モルディギアン
「私はモルディギアン、僭越ながら邪神をやらせていただいます」
「「「「っ!?」」」」
全員が即座に臨戦態勢をとる。
そうだ、思い出した。邪神「モルディギアン」、納骨の神にしてグール達主人。
相手は対人戦最強とまでいわれる奴だけど負けるわけには……
「あぁ、落ち着いてください。なにも私は戦いにきたわけではないんです」
「……へ?」
邪神って人間じゃー狩れーみたいな感じじゃないの? 目と目が合ったら悪即斬違う?
「それに、素敵な音楽も聴かせてもらいましたしね」
そういって私にパチリとウィンクをしてくるモルディギアン……長いからモルさんでいっか。
「ところで……みなさんは一体どうやってここに?」
「あぁ、クトゥルフを倒してきた」
「ちょ、カゲロウさん!?」
そんなこと言ったら殺されるんじゃ? しらすなしでもっかいここ来るのは大分つらいよ!?
「どうせ嘘を言ったところでバレルだろ、こいつは神なんだろ? 運営がそういう機能を搭載させてもおかしくない」
「た、たしかに……」
「ほう、あのクトゥルフさんを倒したのですか……ただの迷い子かと思っていましたが、少々予想外ですね」
正直、モルさんとは絶対戦いたくない。
なぜかというと、モルさんの特殊能力が強すぎるから。
ダメージ「死」とかいうわけわかんないのから始まり、極めつけは回避に失敗するとすべての技能値を4分の1にするっていう能力。しかも成功しても半分にはなるっていうね。
これがあるから、私は超一転特化だからまだなんとかなるけど、カゲロウさんとかマジでなんもできなくなる。
「では、どういった用件で納骨堂に来たんですか?」
「しらす……デージーさんっていう錬金術師を、私の師匠を探すため」
幸いさっきのライブのおかげで機嫌はいいようだし、このまま話し合いで終わらせたいな~……
「デージー……? これはまた、懐かしい名前を聞きましたね」
「? デージーさんを、知ってるんですか?」
「はい、知ってますとも。そのことは彼女から聞いてないんですか?」
なんで、邪神がデージーの名前を知ってる? どういうこと?
「えっと……はい」
できるだけモルさんから情報を集めたい。
「情報収集に勤しむのは大事ですが、残念ながら私が彼女について話せることはありません」
「え? なんで……」
「彼女が自分から話していないということは、話すべきではないと彼女が思っているでしょうから」
なんでこの邪神こんな紳士的なの? さっきからずっと人間相手にずっと敬語だし……そこらの人間よりよっぽど親切で好感持てるんだけど……
「ま、彼女はヤツにいたく気に入られてましたし、話さなかったのではなく話せなかったという可能性もありますが……どちらにせよ、ヤツの不興をかうのは間違いないですからね」
「ヤツって?」
「ヤツはヤツです。正直私でもあの人に遊ばれては体がもたないですからね……」
グレート・オールド・ワンにすらそこまで言わせるとか……ヤツってのは古き神か外なる神のどっちかだね。
それで遊ぶ、気に入るとかってワードから考えると……正直ヤツの正体にはあらかた目星がついてしまう。
あ、いや、一体なにラトテップなんだろう……ワタシニハマッタクショウタイガワカラナイナー。
「……!? ちょ、ちょっと待って」
「? どうかしましたか?」
そういえばネットに文字化けを(大体)直すサイトがあったはず。それでクトゥルフ戦のときにデージーさんがもってた謎のやつの正体がわかるかも……
えっとたしか画像として保存してたはず……あったあった。
「豺キ豐檎・槭?閻」だったね、そういえば。
さてと、早速これをテスターに入れて……
「やめておいたほうがいいですよ」
「っ!? な、なに?」
「それはヤツが望まない結果です。ヤツの機嫌をそこねるのはやめておいたほうがいい」
そういうモルさんの表情は、先ほどまでのどこか楽し気な表情から一転し、真剣なものになっていた。
「わ、わかりました……」
「はい、わかればよろしい」
その後、また表情を楽し気に戻しやわらかい微笑を携えながら誰も予想だにしなかった提案を、モルさんはしてきた。
「お詫びといってはなんですが、折角ですし私も追いて行ってあげましょう」
「「「「「は?」」」」」
モルさんと話していた私も、周りに注意しながら話に耳を傾けていたみんなも、まったく同じ声で反応した。
「先ほどのアレのおかげで気分もいい。なにより、久しぶりに彼女の顔を見てみたいですしね」
「「「「「はぁぁぁぁ!?」」」」」
こうして、私たちはねこを失った代わりに神を得たのだった。
……交換のレート高すぎない?
