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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
最終章
128/139

126.暮れるあなたへ


「起きて、沙月さん」


 横たわる神谷に、園田は囁くように呼びかけた。

 すでに白い『外装』は剥がれ落ちていた。神谷の身体には傷ひとつない。

 よかった、と胸を撫で下ろす。手加減をする余裕は無かったから、中身が無事かどうかは賭けだった。


「…………みどり」


 ゆっくりと目を開ける。

 雪が降る中、自分を覗き込む園田の顔が見えた。

 ずっとこの瞳を見ていたような気がする。園田の方を向けばいつも目が合って、それがなんだかくすぐったくて笑う――そんな日常を遠く思い出す。

 

「……冷たい水の中に沈められたみたいだった。自分の身体が勝手に動いて、わたしの意志ではどうしようもなくて……どんどんわたしがわたしで無くなってくみたいで怖かった……」


 つう、と目尻から涙が流れ落ちた。

 何も言わず、園田はそれを指で拭う。


「でも聞こえたよ、みどりの声。わたしの負け」


「沙月さん……」


 憑き物が落ちたように晴れやかな表情。

 この世界で浮かべていた仮初のものとは違う、本当の笑顔。


「みどりは本当に物好きだね。わたしなんかが好きなんて」


「ふふ、それが自慢です」


「そういうとこあるよね」


 重い身体に鞭をうって立ち上がる。少しよろけたが大丈夫だ。

 手を開閉して感覚を確かめる。


「陽菜はもういないけど、それでも頑張らなきゃ」


「……あの、沙月さん。そのことなんですが」


 言いづらそうに園田は口を開く。

 光空について何か思うところがあるのだろうか。


「なに?」 


「光空さん、いるんじゃないでしょうか。ここに」


 その言葉に息を詰め、しかし確かな意志を持って首を横に振る。


「……ううん。さっき戦った時、わたしは五体のプラウを同時に起動したでしょ。なんで全部使わなかったと思う?」  


 全てのプラウを倒し吸収した神谷はその身に六体分の力を宿しているはずだ。

 それなのに五体しか使わなかった。頑なに一人だけを避けていた。 


「もしかして使えなかったんですか」


「……うん。陽菜……プラウ・シックスはわたしの呼びかけには応じてくれなかった。ううん、それ以前にわたしの中に存在を感じない」


 吸収は確かにしたはずだ。錯乱はしていたが、その様子は目の当たりにした。

 なのに光空がいない。どこにも、いない。


『吸収したプラウはわたしの中にいる。倒したって消えるわけじゃない』


 プラウ・スリー……ウサギのプラウとの戦いで神谷自身が言った言葉だ。


「……もしかして」


「みどり、心当たりがあるの?」


「推測の域は出ませんが……沙月さんはこの世界に来てから、不自然なくらいに光空さんの名前を口にしていませんでしたよね」


「それは……」


 考えたくなかったのだ。

 光空を倒した時の感触がこびりついて離れなかったから。

 だから逃げた。この世界に逃げ込んでからも、ずっと逃げ続けていた。その事実と向き合うのが怖かった。


「だからじゃないでしょうか。沙月さんは光空さんの存在から目を背けていた。自分の意識から排除していた」


「プラウは心の中にいるから……意識から外に出すと、いないも同然になる……ってことなのかな」


「確証はありません。でもここは精神(こころ)の世界だから、会いたいと強く願えばきっと――――」


「会える……でも、わたしは」


 本当に会えるという確証はない。最悪、この世界が消えるまでに戻って来られるかもわからない。

 それに彼女を手にかけたのは自分だ。

 今さら会ってどうしようというのか。向き合えるのか。

 怖い。拒絶されたら――――


「諦められるんですか?」


 再び底に沈もうとした神谷の意識に、手が差し伸べられる。

 エメラルドグリーンの瞳には強い意志と確信が宿っていた。


「大切な幼馴染って言ってたじゃないですか。きっとここが最後のチャンスですよ。なのに――諦められるんですか」


「…………」


 光空の笑顔を思い出す。

 いつだって笑いかけてくれた。

 小学生の時も、高校で再会してからも。

 ずっとあの少女は笑顔を向けてくれた。


 諦められるのか。


「……諦めて、たまるか」


 そう神谷が落とした言葉には、言い表すことの出来ない熱が篭っていた。


 光空陽菜という少女のことを、未来にて思い返す記憶になんてしたくない。

 『あの時は楽しかったなあ』なんて郷愁とともに振り返る思い出にもしたくない。幼馴染の死を乗り越えて強くなる? クソくらえだ。

そんな強さは露ほども欲しくない。


「あの子がいなきゃ――わたしは一歩だって先に進めやしない」


 どれだけ強欲と言われようと。

 どれだけ無謀と嗤われようと。

 どれだけ身勝手と罵られようと。


 光空陽菜だけは諦められない。


「ごめん、みどり。また待たせることになっちゃう」


 世界の外に目を向ける。

 白い浸食は少しずつ進んでいる。猶予があるわけではないが、まだ時間はありそうだ。

 いつの間にか目の前にドアが現れていた。木製の、寮の個室に使われているものだ。

 いつだってここを通って彼女に会いに行った。今回も同じことをするだけだ。

 

「いいえ。待つのには慣れていますから」


 神谷に会うまでの人生に比べればなんてことはない。


「だからいってらっしゃい。いつまでも待ちます」


「いってきます」 


 そう言って神谷はドアをくぐる。

 どこへ繋がってるかも知れないその扉の向こうへ、光空の笑顔を強く思い浮かべながら。


 園田の目の前でゆっくりと扉は閉じ、そして消滅した。


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