side魔女:訃報
魔女さん目線です。
そして時間がちょっと戻ります。
私の朝は遅い。
町の住人達が朝食を取り、仕事に出かける頃にベッドから起きだす。
☆☆☆☆☆☆
「ん?」
朝、いつもの時間に目を覚ました私は、体に違和感を覚えた。
どうにも体が重い。
ザボンの体調不良が移されたか? 昨日は一度も会っていないが……。
そう思い、体に目をやると――
「ニャ―!」
――そこには少し機嫌の悪いタマがいた。
「そういえばお前がいたんだな」
タマを抱き抱えながら体を起こす。
タマの機嫌が悪い原因はなんとなくわかる。
「ニャー!」
やっと起きたか、そう言っているかのように鳴いている。
朝食だ。きっと前の主人の時は、既に食事をしている時間なのだろう。
「前のご主人はずいぶんと早起きなんだな」
自分が起きるのが遅いことは自覚しているが、ゴブリンごときよりも遅いというのは何となく嫌な気分になる。
「ニャー」
お前が遅いんだ、そう注意されたような気がする。気のせいだろう、罪悪感のせいだ。
「わかったから、すぐ用意するからそんな怒らないでおくれ」
いつもは目が覚めた後、ゆっくりとベッドから出るが、今日はそうもいかない。
せっかく心を開いてくれたのに嫌われてしまう。
そう思い急いで朝食の準備をしようとするが、そうもいかなくなった。
コンコン
扉をノックする音が聞こえる。
急いでいる時にいる時に来客とは運が悪い。
「アップルです。大事な話があります」
この家を訪ねてくる人間は少ない。
ノックの音で誰が来たか大体分かってしまう。
「ちょっと待っておくれ」
アップルにそう告げて急いで着替える。
いくらアップルが相手とはいえ、寝間着で出るわけにもいかない。
アップルが大事な話があるという時は、本当に大事な話があるときだけだ。
これがザボン達男衆が相手だったら後回しにするんだが……。
「ごめんよ。用事がすんだらすぐに用意するから」
恨めしそうな顔でこちらを見ているタマにそう告げる。
申し訳ないと思いつつ、タマが寝室から出られないようにしっかり閉じてから玄関に向かう。
アップルと鉢合わせしたら余計に機嫌が悪くなる。
ガチャリ
扉を開きアップルを迎え入れる。
昨日会ったばかりなのに、アップルの顔はひどくやつれていた。
目には涙の跡もある。
「とりあえず中にお入り」
すぐにでも問いただしたいが、玄関でするような話ではないことは明らかだ。
「何があったんだい?」
アップルを座らせて要件を聞く。その表情からあまり良い話でないことはわかる。
一体何があったのか……。
しばらく黙っていたが、意を決したようにアップルが口を開いた。
「ザボンさんが今朝……、亡くなりました」
「え……?」
一瞬何を言っているのかわからなかった。
ザボンはまだ若く、伸びしろのある冒険者だ。
こんなところで死ぬようなやつじゃない。
だが、アップルが冗談でこんなことを言うわけがない。
「昨日最後に見たときはまだ元気そうだったのですが……、もしかしたら私の手前、無理をしていたのかも知れません。今朝尋ねた時には……」
アップルの悔しそうな顔をしている。無理もない。
彼女は人一倍思いやりのある娘だ。
「アップルのせいじゃないよ。お前さんはヒーラーだけど医者じゃない。どうすることもできないさ」
私もショックを受けているが、アップルのショックは私の比ではないだろう。
それに、私は人の死に慣れている。慣れ過ぎている。
「それでも……!それでも……」
アップルも自分ではどうすることもできなかった事はわかっている。
だけど彼女の性格からそんな自分が許せないのだろう。
「アップル、お前さんは今日は休んだほうがいい、ドドリ達にはもう伝えたのかい?」
「まだです。」
ドドリ達の家のほうが近いが、私のほうが話しやすかったのだろう。
私はパーティで最年長だし、同性だから。
「わかった。あの二人には私から伝えておこう。だから早く休むんだ。何なら今日は泊っていくかい?」
少し心配だ。私の近くに居てくれたほうが安心する。
「いえ、猫ちゃんがいますので……、私がいるとあの子も落ち着かないでしょうから」
こんな時まで気を使ってしまう。アップルの良いところでもあるが、だからこそ心配になる。
「そうだったね……、すまない。そうだ、あの子の名前だけどタマっていうんだ。そのうち、面と向かえるようになったら呼んでやっておくれ」
「ありがとうございます。タマちゃんですか、かわいらしい名前ですね」
本当は前の主人がつけた名前なんだろうけど、そんな事を言ったらまた落ち込んでしまう。
「ああ、何度も家にくればそのうちタマも慣れるだろう。気にせず訪ねてくれ」
「……はい。」
アップルを見送ってタマの元へ向かう。
案の定さっきより機嫌が悪くなっていた。
「シャアー!!」
「ごめんよ、すぐに用意するから機嫌を直しておくれ」
急いで朝食を用意する。まずはタマの分だ。
タマの目の前に食事を置いたが、食べてくれなかった。
不機嫌な顔だが、私の分がない事を気にしているようだった。
「そうかい、前のご主人はいつも一緒に食事してたんだね」
一緒じゃないと食べてくれそうにない。
自分の分も急いで用意してタマと朝食をとる。
誰かと一緒の朝食なんていつ以来だろうか。
食べながら考えるのはザボンの死因についてだ。
流石にあの調子のアップルに詳しい状況を聞くわけにもいかない。
だが、原因がジカの森にある事は間違いないだろう。
ドドリ達に話をしたらギルドに向かおう、アップル達が向かったという洞窟に調査が必要だ。
アップルは合鍵でザボンの家に入りました。




