最強への一歩
私がトレーニングを重点的にするようになってから10日ほどたった。
様々な出来事があった。
ホブゴブリンの1人が風邪をひいて寝込んだり。
それを見たゴブ太郎が慌てふためいたり。
それを見ているタマちゃんが楽しそうにしていたり。
それを見ている私はちょっと和んだり。
様々なことがあった。
様々なこと……?風邪ひいただけですね。
それは兎も角、私にはやらないといけないことがある。
それは、私が自分に課したタマちゃん達とお別れをするための儀式だ。
☆☆☆☆☆☆
修行に明け暮れたおかげで私はかなり強くなった。
今、私はタマちゃんの背に揺られながら、森を探索している。
あいつを探すため。
あいつ、それは初めて私に敗北感を負わせたもの。
空を悠々と飛び回り、私を虫けらのように扱ったあいつ。
そう、空の王者だ。
私が旅立つためにはあいつを倒さないといけない。
あの忌まわしきトンボを極楽に送り、そして私こそが空の王者になる。
それくらいできないとタマちゃん達も安心して私を見送れない!
空の王者を屠るにあたり、私はめぼしを付けているやつがいる。
以前出会った空の王者より若干小ぶりで、飛行性能が落ちるやつがいる。
そいつは他の空の王者と違い、枝や葉っぱ等に留まっていることが多い。
そいつはあっさりと見つける事ができた。
木の枝にいる。翅を後ろ側にたたんで休んでいるようだ。
よし、行こう。
そう思うが中々タマちゃんから離れられない。
決心したつもりでも、恐怖の心が消えたわけではない。
タマちゃんと出会った日のことを思い出す。あの時はタマちゃんがいなかったら死んでいた。
その相手に自分から挑もうとしているのだ。怖いに決まっている。
でも、前に進まないといけない。
私は意を決してタマちゃんから離れる。
タマちゃんからも声援を送られているような気がする。
タマちゃんから離れた私は空の王者と同じ高さまで舞い上がる。
そして、しばらく空中で制止して奴を観察する。
私のメイン武装は牙だ。血を啜るための牙がメインの武器だ。断じて牙だ。
私の牙は実は1本ではない。1本の牙のように見えているが、実は6本の牙が束なっているのだ。
有名な3本の矢の話を知っているだろう。
私はその2倍だ。
この牙にかかればシャー○オンダーツだ。
私の必殺の一撃なら、空の王者ですら倒せるはずだ。
覚悟を決めた私は、少し上昇してから狙い定める。
そして私は、滑空しながら空中タックルをかました。
正直ここで牙を使って貫けば簡単に倒すことができる。
でもそれでは意味がない。空中戦で倒さないといけない。
空の王者はようやく私に気が付いたようだ。
そう、私に気が付いただけ。私の体重が乗ったタックルを食らっても大してダメージはない。
だがそれでいい。
私を見て目つきが変わったように思う。
奴は空の王者として高く舞い上がる。
さすがに空の王者は風格がある。だがやはり、以前出会った奴と比べて飛行能力が低い。
飛び方が大ざっぱに感じる。いや、もしかしたらこれが修行の成果なのかもしれない。
私の能力が上がり、相対的に奴の能力が低く見えるようになったのだ。
しかし、その巨体の脅威は変わらない。
大きさは私の10倍どころではないだろう。
奴に捕まったらそれで終わりだ。
私の取れる戦略は一つ。背後に回っての一撃必殺。
実は私の攻撃力はそんなに高くない。
正面からの力押しでは倒せないのだ。
だが背後からなら別だ。背後を取りさえすれば、自分よりも大きい相手を一撃で屠る手段がある。
まずは空の王者の動きをしっかりと見切ることが大事だ。
空の王者の方も、私の事をしばらく観察していたが、すぐに攻撃に転じた来た。
一直線に向かってる。
以前空の王者に出会ったときは全然見えなかった。だけど今なら見える!
向かってくる空の王者をギリギリまで引き付けてから……、避ける!
