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sideゴブリン:一寸の虫にもゴブの魂

ゴブ太郎目線です。

 その日の朝はいつもと変わらなかった。


 いつものように目を覚まし、いつものように食事をとり、いつものようにタマを送り出した。

 あの隣人も一緒に。


 しかし、今日はいつものように終わらなかった。


 ☆☆☆☆☆☆


 俺がこの森で生を受けて何十回と季節が廻ったことか。


 俺は昔、ゴブリンだった。

 ホブ太郎ではなくゴブ太郎だ。


 しかし、ただのゴブリンではない。生まれつき特殊なスキルを持っていたのだ。


 《洞窟作成》


 このスキルは洞窟の作成だけではなく、作った洞窟内の情報を管理することでもできる。

 つまり外敵の侵入や、綻び等が簡単にわかるのだ。


 元々ゴブリンは洞窟に住む習性を持っている。どこのゴブリンもこれだけは変わらない。

 自然の洞窟か、もしくは自分たちで掘って作るかの違いがあるだけだ。


 ゴブリンは一つの群れで洞窟を作る。そして洞窟毎の群れがさらに集まり、一つの集団となる。

 この森の場合は、森全体で一つの集団になる。

 洞窟はゴブリンのアイデンティティ。より大きく、そして美しい洞窟を作った群れの長が、集団のリーダーになる。


 そんなゴブリン達の中で、洞窟作成のスキルを持っていた俺は産まれたばかりの時から一目を置かれていた。

 スキルだけではない。俺は知能や力も、他のゴブリン達とは違っていた。

 自分で言うのもなんだが、俺はゴブリンの時からこの森で最強だったように思う。


 そんな俺はあっという間にこの森に住むゴブリン達のリーダーになった。


 しかし、ゴブリンのリーダーである俺だったが、増長はしなかった。

 なぜなら、ゴブリンが弱い生き物だということを知っていたからだ。

 確かに俺はこの森で最強かもしれない。

 だが、人間がいる。


 やつらは気まぐれに森を訪れて、笑顔で俺たちを蹂躙する。

 一人殺すごとに喜び、そして俺たちが反撃すると、まるで親の仇のように向かってくる。


 理不尽な存在だ。


 だが、ゴブリンでは人間には抗えない。

 たまに勝てるときもあるが、殺される方が圧倒的に多い。


 だから俺はホブゴブリンに進化した時、隠れ住む事を決心した。

 表舞台には立たない。

 この森にやってくる人間は、精々ゴブリンを倒せる程度のやつらしかいない。

 俺なら人間にも勝てる。だが俺の存在は知られてはいけない。

 もしホブゴブリンが表れたと知られたら、より強い人間に森は荒らされてしまうだろう。


 だから俺は隠れ住む。


 俺がゴブリンの群れから離れて隠れ住んだ後も、ゴブリン達は俺を慕ってくれた。

 俺が抜けた後のリーダーは度々俺にアドバイスを求め、俺はそれに答える。

 その代わりに俺はゴブリン達から食料を納められていた。

 中には俺を男として慕ってくれる(ゴブリン)もいた。


 しばらく俺は一人での生活だったが、そのうち新たにホブゴブリンとなるものが表れ始めた。

 俺がホブゴブリンになるまではこの森には一人もいなかった。

 俺がホブゴブリンになったことで、この森のゴブリン達に何か変化があったのかも知れない。


 そして俺達は五人家族として、洞窟で平和に暮らしていた。

 そのころは少し退屈な気持ちがあった。


 しかし数年前、運命の出会いがあった。


 それは雨の日だった。

 一人木陰で佇む可憐な花、湿った体を震わせる美少女がそこにいた。


 彼女の憂いを帯びた瞳を見たとき、俺は目を離せなくなる。一目惚れだった。

 すぐに洞窟を飛び出して声をかけたが、彼女は俺の姿に怯えてしまった。

 だが俺が諦めが悪い。根気強く口説いていくと、俺の熱意が伝わったのか、ようやく心を許してくれた。


 心を開いた彼女は、緊張の糸が途切れたのか、体を俺に預ける。

 冷やした体を温めるため、彼女の体を抱きかかえて俺達の洞窟に招待した。



 これがタマとの出会いだった。


 タマと出会い、そして家族として迎え入れた俺達は、生活が大きく変わった。

 タマ中心の生活となったのだ。

 これまでも家族で仲良く暮らしていたが、タマが加わり俺達の絆はより深まった。

 俺の毎日も、これまでよりずっと楽しくなった。


 俺はタマのためなら何でもできる。

 タマにふさわしい洞窟を作るため、どんどん増築を繰り返していった。

 こうして作った洞窟は、ホブゴブリンの洞窟の中でも屈指の出来だと思っている。


 たまに人間たちが襲撃に来る事もあったが、ゴブリンだと勘違いしてやってくるような間抜けな冒険者は簡単に返り討ちにすることができた。


 そして数日前、俺達の周りを飛んでいる妙な虫がいる事に気が付いた。

 虫くらいのサイズだと、俺のスキルでも簡単には感知できない。


 最初は潰してしまおうと考えた。だが、こいつからは愛情のような妙な感情を感じる。

 特にタマに懐いているように見えた。

 自分でもおかしなことだとは思っている。

 だが、こいつは俺に似ている。なんとなくそんな気がする。


 他の皆は存在にも気が付いてなかったが、俺はこいつの事も家族に迎え入れようと考えていた。

 きっと笑われてしまうだろうな。


 そんな俺達の生活は、こうしてずっと続くのかと思っていた。




 ……あれ? なんで俺こんなこと考えてるんだ?


 ああおかしいな、体が動かない。

 何してたんだっけ……?


 ああそうだ、人間たちの襲撃があったんだ。

 家族が殺されて、頭に血が上って……。


 俺はあっさりと切られてしまったのか。


 タマに会いたいな。最後に一目でいいからタマに会いたい。

 でも、もうダメだ。体が動かない。


 意識が朦朧としてきた。

 ああ、あいつが来た。あの虫っころ。

 はは、生意気にも俺の事を心配しているようだ。


 もうダメだ、タマの事はこいつに任せるか。

 最近俺達と共に暮らし始めた7人目の家族に。


 タマを傷つけるようなことがあったら絶対に化けて出てやる。

 まあ、お前がタマを傷つけるとは思えないけどな。

最後まで出番が無かった仲間達……。

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