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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
最終章
115/139

115(-11).DICISION-ROUTE:DEAD


 あたしの回想が終わりに近づいている。

 長い長い戦いの旅路――でも、思い返せば一瞬の悪夢みたいで。

 苦しいことばかりだったし、辛いことばかりだった。

 思い出したくはなかったし、忘れたままでいたかった。

 でも、同時に。思い出せてよかったとも思うのだ。だってそれが唯一あの世界に生きたみんなにできる弔いだから。

 この墓標(きおく)を、あたしはこれからも守っていく。




 レジスタンスは、天使兵に負けることが多くなった。

 相手が強くなったわけではない。こちらが弱くなっているのだ。

 

 リーダーの死。『実験』による仲間の欠落。そして、人類が本格的に行き詰ってきていること――それらが深刻な士気の低下を招いていた。気づいた時にはもう取り返しのつかない深度までそれはあたしたちを蝕んでいた。

 人はひとりでは生きられないなんて、そんな言葉の意味をこんな形で実感することになるとは思わなかった。

 

 仲間はほとんどが死んだ。

 異能(スキル)を持たない一般人も、もう残っていない。あれほど届いていたクレームも、もう誰も送って来なくなった。

 着々と人類は滅びに向かっていた。絶望が世界を包み、終末という言葉が現実感を伴って目の前に鎮座している。それが今の世界だった。


「戦闘員は……あたしと、お姉ちゃんだけ、か……」 


 レジスタンスのメンバーは、二人の戦闘員とバックアップ役……転移、通信、、レーダー、シェルターをそれぞれ司る四人のみになっていた。他の国とも連絡はつかなくなった。おそらくはもう、みんな死んでしまったのだ。

 日々の暮らしもままならない。そんな中、あたしたちは必死で生きていた。

 天使兵の数も、もう片手で数えられるくらいになっていた。

 終わりが近い。この戦いも、この世界も。


 天使兵が出現してから、ルナはとんと姿を見せなくなった。

 だから、天使兵さえ殲滅すれば奴は現れるのではないか、というのがあたしたちの間の定説だった。

 それはおそらくもうすぐ叶う。


 お姉ちゃんが今、最後の天使兵たちと戦っている。あたしは残っているようにと言われた。あたしが一番の戦力だから温存しておけと言うことらしい。最後の戦いに向けて。

 あたしたちはもうすぐルナと戦う。人類の存亡をかけて。


 しかし例え勝ったとしても人類は終わるだろう。

 だったらなんのために戦っているのかと聞かれれば、あたしは仲間たちのためだと答える。人類の未来のために戦い死んでいった仲間の意志を継いであたしはここにいる。だから最後まで戦い抜くのだ。





《――――さて、久しぶりと言っておこうか》


 お姉ちゃんが最後の天使兵を倒して帰ってきたとき、その声は再び響いた。

 空に映る白い数字はゼロとなり消滅。隣の黒い6という数字だけが残った。

 

《君たちが最後の人類だ》


 あたしたちは、何も言えなかった。

 やっとここまで来たという思いより、ここまで来てしまったという想いの方が強かった。


《放っておいても君たちは滅ぶ。だが最後はわたしが手を下そう。レーダーの子、君の力でわたしを探知できるようにしておいた》

 

 その言葉の直後、レーダー役の子が慌てて目を閉じ耳に手を当てる。

 ここまであたしたちの活動を支えてきた彼女には、見えているのだろう。諸悪の根源の位置が。


《……長かったね》


 ルナは、そう呟いた。

 なぜか少し悲しそうな声色で。


《本当に長い戦いだった。そろそろ決めようじゃないか。最後に勝つのがどちらかを》


 ぷつん、と声は途切れ、静寂が訪れた。

 誰も、しばらく言葉を発しなかった。


 色んなことを思い出す。

 今はもううはるか遠くに思える日常。ルナが現れた日。天使兵が現れ、友人が死に、両親も死んだあの日。リーダーが死んだ日。それ以外にもいっぱい、いろんなことがあった。どれも辛く悲しい記憶で、だけどそれを糧にしようと思った。


「――――行きましょう」


 その言葉とともに、あたしたちは数年暮らしたシェルターを後にした。

 もうここに戻ることもないだろう。



 

