった。

 

「まあ、わたしがあの子を大切に思ってるのは変わらないから。……でも、わたしができることってあるのかな。部活のことはよく知らないし」


「そうかもしれませんね」


「おお、はっきり言うね……」


「でも」


 そこで口を閉じた園田の方を見ると、彼女はにっこりと笑っていた。

 憂いは無い。神谷への信頼が感じられる表情で――見ていると顔が熱くなってくるくらいだった。


「きっと、光空さんは沙月さんに助けてほしいって思ってますよ」


「……な、なんでそんなことわかるの」


「ふふ、だって私も同じでしたから」


 きっとあの人はすこし私に似ているんですよ――空を仰ぐ園田はそう言い切った。

 つられて神谷も見上げる。

 雲ひとつない、真っ青な快晴がそこにはあった。


「私も光空さんのこと、お友達だと思ってるので。元気になってほしいです」


「じゃあ頑張ってみようかな。お墨付きをもらっちゃったしね」


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