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ガールズ・ゲーム  作者: 草鳥
六章
101/139

101.太陽の翼


「いくよ!」


 光空の――否、今や太陽の化身と化した彼女の手が振り下ろされる。それと同時、連動するかのように神谷の頭上から凝縮された光線の束が降り注ぐ。


「くぅ……っ!」


 ギリギリで反応し、異能を発動させ両腕で受け止めて弾く。

 凄まじい重さだ。直撃すれば無事ではいられないだろう。


「まだまだ!」


 光の束が弾かれたのを見てすぐに光空(プラウ)は次を繰り出す。

 何度も拳を振り下ろし、そのたびに光の柱が降り注ぐ。

 こんなものを何度も防いでいたらすぐに腕が使い物にならなくなってしまう。そう危惧した神谷は最小限のステップで柱の隙間を縫うようにして回避する。

 だが横や後ろに避けるばかりで、前に向かっては一歩も踏み出せない。


「嫌だよ陽菜! 戦えない!」


「聞けないね! 私を倒さない限りここから出られない――あの二人もあの中に閉じ込められたままになる!」


 つまり。

 光空に殺され終わり(ゲームオーバー)を迎えるか、光空を殺して終わる(クリアする)か。

 どちらかを選べと最後の光空(プラウ)は突きつけているのだ。


 神谷は初めてプレイしたゲーム――そう、【TESTAMENT】のことを思い出していた。元々はこんな血で血を争うようなゲームではなく、ありふれたRPGだった。

 しかしストーリーの終盤、主人公はひとつの選択を迫られる。

 ヒロインを守り、世界を犠牲にするか。それともヒロインを犠牲にして世界を救うか。

 展開的には後者がトゥルーエンドだったのだと思う。世界は救われ、失ったヒロインを胸に主人公は未来に向かって歩き出す――そんな結末。


 その時は大して何も考えていなかった。悲しい話だな、くらいにしか捉えていなかった。

 だが今になってその物語が肩に重くのしかかる。

 こんなもの、両方正しくないではないか。


「どうしたら……どうしたらいいの」


「ぼうっとしてたら危ないんじゃない?」 


 はっとして顔を上げると光空(プラウ)の周囲に六本の光の槍が出現した。その切っ先は神谷へと向かっている。

 す、と光空(プラウ)が指を軽く動かすとそのうちの一本が発射された。

 とっさに避け――しかし間に合わない。かすった右肩には裂けたような傷ができ、遅れて血が流れだす。

 凄まじいスピードだ。見てからの回避では間に合わない。


「……かわしてばっかで何になるの?」


 残りの五本が続けて発射される。その直前、


「プラウ・ワン、励起(ロード)!」


 ゴーレムの左手が盾になる。

 槍は容赦なくその盾を砕き貫き、しかし軌道が逸らされたことによって神谷を傷つけることはなかった。


「プラウの力か。今までも倒してきたんでしょ? なら今回も同じだよ」


「同じじゃない! 陽菜を倒すなんて、わたしには……」


「でも楽しかったんだよね?」


 神谷の呼吸が止まる。

 静寂が漂う。


「戦いは辛かったと思うけど、でも楽しくもあったでしょ?」


「そんな、わけ……」


「不思議な力を手に入れて、仲間と協力して、強大なモンスターを倒して――そしたら新しい力も手に入る。どんどん強くなる敵。それに合わせて強くなっていく自分。超常の力を振るえる全能感。……そんなの、楽しくないわけがないよね!」 


