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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
最終章
126/139

124.破壊もたらす無限の閃光


 プラウ・ゼロ。 

 純白の天使。

 おそらくこの姿は本来現出するはずのなかったものだろう。

 ルナの計画では神谷が吸収されてそこで終わりだったはず。

 しかし今、ルナの中に作り上げられた精神(こころ)の世界に園田が侵入してきたことにより、こうした形で戦闘が始まってしまった。

 完全にイレギュラーな事態だ。


「――――――――」 


 プラウ・ゼロは清らかな歌声にも似た声を上げる。

 そこに神谷の意志は介在していないように見える。

 首をもたげる様子も、何かを確認するかのように自らの手を眺める仕草も、普段の神谷からはかけ離れている、と園田は感じた。


 ――――この敵だけは絶対に倒さなければならない。


 園田がそう決意を固め――直後天使が動いた。

 単純な動作だ。右腕を上げ、虚空に向かって振る……だがそれだけで巨大な閃光が駆け抜けた。

 天使が握りしめた右拳から園田へと一直線にその攻撃は直撃する。


「が…………っ!?」


 食らった胸のあたりからメキメキという破壊音。それを認識すると同時にはるか後方まで吹き飛ばされ、何度も転がりやっと止まった。

 まるで砲撃。ただの人間なら真っ赤な水風船みたいに破裂してしまっただろう。

 そうでなくても、異能の加護と咄嗟に作った空気のバリアを合わせてようやく助かったと言ってもいい。

 咳き込んだ拍子に喉から血を吐いた――そこで気づく。

 

 さっきまで死ぬほどの攻撃を受けても瞬時に回復していたのに、それが機能していない。

 視界の端に映った自分の手にノイズが走っているのが見えた。

 神谷があのプラウに変化したからだろうか。

 

 奴の攻撃で受けたダメージが回復しないということは、あれはただの攻撃ではない。

 おそらく、この世界の創造主であるプラウ・ゼロは園田みどりを排除しようとしているのだ。この世界の異物と見なし消し去ろうとしている。

 それはまるで、ゲームの運営が不正なアカウントを削除するように。

 プラウは園田の存在そのものに対し攻撃しているのだ。


「――――――――」


 プラウは空へと舞い上がる。

 約10mほどの高さから園田を見下ろしている。

 顔がないから何を考えているか読み取れない。そもそも意志があるのかどうかさえ分からない。

 そんな天使がおもむろに拳を振り下ろす。

 再び閃光が園田に向かって放たれる。

 

「くっ!」


 痛む身体を無理やり動かし横に飛ぶ。

 あと一瞬遅れたら直撃していた。先ほどまで園田がいた場所にぽっかりと穴が開いている。

 まだ攻撃は続く。次は左の拳。回避した直後の園田に次の閃光が襲い掛かる。

 回避は間に合わない。ならば、

 

「《レイジングブル》!」


 黒い銃から放たれた風の弾丸が真っ向から閃光とぶつかった。

 数秒拮抗した後弾けて爆発。風圧で園田がまた転がされる。

 次の攻撃が来る。すぐさま立ち上がり、風で自身を吹き飛ばして回避する。


 ギリギリだ。少しでも気を抜けば被弾する。だが――――


(これならまだ回避できます。なんとか攻撃のチャンスをうかがって…………)


 ここからは時間との勝負だ。この世界が終わるのが先か、それともあの天使を倒すのが先か。

 糸口はきっとどこかにあるはずだ――そう考えながら幾度も炸裂する閃光を凌ぎ続ける。


 だがその時、園田の耳に異音が届く。

 バキメキバキバキ! という、何か硬いものを潰しているような音。

 それはプラウ・ゼロから聞こえてくる。


「――――――――」


 見上げた先、プラウ・ゼロの片翼が変形している。

 縮んだかと思えば伸び、裂け、割れ、みるみる枝分かれしていく。

 その様子は大樹にも見え――そして数秒で変形が完了した。


 それは無数の腕だった。羽の一枚一枚が腕に変化したような威容。

 一本一本は細く、その先端の拳も赤子ほどしかない。

 だが。


 それらすべてが閃光の発射口になるとしたら。


「まず……っ」


 無数の拳に次々光が宿る。

 その様子はイルミネーションのように美しく、しかし見る者の戦意を奪うほどに苛烈な輝き。

 翼拳が首をもたげる。そして地上の園田へと照準を合わせると、一斉に発射された。

 数えるのが馬鹿らしくなるほどの数。破壊の閃光が放射状に降り注いだ。


「……《ホーネット》、《スパイダー》!」


 回避できるような攻撃範囲ではない。

 何十発も打ち出された貫通弾と八本の竜巻が迎撃する。

 しかし、


「数が多すぎ…………っ」


 まさに数の暴力。

 圧倒的な弾幕は、面の制圧力と一点突破の貫通力を同時に実現する。

 園田の放った弾丸はたやすく食い破られ、そして。

 豪雨のような閃光が蹂躙した。


「――――――――」


 降りしきる雪の中、プラウ・ゼロが咆哮を上げる。

 勝鬨のようにも、悲鳴のようにも聞こえるそれはこの世界に響き渡り、そして静寂が訪れた。


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