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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
二章
18/139

18.いつまでも輝く君を見ていたい

 



 そんなつもりはなかったのです。

 私はただ、綺麗なものが見たかった。

 それだけだったのです。


 ……いえ、誤魔化すのはやめにしましょう。

 ”それ”が何を招くのか、さすがの私にもわかります。

 愚かな私にもわかります。


 綺麗なものが見たかった。

 きっと、その想いだけが私の罪だったんですね。






 目の前に佇む機械の狼を見る。かなりの距離を高速機動で駆けて来たからか、非生物だというのに疲れが見えるような気がした。考えてみれば当たり前だ。

 機械ならなおさら、エネルギーの問題からは逃れられない。見れば瞳は明滅し、今にも消えかかっている。


 だがそんな神谷の思考を遮るように狼は顔を天に向け、再び吼えた。

 すると周囲の木々から先ほどのように刃葉が射出される。だがさっき防いだときとは比べ物にならないほど少ない。

 神谷は確信した。奴は間違いなくエネルギー切れを起こしかけている。もう高速機動もできない可能性が高い。このまま戦っているだけであいつは自滅するだろう。


「モノの数じゃないッ!」


 降り注ぐ刃葉を、ゴーレムの手を振るいたやすく蹴散らす。

 しかし狼のプラウもまたそれと同時に動いている。

 ノズルのような形状の尻尾を伸ばし、手近な鋼鉄の木に接続すると、その木の表面に走る電子回路が緑に輝き始めた。


「何を……!?」


 バチバチと音を鳴らし、木に蓄えられていたと思しきエネルギーが――電力が、機械の狼に流れ込んでいく。その間二秒。たったそれだけの時間で狼は充電を完了した。

 あの刃葉をまき散らす苦し紛れの攻撃は本命ではなく、ただ少しばかりの時間を稼ぐためだけにあった。

 

 つまりはこの森自体が。すべての木々がこのプラウの武器であり、栄養源(バッテリー)だったということ。

 実質無限の電力(エネルギー)だ。この森はあまりにも広く、木々は相応に多い。

 対して神谷はただの人。体力は有限。それももう、残り少ない。


「…………わかった。わたしが間違ってた。そうだよね、ここまで来て体力切れの判定勝ちなんてつまらないよね――――だから」


 左手を前にかざし、ゴーレムの手を目の前に。

 限界までエネルギーを補充し、今や全身から緑色の稲妻を迸らせている(プラウ)――その姿を見据え、構える。


「――――次で決めるよ」


 その言葉と同時。

 動いたのはプラウだった。

 緑色の瞳がひときわ強く閃き、その身体が稲妻と化す。


 スピードは今までより遅い。

 しかしそれを補って余りあるほどの破壊力が見て取れた。巨大な雷の塊と化し、奴の味方であるはずの鋼鉄の木々を蹴散らしながら突き進む。


 体力が限界の神谷にはもうかわすことはできないと踏んで、圧倒的な破壊力で跡形もなく吹き飛ばす気なのだろう。

 そしてそれは正しい。実際、もう神谷には回避できるほどのスタミナは残っていなかった。

 しかし、


「さあ勝負!」


 駆ける巨大な雷を、ゴーレムの左手でもって正面から受け止める。

 ゴッ! と激突によって生み出された衝撃波が森を揺らした。

 拮抗はできない。

 明らかにパワーでは負けていた。

 ゴーレムの手が押されるのに連動し、神谷もまた後方へと押しやられていく。

 

