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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
最終章
121/139

119(+XXXXXXXX).   E  N  D


 いつものように神谷沙月(わたし)は目を覚ます。

 スマホの画面をつけると6月XX日と表示されている。

 窓を開けると、雪が降っていた。外がなんだか白く霞んで見える。


「ふあぁぁぁ……」


 ここは寮の自室。目蓋の落下になんとか抗いながらあくびを漏らした。

 なんだかとても悪い夢を見ていたような気がする。

 どんな夢だったかは思い出せないが、辛く悲しい夢だったような……そんな想いの残滓だけが胸に残っている。

 まあでも、夢でよかったかな。もう悲しいのは嫌だから。


 …………もう?


 おかしいな。悲しむことなんて、今までもこれからもないはずなのに。




 洗面所で軽く顔を洗った後、一階の食堂に降りる。

 今日も今日とて   の朝ご飯を作らなくちゃ。


「ふんふんふん、ふふーん」


 鼻歌を歌いながらフライパンの上でオムレツを躍らせる。

 香ばしい香りが鼻孔をくすぐった。

 焼き目が付いたらお皿に乗せて、すぐに次を焼き始める。


 料理は好きだ。

 ひとつのものを努力して作り上げるのが楽しいし、レシピを考えるのも好き。

 なにより自分の作ったもので誰かが喜んでくれるのが嬉しい。

 わたし自身はそこまで食べることに執着はないけど、だからこそ他の人がおいしそうに食べてくれるのがいい。

 それに   さんが教えてくれたものだから。


 そんなことを考えていると、誰も食堂に来なかった。


「                      」


「オムレツだよ」


          、と間延びした返事をしながらキッチン近くの椅子に座るこの子の名前は、名前……は……。

 あれ?


「ねえ、名前なんて言ったっけ」


 わたしが意味の分からない問いを投げると、   は明らかに不満そうな表情で口をとがらせる。


「                       」


「ああ  か。ごめんごめん、なんかド忘れしちゃってた」


      と今朝も     している。

 見た目は派手だが、のんびり屋のいい子だ。

 わたしと仲良くなったのは、偶然にも同じkfdafdhgbjnjkbvkdavだったからだ。

 わたしたちはかなり違うタイプだから、そうでもなければ親しくなることはなかっただろう。


 ……わたしが親しい? 誰と?


 テーブルに焼きあがったオムレツを置いてやると、     はvna^jn\vlanる。

 すると、ちょうど誰もに食堂へ入ってこない。    わたしの  だ。

 お腹がすいているのか口々に朝食を求める声もしない。

                  ――そんな声。

 一気に騒がしくなってきた。


「あは、大丈夫だよ、みんなの分もちゃんと作るからね」 


 今日も楽しい一日になりそうだった。




 登校の時間だ。

 肩に鞄をかけなおし、自分の靴箱からローファーを取り出しつつ、横目で寮長室を見る。

 窓からは暗い室内が見えた。


「ねえ、寮長って今日いないんだっけ」


     に問いかけると、揃って   な表情をする。

 なんだかこういう反応されることが多いな。


「           」


 いない。寮長が。

 そうだっけ?


「……ああ、そうだった。よく考えたらいなかったね」


       と    が      。わたしもつられて笑った。

 何を言ってるんだろう、わたしは。いないに決まってるのに。

 ……あれ。じゃあどうやってわたしは今まで――――


「       」


「待って待って」


      で揃って玄関を出る。

 空は灰色の雲に覆われている。ぬるい風が頬を撫でた。

 もうすぐ夏が来る。

 

 そんなことをぼんやり考えていると、空から何かが降ってきた。

 ふわふわと揺れ、広げたわたしの手に落ちる。

 それは白く冷たい結晶。


「雪だ。ねえ見て、雪だよ!」


 手の上にあるそれを   に見せる。

 しかしみんなは      な表情で、


「       」


 そう  学校の方へと      。

    には見えていないのだろうか。肩を落として後を追う。

 手の中で溶けた雪が水滴になって滑り落ちた。



 

 授業をまじめに受けて、    とわたしの作ったお弁当を囲む。

 そんなことをしているとあっという間に時間は過ぎて、放課後。

 今日も楽しい一日だった。


「あれ」 


 気が付くと、なぜかもう夜だ。

 時間がショートカットされたかのように、すでに寝る時間。

 しかし何か物足りない気がする。

 パズルのピースをひとつ失くした状態で組み上げていっているような、不思議な感覚。


 おもむろにカーテンを開けると、空はまだ曇っている。

 星も、月も、何も見えない。

 降りしきる雪は止まる様子を見せない。部屋の気温は快適なはずなのに、なぜか寒気がした。


「…………まあいいか」 


 眠ろう。

 そうすればまた明日が来る。

 何も変わらない一日が、何度でも。


















 わたしはずっとここにいる。

 何度でもこの一日を過ごし続ける。

 いつか来る消滅の時まで。


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