 おもむろに光空(プラウ)は虚空を指で真横になぞる。するとそこから無数の光の粒が撃ちだされた。

 まさにマシンガン。神谷は光空(プラウ)を中心として円を描くように全力で走り続けることで何とか被弾を免れる。


 終わりを見せない連射から必死で逃げつつ、光空(プラウ)の言葉への反論材料を探す。

 これまでの戦いは、痛くて、苦しくて、辛くて、絶望もした。一度は折れもした。

 それは変えようのない事実。


 しかし同時に、それが終わるということに対して寂しさを抱えていたのも事実。

 つまりそれは光空(プラウ)の言い分が正しいということを意味していて。


「確かにそうかもしれない……わたしは楽しんでたかもしれない、でも!」


 だがそれとは別に、思うところがある。

 プラウ・フォーに負け、戦えなくなったとき。

 絶望の中、背中を押してくれたのは他でもない光空陽菜(プラウ・シックス)だったのだ。


「あの時、わたしが落ち込んでた時!」


「……!」


「励ましてくれたのもこの時のためだったの!? わたしがこのゲームを諦めないように……!」


 ぴたりと掃射が止まる。ほぼ同時に神谷も足を止める。

 閉口した光空(プラウ)は、青い目を見開いていた。だが、すぐにそれは細められ笑みを作る。


「……どうかな」


「答えてよ!」 


 それだけは聞いておかなければいけなかった。

 そうでなくては、光空と過ごしたこれまでの時間が――全て空虚なものになってしまう。


「そんな義務はないね」


 再び光の槍が生み出される。次は神谷の真上、六本まとめて神谷の方を向いている。

 とっさに横へ飛ぶと、直前までいた場所目がけて一気に突き刺さった。

 だがそれでは終わらない。かわした先、その真上にはすでに次の槍が待ち受けている。

 回避が間に合わない。動き続けることで何とか直撃だけは避けられるが、何度も槍が掠り、そのたびに傷が増える。

 次々に生成される槍は尽きることなく神谷へ向かって何度も突き立てられる。


「はぁ、はぁ……!」


「……らちが明かないな。直接行こうか」


 そう呟くと、手元に生成した槍をつかむ。

 直後光空(プラウ)の姿が掻き消えた。


「な…………」


「や!」


 一瞬で神谷の目の前に現れた光空(プラウ)は槍を神谷の腹部に向かって突き込む。その切っ先が神谷の肌へ到達する直前――――


「プラウ・ツー!」


 両脚に雷光を迸らせ、一気に距離をとる。

 とっさの判断だったが、最適解だった。このスピードがなければ間違いなく槍が貫通してしまっていただろう。

 だが。


「すごいスピードだね。でも私も結構速いんだ」


 いつの間にか並走する光空(プラウ)は再び槍を振り下ろす。

 それをとっさに蹴り上げ防ぐ。


「さあ――雷と光、どっちが速いか勝負しよう」


 雷と化し駆ける神谷。

 光の速度で追いすがる光空(プラウ)

 ぶつかり合うたびに火花が散り、眩しいほどの光が青空を照らす。

 振るわれる槍を、そのたびキックで捌く。


「さすが沙月! でもこれはどうかな!」


 光速の突き。

 心臓を正確に狙うそれを、神谷はとっさに蹴り上げ……そこからは全くの無意識だった。

 槍を突いた後がら空きになった光空(プラウ)の懐へもぐりこみ、胴体へ強烈な蹴りを叩きこむ。

 

「があっ!」


 吹き飛んだ光空(プラウ)は床を転がり倒れる。

 

「ち、ちがう、わたしは……」


 命の危機に身体が勝手に動きカウンターを仕掛けた。

 とっさのことで、無我夢中だった――しかし神谷にとっては、自分が光空を攻撃したことに変わりはない。

 身体の震えが止まらない。絶対にするまいと思っていたことを、現実にしてしまった。

 光空と戦っているという想像もしていなかった現状が実感となって追いついてくる。


 揺らぐ神谷の視線の先で、光空(プラウ)がゆっくりと身体を起こした。


「やるね、さすが。……でも逆に委縮させちゃったかな。ねえ、本当に私と戦う気が無いの?」


「あ……あるわけないよ! わたしにはできない……」


「なるほどね。関係ない話なんだけどさ、あの檻には干渉できないって言ったでしょ? でもここは私の縄張りだからさ、ある程度は自由がきくんだよね」


 何が言いたいのだろう。

 この期に及んで檻の話? 


「例えばこんな感じで」


 ぱちん、と指を鳴らす。

 すると園田とアカネが収められた檻の中に小さな光の槍が出現した。

 それはぴたりとアカネに向かって切っ先を向け――凄まじい速さで左肩に突き刺さった。


「アカネ!」

 

 下からでも、アカネが痛みに悶えている様子がわかる。

 これではもう猶予がない。あの二人の生殺与奪は完全に光空(プラウ)に握られてしまった。


「これでも戦わないっていうなら……沙月は友達を見捨てるひどい子になっちゃうね?」


 どうする?

 そう光空(プラウ)は挑発的にその唇を動かす。


 神谷の中で、何かが音を立てて切れた。


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