第3話 歴史
世界観説明は大体終わりました。
「俺の名前は水無瀬黎兎です。」
「ミナセ様・・・。」
「いや、黎兎でいいです。」
「わかりましたわ。それでレイト様、一つ気をつけて欲しいことがございます。」
「ん?何ですか?」
「おそらくですがモーラルナークの王はあなたと同じ異界人だと思われます。」
「え?それは本当なんですか!?」
「いえ、確信はありません。しかし、根拠はあります。」
「それはどういった・・・?」
「6年前機械の大陸で巨大なマナの捻れが観測されました。これは恐らく異界とこの世界が繋がったせいだと思われます。その当時機械の大陸は大陸中を巻き込んだ戦争の最中でした。しかし、捻れの発生からわずか1ヶ月後唐突に戦争は終結しました。モーラルナークを除く全ての国の有力者達が全て亡くなったのです。王や将軍の突然の死によって全ての国の指揮系統が混乱したところをモーラルナークの軍が制圧し戦争は終結しました。しかし、モーラルナークの王は殺され、新たにヘリウス・モーラルナークと名乗る王が現れました。」
「そのヘリウスってやつが異界人なのか」
「はい。おそらく、ですが。1国の軍を滅ぼしたと言われるヘリウスの魔法なのですが、その魔法の正体は分かりません。どのような魔法なのか分からないのです。ヘリウスと対峙することはあって欲しくないのですが、もし、対峙するような事態になってしまったら、必ず逃げるようにお願いします。
このような世界に巻き込みこんなお願いをしておいて厚かましいのですが、私はレイト様にも死んで欲しくはないのです・・・」
「・・・分かりました。」
「・・・あの、それでは、他にこの世界について何か聞きたいことはございませんか?」
「そうですね・・・。うーん、あっ、そうだ!何で言葉が通じるんですか?」
「・・・・それにはこの世界の歴史についてお話することになりますがよろしいでしょうか?」
その間に何かを感じながらもこの話は聞かなければならない事だと俺は思った。
「はい、大丈夫です!」
「少々長い話になりますが・・・事の発端はおよそ200年前に起きた全ての大陸を巻き込んだ大きな戦争です。それは凄惨な争いでした。弱者は強者に全てを奪われ、森は焼かれ、大地は砕かれました。その争いの中で人はより強力な力を求め、新たな魔導兵器を開発しました。それが戦争の要となった魔動神機です。」
「魔動神機・・・?」
「はい、人が乗り込み魔力で動かす神の如き機械。それが魔動神機です。通称魔神と呼ばれています。この城内にもあるんですよ。ここの地下教会にこの国の守護神として祀られています。石像なんですけどね。」
俺の脳裏にこの世界に来て始めて見た巨大な石像が思い出される。
(なるほど・・・あの石像のことか)
「魔神の発達によって戦争は加速し、被害も大きくなりました。そこで3つの大陸は戦争に勝利するために魔動神機の技術の粋を集めた魔神を開発しました。しかし、それは誰にも乗りこなせず破棄されそうになった時、人々は異界人を呼び出す最終手段に出ました。結果それは成功し各大陸には3機の究極の魔神が戦線へと現れました。そこからの記録は断片的なものになるのですが、恐らく龍が目覚めたのだと思われています。」
「その龍っていうのはこの世界における一般的な生物なんですか?」
「いえ、龍はこの世界において神秘性の高い高位の生物なのです。龍の大陸では龍を神聖化し崇め奉る龍神教が発達し、国の基盤となるほどです。その力は凄まじく翼の一薙ぎで国がひとつ吹き飛ぶと言い伝えられています。また、1説によるとこの世界を生み出したと言われています。」
「そんな存在が目覚めたってことはこの世界は1度滅びたってこと何ですか!?」
「いえ、滅びてはいません。滅びていたら魔神の石像なんて残っていませんからね。」
「確かに、そうですね。」
「しかし、この世界が滅びを免れたのは3人の異界人たちがその命を賭して龍を封印したからなのです。
異界人としての膨大な魔力と究極の魔神の力によってなんとかなされた奇跡の封印だと言われています。龍の目覚めによって各大陸は戦争どころではなくなり、なし崩し的に戦争は終結しました。終戦後各大陸の大魔道師・・・と呼ばれる強大な魔力と長年の経験を持つ魔道師たちの、命を懸けた願いによってこの世界に一つの呪いがかけられました。それが、言語の壁を取り払う呪いです。これはお互いが話す言葉を自分の理解できる言語で話しているように変換するという呪いなのです。そう、言語の違いによる相互不理解こそが戦争を加速させたと考えた彼らが、同じ過ちを繰り返さないで欲しいという願いを込めた祈りです。」
「そんな事が・・・」
「これがこの世界の歩んできた過ちの歴史なのです・・・。それで他に何か聞きたいことはございませんか?」
「いえ、今のところはこれくらいで十分です。」
「そうですか・・・。では今日の所は夜も深まってきましたので後のことは明日でもよろしいでしょうか?」
「はい!大丈夫です!」
「ネイリー」
扉が開かれ外からネイリーが入ってきた。
「異界人の方、レイト様を寝室に案内してさしあげて。」
「かしこまりました!」
「それではレイト様ネイリーの案内に着いていってください。」
「わかりました。・・・それじゃあ、リンネさんおやすみなさい。」
「はい。ゆっくりおやすみください。」
「それではレイト殿私の後に着いて来てください。」
こうして俺はネイリーの後に着いていき部屋を後にした。
「ここがレイト殿の寝室です。」
「ありがとう。ネイリー。」
「いえ、恐縮です。それとこの世界で戦ってくれることを感謝します。」
「いや、困っている人を見て見ぬふりは出来ないし、それに・・・」
「それに?」
姫様に一目ぼれしたからなんて言えないから適当に誤魔化す事にした。
「い、いや!な、なんでもない!その、えっと、うーんと、おやすみっ!」
しかし、これといっていい言い訳が出てこなかったのでテンパってとりあえずベッドに潜ることにした。
「ふふっ、不思議な人だ。」
そんな声が聞こえた気がした。
「それではおやすみなさい」
寝室のドアが閉じられた。
黎兎はこの世界に来て久しぶりに一人きりになった。
窓から差す月明かりだけがこの部屋を照らしている。
そこから見える部屋はリンネの部屋程ではないが十分豪華な部屋だった。
ポケットに入っていたスマホの事を思い出しおもむろに電源を点けた。
「電波は・・・当たり前だけど入って来てないか」
オフライン閲覧可能なモノもない。
こうなってはライトと電卓くらいしか使えない板だ。
モバイルバッテリーのような物も持ってきてないのですぐに使えなくなる。
黎兎はスマホの電源を落とした。
再び辺りが月明かりの光にのみ照らされる。
静寂とほの暗い闇が辺りを包む。
その薄暗さの中この世界に来る前の些細な喧嘩を思い出した。
なんてことはない自分の将来・・・進路についての喧嘩だった。
父に怒鳴られ一時の怒りの感情で家を飛び出し気づいたら異世界。
父や母には何も告げられずにここに来た。
このまま帰らなければ父や母や妹は心配するだろうか。
幼馴染はどれだけ取り乱すだろうか。
親友からは一体どれだけの小言を言われるのだろうか。
地球に残してきた大事な者達に思いを馳せながら黎兎の意識は深い闇に落ちていった。
次回からは共に旅に出かける仲間が登場します。
黎兎が魔法を使えるようになります。