「止まれ…………」


 ガリガリガリガリ、と素足がアスファルトを滑る。異能で強化されていなかったらどうなっていたことか――などと考えている余裕はない。

 左手にありったけの力を注ぎ込む。白光は勢いを増し、ゴーレムの手もまたパワーと強度を跳ね上げる。


「止まれえええええええええええ!!!!!」


 裂帛(れっぱく)の気合を込めて叫ぶ。

 それに呼応したかのように少しずつ、少しずつプラウの勢いを押しとどめ、そして――音が止んだ。


「はあ、はあ、やっと……」


 大きく削られてしまったゴーレムの手。それに鋼鉄の狼は掴まれていた。

 じたばたと身じろぎし、何度も瞳を緑色に光らせるがこの状態では高速機動も使えないようだった。


「……やっと捕まえた!」


 万感の思いを込め、左手を強く握りしめる。

 同じようにゴーレムの左手は手の内の機械の狼――プラウを握りつぶし。

 後にはバラバラのスクラップだけが残った。

 あっけない最後だった。



 思わず倒れ込む。手の甲のカウントは残り10を切っていた。

 正直言ってラッキーだった。神谷はそう思う。こちらが消耗・負傷したのを見て、パワー勝負に切り替えてこなければ――延々スピードで翻弄され続けていれば、おそらくは勝てなかっただろう。

 ギリギリの勝利だった、とひとまず安堵する。

 これでこのステージはクリアしたはず。あとはこうして待っていれば、残骸となったプラウが神谷の身体に吸収され、そのまま元の世界に戻れる。

 そう思っていると、ざり、とアスファルトを踏む音が聞こえ、思わず振り返る。すると、


「神谷さん……! 大丈夫ですか!?」


 いるはずのない人物がそこにいた。


「そ、園田さん!? なんでここに……!」


「神谷さんが心配で……またこのゲームに行く様子だったので、何とか助けられないかと……」


 駆け寄って神谷の傷の様子を確かめる控えめな少女を、唖然として見上げる。 

 さっき、ここに来る前に拒絶したはずだったのに。それでもこの少女は追いかけて来たのか。危ないということも説明したはずだ。なにより前回この園田みどりと言う少女は身をもって体験したはずだ。プラウという怪物の恐ろしさを。

 だというのに――なにが彼女を突き動かすのか、神谷には全く分からなかった。

 

「危ないって言ったのに……まあいいや。プラウは倒したから、後はしばらくすれば戻れるし……あれ?」


 そういえば、なかなかプラウが吸収されないなと思い、スクラップに目を向けた瞬間だった。


 木々の隙間。

 風を切る音。


 森の奥から何かがこちらに向かって来ている。


 驚きに目を剥き、それを凝視する。

 それは先ほど倒した狼と同じように、銀色の光沢をもつ触手だった。先端は鋭く尖り、まるで槍のようにも見えた。


(まさかこの狼……プラウ本体じゃ、ない……!?)


 一瞬頭が真っ白になり――とっさに身を起こし、避けるないしは迎撃しようとする。あれがなにかはわからないが、こちらに向かってきている以上、対処しなければならない。


 だがそれは叶わなかった。


 身体が起き上がらない。

 なぜ、と思った直後、理由が分かった。

 左腕が尋常でなく重い。持ち上げようとしてもびくともしない。

 よく見ると左手の甲に赤い数字が浮かび上がっており、269、268、267、といつの間にかカウントダウンを始めていた。

 

(まさか……!?)


 プラウの力を行使したことが原因だと直感的に理解する。

 この数字はまさかこの反動の持続時間なのか。

 一瞬で背筋が氷のように冷たくなる。

 こちらを狙って伸びる銀の触手が、1mもないところまで接近している。

 あの触手がどちらを狙っているのかはわからない。それを判断している時間も無い。


 最初に避けようとして、同時に園田を守ろうとした。そのどっちつかずの選択が判断を遅らせた。

 このままでは園田も自分も――――。

 もう間に合わない。両方は助けられない。

 この状況で、自分にできることは。


「神谷さ……っ!?」


 とん、と肩を優しく蹴り飛ばされ、園田はアスファルトに転がる。

 混乱する頭を慌てて上げ神谷の方を見ると、その唇がゆっくりと動く。


「ごめんね」


 直後。


 銀の触手が、神谷の細い胴を貫いた。

 

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