 転移した先は、とある繁華街だった。

 あちこち壊されているのは、天使兵に襲われたせいであったり、戦いの余波だったり……天使兵の標的である人間が多いという理由で戦場になることが多々あった。あたしも何度か来たことがある。


 だが、もう誰もいない。


「やっと見つけた……! 会いたかったわよ!」


 そこの中心。交差点のど真ん中にルナがいた。

 空中にふわふわと浮かびながらこちらを嘲るようにくすくすと笑っている。


「わたしもだよ――おや? 君と姉はまあいいとして、バックアップの子たちも連れてきたの?」


「そうよ。みんなこの戦いのために全てを懸けてきたの」


 あたしの後ろでみんなが頷く。

 ルナはおそらく圧倒的だ。あたしとお姉ちゃんだけでは厳しい。だから戦闘向きでなくとも戦力が欲しかった。異能(スキル)は共通して身体能力を大幅に上げるという効果もある。だからバックアップ役といえども充分に戦力になってくれるはずだ。

 これまで戦線に立つことがなかったのは、万が一にも失えなかったから。だが今はもうその制約は無い。これが最後の戦いで、後がないからだ。


「私たちはみんなで勝つ。これまでの戦いで死んでいった仲間たちの想いを背負ってここにいる」


 お姉ちゃんが一歩前に出た。

 そうだ。みんなのためにも負けるわけにはいかない。


「なるほどね――でもやっぱりわたしは、全員で来るべきじゃなかったと思うよ」


「……なんでよ」


「こうなるからさ」


 ぱちん、とため息交じりにルナは指を鳴らす。

 するとあたりが真っ白に輝いた。真夜中なのにこの明るさ。これはいったい――――


「上!」


 お姉ちゃんの叫びに反応し、とっさに空を仰ぐ。

 そこからは――膨大な純白の光芒が降ってきていた。

 途轍もない光の塊。それがあたしたちを襲った。


 とっさに大鎌を生成し、巨大なハンマーじみたその光を受け止める。

 

「く……が、あああああああ!」


 耐えるので精いっぱい。それもそう長くは持たない。

 これを食らえばその時点で終わってしまうことが本能で理解できた。

 ただ威力が高いだけではない。なにか本能に直接訴えかけるものを感じる。まるで火に怯える獣のように。あるいは天敵を目の前にした動物のように、根本的な恐怖があたしを襲っていた。


 何秒、何分、それとも何時間。

 時間の感覚が薄れ、諦めかけたとき、攻撃は止んだ。


「はあ――はあ、はあ、はあっ!」


 止まっていた呼吸を何度も繰り返す。掛値なしに死んでしまうところだった。

 こんなもの、他の仲間は耐えられるのか、


「だから言ったんだ。『戦える』というのは『戦力になる』と同義じゃない。そもそもレベルが違いすぎるということを君たちはまず理解するべきだった」


 お姉ちゃんは、立っていた。命からがら、あたしと同じようにあの光芒を防いだ。

 だが、他の四人は。


「み……みんな……」


 影も形も無くなっていた。

 焼き切られたというわけではない。跡形もなく消滅していた。彼らが着ていたレジスタンスの制服だけが、そこに落ちていた。


「さて、どうする? わたしとしてはこのまま抵抗しないほうが楽に終わると思うんだけどね」


 ルナは、冷たいまなざしをあたしたちに向ける。

 まるでもう飽きてしまったとでもいうように。

 

 どうしてこの女神はこんなことを始めたんだろう。

 人類を滅ぼして、それで何になるのだ? 彼女は目的を一切話さない。 

 もしかしたら、それが鍵だったのかもしれない。それこそがこの戦いを終わらせるために必要だったのかもしれない。だが、もうすべてが遅い。和解の道はもう無い。ルナは殺しすぎた。


 憎しみと怒り。それだけがあたしの胸の内を満たしていた。


「大丈夫。紅音ちゃんは、私が守るからね」


 お姉ちゃんの言葉が空々しく聞こえる。

 あたしの目にはもう、ルナしか映っていない。大鎌を握る手に力がこもった。


 そろそろ終わりにしよう。


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