大丈夫だ、問題ない。
簡単に避けることができた。
避けられたことに気が付いた空の王者は、しばらくキョロキョロした後、私に向き直る。
またもや真っすぐに向かってくる。
向かってくる空の王者に対して、今度は私のほうからも突撃する。
空の王者は驚いただろう。何せ明らかに格下の私が自分から向かってくるのだ。奴は私の思惑に気が付いていない。
お互いに近づいているが、奴は本当にただ向かってくるだけ。私は違う。
そして、両者が当たる寸前……、上昇して躱す!
ぶつかる寸前に躱すことで、奴は私の事を見失う。そして私は奴の背中を捉える事ができる。
前の私であれば、躱せたとしても風圧で吹き飛ばされてたかもしれない。
でも、今の私なら回避した後もすぐ次の行動に移せる。
回避した私はそのまま宙返りする。空の王者の背中がよく見える。
そして、空の王者を貫くために攻撃に転じる。
牙を立てて奴を貫く矛を作る。
真っすぐと奴を見据え、そしてそのまま……急降下!
練習してきた技! 10日間の練習の成果。私の必殺の一撃だ。
しかし、私の必殺技は空の王者の後ろを過ぎるだけに終わった。
回避された、わけではない。
やはり本番と練習は違う。狙いが逸れてしまったのだ。
速度計算だ。型だけを練習していたが、実際の戦闘になると相手の移動速度も計算にいれないといけない。
外れてしまったが、今の攻撃を空の王者は反応することができてなかった。
速度を計算に入れてしっかりと狙えば……。
いける! 私は勝利の確信を持つ。
しかし、油断はできない。
私は一瞬作ってしまった油断の気持ちをすぐに埋める。
お互いに一撃で終わりの勝負。
しかし、私のほうは背後に回らないといけないのに対して、空の王者は正面から私を殺せる。
飛行能力では勝っているが、油断して勝てるような相手ではない。
上を見上げると、私を見失っている空の王者が目に入る。
だが焦ってはいけない。
練習を思い出し、自分の動きをイメージする。
空の王者が私を見つけたようだ。
こちらを威圧するように睨んでくる。
それに負けじと私も睨み返す。
しばらく膠着状態が続いたが、先にしびれを切らしたのは空の王者のほうだ。
また馬鹿の一つ覚えのように真っすぐに向かってくる。
体が小さい私の事をなめているのだろう。
だがそれが命取りだ。
私はまた先ほどと同じように避ける。こいつの攻撃は100回来ても全部避けられる自信がある。
イメージが大事だ。奴を貫くイメージを作る。
今度は空の王者の移動速度も計算に入れる。
空の王者の背中を見つめる。私はイメージをトレースするかのように狙いを定めて放つ。
今度は真っすぐに奴を捉えている!
私の牙は奴に届く!
ってあああああああああああああああああああ!
私は急停止する。
バシッ
あっ……。タマちゃん……。
私が空の王者を貫く前に、タマちゃんが捉えてしまった……。
心なしかタマちゃんがドヤ顔に見える。
恐らくタマちゃんは私の事が心配になったのだろう。私がやられると思って助けようとしたのだ。
悪気はない。悪気はないけど……。タマちゃんの愛は嬉しいけど今回だけは……。
奇しくも以前の再現になってしまった。
で、でも……、これは勝ちだよね……?
うん、勝ちにしておこう。私の勝ち。
一度勝てば私はもう負けない。
『世界』の時から私はそうだった。
この勝利で、ようやく私は最強への一歩を踏み出せたと思う。
まだまだ森の帝王には遠く及ばないけど、でも、これからは私が空の王者だ!
こうして、今一締まらない旅立ちの儀式は幕を閉じた。
一旦の区切りと言いつつ締まらない最後で申し訳ないです。
ちょっと戦闘シーンをがんばったつもりなのですが、いかがでしょうか?
バターちゃんの今の強さは、シオヤアブをちょっと弱くして知能を付けたくらいなイメージです。
蚊なのにアブをモデルにしてどうするんだと……。
そしてお気づきの方もいると思いますが、今回の空の王者はトンボじゃないです。
そしてそして、次回の更新ですが、ちょっと整理したいので遅くなるかもしれないです。
と言いつつ遅くならないかもしれないです。
がんばります。