あの時は画面を表示しながらもモルさんの警告によりついぞ見ることはなかった文字化けを直すサイトには、「混?神の?で」と書かれていた……
かみが なかまに なった!
はっはっは……はぁ。
「そういえばトーカ」
モルさんに話しかけられた。
ん?
「あれ? 名前教えましたっけ?」
「あぁ、すいませんね。少々記憶を見させてもらいました」
こわっ! 神こわっ!?
そんなテレビでも見るように人の記憶を見ないで……
「で、トーカ」
「はい、なんですか?」
「先ほどのコンサート、もう一度する気はありませんか?」
「……は?」
何を言うかと思えばそんなこと?
「いや、あの演奏は今までになかったものでしてね。新鮮でなかなか心地のいいものでした」
「は、はぁ、わかりました」
正直私も超楽しかったしやれるんなら全然かまわない。むしろ大歓迎まである。
「ふぅ……よしっ!」
心のスイッチを入れてめいっぱい楽しむモードにする。
自分の頬をペチンと叩いて気合を入れ、楽しそうな笑顔を作る。
「みんなー! モルさ……モルディギアン様からアンコール入りましたーー!!」
「「「!? あどはhんうじおljdみおあp!!」」」
椅子に座り休んでいたグール達がガタッと立ち上がり、歓声を上げる。
「今回は最初っから飛ばしていくよ! Are you ready?」
「「「いm化縫いgwbfjえぇckヴぉsdzへんdくぃおcい!!!」」」
「それじゃあさっそく! ドラムカモーン!!」
そんな感じで、第2ラウンドが始まった。
……定期的になんとかここ来てライブしよっかなって思うぐらいには楽しかった。
「ありがとうございましたーーー!!!!」
「「「dかsv何kml、;kぞpCJIUbjんs!!!」」」
ん~! 大満足!!
「はい、私も満足です」
「はぁ、はぁ……それは良かったです! ありがとうございます!」
にこっと満面の笑みを浮かべる。
「なにあのトーカちゃんかわいい」
「わかる」
「天使か」
外野うるさい。ちなみに上からヒバナ、ロンちゃん、カゲロウさんである。カゲロウさん。
……カゲロウさん私が妹ってわかってからむしろ愛情表現増えてない? シスコン兄だなぁまったく。
まぁ私もブラコンなんだけどね。
それはそうと、ゲームだから疲れは感じないはずなのになんとなく心地のいい疲労感がある。
なんというか、全力で好きなスポーツをした後みたいな? そういう感じ。
「それはそれは、あなたは楽しい、私もうれしいとはいいですね」
ていうかさっきから思考読まれてない? しゃべってないのに会話成立してるんだけど。
「えぇ、読んでますけど」
ヤダ怖い! モルさん怖い!!
「それはそうと、どうです? ここに転移するキーを渡すので定期的にライブをしに来ます?」
え、なにそれうれし……いや、そんなホイホイついてっちゃダメだ。
後でなにされるかわかんないし。
「では私の加護を授けましょう」
「行きます」
即答だった。これが即落ち2コマってやつか……
「えっと、ちなみに加護ってどんなのですか?」
「体の一部がある程度変形できるようになります」
そういって腕をぐにゃぐにゃっとさせるモルさん。
……なんかびm
「なにか?」
「いえいえとても素晴らしい加護です! ぜひ受けさせてください!! お願いします!!!」
「えぇ、わかりました。ではこれからお願いしますね、トーカ」
「は、はい……」
こえぇ、モルさんマジこえぇ……