突然の死!&エスケープアゲイン
「ほらほらぁ! どうしたどうした!?」
「くっ!」
オムグムさんとの戦闘が始まってからラウンドで言うと3ラウンドぐらいたった。
いやー強い、流石は邪神様。
こっちもなんとか二刀流で応戦できてるけどこっちからのダメージがほぼ入らない上にオムグムさんめっちゃ速いから爆弾系を出す暇がない。
……ってあれ? そういえばなんかストレージ操作なしでアイテムを取り出せるスキルがあった気が……
あ、そうそう「暗器」だよ「暗器」。
正直完全に存在を忘れてたよ、ごめんね暗器。
これで忘れられたスキル鑑定に続く2人目である。
まぁ今じゃ鑑定も結構使うしきっとこの子も多用するようになるはず……
さてと、暗器使えるんだったら反撃開始と行きますか!!
まずは踏み込む足の裏に煙球を大量に出し、踏み込みと同時に割って周囲を煙で覆う。
「ちっ! うざってぇ!!」
……と思ったらオムグムさんが手をブンっと振って、それにより発生した風で完全に煙が吹き飛ばされた。
え、なにそれ……
10個ぐらい同時に潰してできた超大量&高密度の煙が腕の一振りで消えるってどんだけ……
「だったらっ!!」
撃ち込まれた拳とそれをいなす刀の間に閃光玉を出して視界を奪う。
「ぐっ!」
オムグムさんから小さなうめき声が聞こえたからきっと効いてるだろうと考え周囲にいつもの石ころを撒き散らす。
それと同時に神罰を50個ほど落としてから千変万化で一旦避難する。
流石に邪神はエネミー扱いだよね? 違ったら大分辛いんだけど……
さっきの神罰が爆発し、小さめの爆音が連続して鳴り響く。
ついでにいくつかトラップも仕掛けとこっと。
「ちっ、奇妙な技を使いやがる」
うっわ全然効いてない……でもまぁ焦げ跡はついてるから神罰は効くっぽいね、良かった。
……てか今更だけどクトゥルフの鉤爪も防げるぐらい切れ味も強度もいいこの刀と真っ向から打ち合える拳ってなにそれ。
それよりこっからどうしよっかな……
閃光弾は流石にもう効かないだろうし、見たところオムグムさんはスピードタイプっぽい。
ん? スピードタイプは火力が低いって? ははっ、何言ってんだか。
ダメージ、つまり運動エネルギーの公式は[K=2分の1MV]。
Kが「運動エネルギー」、Mが「質量」。そしてVが「速度」である。
つまり運動エネルギーは質量の半分と速度を2乗したもってこと。
すなわち、速ければ速いほど威力は上がる。
……てかなんだよ速度特化のゾス=オムグムって……
本来のゾス=オムグムはSTR40のDEX12っていう鈍足パワーファイターのはずだった。
けどオムグムさんは戦ってみた体感だとロンちゃんより速い。つまり最低でも60以上? 何それ。
「よっし、第2ラウンドと行こうか!」
音を置き去りにするレベルの速さでオムグムさんが突進してくる。
そのあまりにも速すぎる攻撃に、反応はできても私の低いAGIじゃ体がついていかず、中途半端な態勢でオムグムさんの攻撃をもろに受けることになった。
「っ!? やらかした……」
さっきも言ったけど速い攻撃ってのはそれだけ火力も高いため、AGIと同じく貧弱な私のHPとVITで耐えきれるわけもなく……
私は壁に打ち付けられてデスした。
あー、久しぶりに負けたなー……めっちゃ悔しい。
「あ? もう死んじまったのか……技術は中々だったがやっぱ脆いな、人間は」
トーカの死体は壁にクレーターを作りながら打ち付けられ、しばらくそこに静止したかと思うとゆっくりと落下し、光の粒子になって消えた。
「うっわーつよいな~……流石は邪神」
「なぁなぁ、あの人ウチらよりも速いんちゃう!?」
「はぁ……だからせめてAGIはもっと上げとけと言ったのに……」
プレイヤーたちとモルディギアンはどこか気楽に今回の戦闘を振り返っているのに対して、真逆の反応を見せる者がいた。
「うそ……あの弟子ちゃんが、死んだ……?」
「ん? どうかしたん? しらす」
その様子を不思議に思ったのか、ロンがそう尋ねるが、デージーはまったく聞こえていないようだった。
「そんな、わけ……そんなの認めない、認めないから」
「ちょ、ちょっとしらす! ほんまに大丈夫なんか!?」
虚ろな目をしてブツブツと呟くデージーを心配し、肩を揺するがそれも振りほどかれる。
「あの人なら、きっとなんとかできる……はやく探さなきゃ…………」
「っ! モルさん! しらすを止めてや!!」
「すみません、それはできません」
「なんでや!?」
「それがヤツとの取り決めですから」
「はやく、はやく……」
「しらす!」
ロンが手を伸ばすが、その手が触れる前に彼女の姿は掻き消えてしまった。
「あぁまた逃げられた!」
その様子を見ていたヒバナが、もしかしてだけど……と言葉を零す。
「もしかしてNPCって、プレイヤーが生き返ること知らないんじゃない?」
「「「っ!?」」」
その予想はきっと当たっていると、全員が思った。




