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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
最終章
117/139

117.翠帳紅閨


 壮絶な数年をアカネは園田にまとめて話した。

 あの世界にルナ――この世界ではカガミと名乗っているあの白い少女が現れたこと。

 そして人類を滅ぼす宣言をしたこと。

 結果的にルナを倒すことはできたが、その時にはもうアカネ以外の人類は残っていなかったこと。

 だがルナは空間の裂け目に吸い込まれ、行方知れずになったこと。


「……まさかあんたもこっちに来てたとはね、ルナ!」

   

 学校のグラウンド。その中心に立つルナ=カガミに向かってアカネは叫ぶ。

 あたりは真夜中。ルナの登場によってこの世界を満月が支配し、空は夜へと塗り替えられた。


 白い少女は、見れば見るほど神谷と瓜二つだ。

 神谷の話しぶりからもっと大人びた外見だと園田は想像していたのだが。


「久しぶりだね、最後の人類。本当に忌々しいよ」


 迎え入れるように腕を広げるルナは、口の端を歪めるようにして笑う。

 アカネの存在自体が不愉快で仕方がないといった様子だった。

 おもむろに手で自らの胸元に触れると、いたわるように撫でる。


「君から受けた傷の痛み……今でも覚えてる。まさかまた会うことになるとは思わなかったけどね」


 ぎり、という音が聞こえた。

 アカネが歯を食いしばる音だ。

 あの時、完全に倒せていればこんな事態にはならなかったのに――それを悔いている。


「…………沙月さんを返してください!」


 そこで園田が声を上げた。

 そのためにここに来たのだ。ゲームをクリアしたのもつかの間、わけがわからないままに吸収された神谷は今、ルナの中にいる。


「不快だね、イレギュラー。口を開くなよ」


 突如風が吹き荒れる。

 ルナが指一本動かさずに爆風を起こしたのだ。思わず腕で顔を守る。


 ここで初めてルナは明確な怒りを露出した。

 アカネに対する因縁めいたそれとも違う、ストレートな怒気が園田に向けられている。


「君さえいなければもっとうまくいったのに……目障りで仕方ない。君は一体なんだ? 何の関係もない、その辺にいるただの人間でしかなかったはずなのに、なぜこの場に立っているんだ」


 重圧に心臓が押し潰されそうだった。

 父親と対峙した時だってここまでのプレッシャーを感じてはいなかった。

 こんなもの、人間が出せる程度を越えている。

 少しでも気を緩めれば心臓がひとりでにねじ切れてしまいそうだった。


 だが。

 それでも。


 恐怖に竦む手を握りしめる。

 今にも悲鳴を上げそうな喉に力をこめる。


 自分がなぜここにいるのか? 

 そんなことは決まっている。


「私は……沙月さんのパートナーですから」


 震える唇を引き締め、視線を外さない。

 今まで生きてきて一番怖いけど、それでも。


 園田みどりは、今ここにいる自分を誇りに思っている。

 神谷沙月に寄り添い続けた自分の道程が何より輝いて見えるから。

 だから臆することはない。神が相手だろうと胸を張って立ち続ける。


「……そうか。どうでもいいよ」


 冷めた瞳を伏せるルナは疲れたように首を振る。

 人の想いなどは届かないのか。


「どちらにしろわたしのやることは変わらない。全ての人類を滅ぼす――それだけだ」


「馬鹿の一つ覚えね」


「そうだね。それが今の『わたし』という存在だから」


 アカネの皮肉にも動じない。

 今、このルナはあの神谷を吸収し我が物としている。

 神谷がプラウを倒し吸収したのと同じ理屈なら、ルナは神谷の力を手に入れたということになるが……それなのに増長するでもなく、淡々としている。


「だが、滅ぼしてしまう前に君たちをまず始末してしまわないと」


 ぴり、と空気が張り詰めた。

 言葉とともに鋭い殺気がルナから放たれる。

 

 来る。

 ひとつの種を滅ぼした、神にも等しい存在が、その力を振るう。


「あの世界の忘れ形見に、わたしの障害となるイレギュラー……君たちだけはこの手で殺す」


 景色が歪むほどの重圧が放たれる。

 気を確かに持っていないと一瞬で折られてしまう。

 ひとりだったならば。


「またみどりと二人で戦うことになるなんてね」


「本当に。何が起こるかわからないものです」


 二人とも、不思議と笑顔だった。

 笑うしかないというのとも違う。

 

 二人ならきっと大丈夫――そんな確信があった。

 大して長い時間を過ごしたわけではない。

 だが、神谷という少女を通して、そしてあの戦いを通して、二人は確かな信頼を築いていた。

 神谷との間にあるものともまた違う関係性が二人の間には生まれていたのだ。

 神を相手にしても笑えるくらいに。


 そんな様子にルナは苛立ちを募らせ――戦いの火蓋を切った。



 

 とは言え、この二人がルナに勝てるかと言うとそれは絶対に否だ。

 アカネにあの時ほどの力は無い。全人類の死を乗せた一撃は、あの状況だからこそ撃てた必殺だ。

 そして園田にこの戦況を覆せるような力があるかと言えばそれも違う。

 つまり、まともに戦っても絶対に勝てない。

 それはアカネが自らの過去を語った時に園田に伝えている。

 

『だから――勝利条件が違うのよ』


『勝利条件ですか?』


『そう。あいつには太刀打ちできない。可能性があるとすれば、』


『沙月さん』


 そう。

 6体のプラウとの戦いを経て、今や比類なき力を得た彼女ならルナに対抗できる可能性がある。

 だからこの戦いで果たすべき勝利条件はあのルナを打倒することでなく――――


『ルナの中からあいつを引きずり出す。これしかないわ』


『そんなことができるんですか?』


『できるっていうか……やるしかないって感じ。そしてその役はみどり、あなたよ』


『私が……?』


 園田は、正直言って戦いにおいて神谷やアカネには敵わないと思っていた。

 異能自体の力が不足しているのもそうだし、戦い慣れしているとも言えない。


『あなたしかいないのよ』


 自信持ちなさい、とアカネは頷いた。


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