就任祝いと……
空の王者となった私だが、やはりちょっと思うところがある。
私としてはすでに勝ったつもりだけど、タマちゃんからするとまだ心配のはず。
今度こそタマちゃんの目の前でしっかりと狩り取ろう。
☆☆☆☆☆☆
タマちゃんの背に揺られていた私は、獲物を見つけてニヤリとする。
今度狙うのは、以前出会い、私を恐怖のどん底に落とした赤いトンボだ。
そうトンボ、もう空の王者なんて呼ばない。
すぐにタマちゃんから離れてトンボに向かう。
既に勝ちとっている私としては、タマちゃんに狩るところを見せるだけ。
なので、背後に忍び寄り……、スッと行ってプスッと一突き。
私は隠密性能が高い。本気で隠れて近づけば気が付きようがない。
ただ倒すだけなら楽勝だ。スッといっとプスっ!
前回正面から戦ったのは自分の強さを証明したかっただけ。
それ見たことか、私の攻撃に一切気が付くことがないトンボ君。
突き刺しても一切気が付かないトンボ!!!!
そう、一切効いてないのだ。本来私の牙に殺傷能力なんてない。
当然だ。血を啜るためだけのものだからね。痛みを与えずに刺すことに特化している。
だけどこれは想定内。
想定内だよ?ほんとだよ?
私の必殺技は刺すことじゃない。この後だ。
刺した後、スキル《貯蔵庫》に貯めていた血を一気に吐き出す。
貯蔵しているものは当然出力することもできる。そして、その勢いは私の身体強度が許す限り、いくらでも増すことができる。
私の体が耐えられる限界の速度で吐き出す。
《吐血》、これは私が攻撃のために編み出したオリジナルの技。
身体構造的に殺傷能力なんてない私。それを補うための必殺技だ。
そうすると……。
パンッ
破裂音が鳴る。
さすがに体が飛び散るほどではないけど、もはや原形を留めていない。
威風堂々と落下するトンボを眺める。
これで私は名実ともに空の王者になった。
タマちゃんを見ると呆然としている。墜落するトンボを見てすごく驚いているのだろう。
やはり私がここまで強くなっているとは思っていなかったようだ。
これでもうタマちゃんも安心してくれるよね。
そして驚くことがもう一つあった。今度は私が驚く番だ。
なんと! トンボを倒したことによりレベルアップをしたのだ。
森の帝王から血を吸っても上がらなかったのに、たかがトンボ一匹でレベルが上がる。
これには驚き桃の木山椒の木。
蚊として生を受けて、始めて吸血以外でレベルアップした気がする。
同じレベルアップでも、ただ食事するだけで上がった時より充実感を感じている。
苦労して上がったレベルは尊い。
今後は空の王者を蹂躙していく生活になりそうだ。
いや、"元"空の王者だったね。トンボ狩りの始まりだ!!
しかしこれはテンション上がるね!
一度は苦戦した相手、今や経験値に見える。
びくびくしていたときが懐かしい!
もはや空で私に勝てる相手はいないね!
だけど、まだまだゴブ太郎達には勝てない。当然タマちゃんにも。
勝ちたいわけじゃないけど、肩を並べられるようにしないと。
空の王者になっただけで満足してはいけない。私が目指すのはもっと上だ。
ゴブ太郎と並び、そして超えて、この世界の頂点を目指す!
さて次の獲物を探すかな。
っとその前に空の王者就任祝いにタマちゃんを頂いちゃうぞ!
吐き出した分の血を補給しないといけないしね。
チューチューチュー
やっぱりタマちゃんの血はおいしいな。
味はもうダントツ!
閑話休題
さて、そろそろ狩りに出かけるかな。
空中戦なら私に敵うものはいない。
もう何も怖くない。
今日は一旦タマちゃんから離れてトンボ狩り。
サーチアンドデストロイだ。
この森にはトンボが沢山いる。
今までトンボの天敵はタマちゃんくらいしかいなかったからね。
よく私はこの森で生きてこれたな……。
でも、今やトンボの天敵は私だ。
っとそうしてる間にもはっけーん。
スッといってプスッ
******
ふー、今日は大漁だった。
大漁で大量の経験値を得られた。
トンボ狩りをしていた私だが、日も暮れる頃にはタマちゃんと合流しないといけない。
私はまだゴブ太郎達に挨拶をしていない。早く帰らないと。
【名前】
バター
【種族】
ハイモスキート
【ステータス】
LV:10
力:1
耐久:1
魔力:1
敏捷:32
【種族スキル】
吸血
【固有スキル】
消音飛行lv3
貯蔵庫lv2
レベルもすでに10になった。
ちなみにベビーからの進化は5レベル。
モスキートからの進化は10レベルだった。
すでにハイモスキートの10レベルに達している。
どうやら吸血による経験値獲得は微々たるものだったようだ。
食事してるだけでレベルアップTUEEE、って思っていた自分はいったいなんだったんだろう。
恐らくだけど、本来できないはずの事を成し遂げたボーナスのようなものがあるのかも知れない。
種族的に、本来は吸血でしかレベルを上げられないはず。
しかし、私はトンボという本来は倒せないはずの相手を倒すという偉業を成し遂げた。
これは普通ではありえない経験だろう。
ドラゴンのクエストでいえば、レベル1の勇者が竜の王様を倒しちゃうようなものかな。
しかし嬉しい反面、私の蚊としてのアイデンティティが一つ失われたような気がする。
もはや吸血は単なる食事になってしまうのかな。
吸血した相手の能力を奪うような能力があったらいいなー。
次の進化でゲットできるかな?
まだまだ進化する余地はあるはず。
なんとなくわかる。
さてそれはさて置き帰還しよう。
運命の糸を辿りタマちゃんを見つける。
タマちゃんも帰ろうと思っていたようで、私が背に乗るとすぐに城へと帰還する。
さて、明日には旅に出よう。
タマちゃんやゴブ太郎達ともお別れか。でも永遠の別れじゃない。
いつかゴブ太郎達と肩を並べられるようになった時、その時には帰ってくる。
タマちゃんの血を啜りながら城に帰還した。
おかしい。もう入り口についたのにゴブ太郎のお出迎えがない。
なぜかゴブ太郎はタマちゃんの帰還を察知している。
今までゴブ太郎がタマちゃんをお出迎えしない日なんてなかった。
タマちゃんも異変を察知している。
ちょっと不安だ。様子を見に行かないと。
タマちゃんはゴブ太郎の迎えを待つためか、入り口で待機するようだ。
私は見に行ってくるよ。
城内に入るとやはり様子がおかしい。
外敵が立ち入ったような形跡がある。
そして、この血の匂い。
私はこの匂いを知っている。毎日味わっている。
嘘でしょ?あの圧倒的な強さを誇る森の帝王が手傷を負わされる?
そんな強敵が攻めてきているの?
私は一心不乱に匂いの元へ飛んで行った。デジャヴを感じるが、この前とは違う。
そして、匂いの元にたどり着いた私が見たものは、血まみれとなっているゴブ太郎達だった。
補足
作中でも解説してますが、吸血スキルが無能なのではなく圧倒的強者を倒したからどんどんレベルが上がってます。
蚊がトンボを倒すなんて、窮鼠猫を噛むってレベルじゃないですからね。
>もはや原形を留めていない
この部分はバターちゃんの乗りです。割りと原形留めてます。