sideゴブリン:一寸の虫にも五分の魂
今回のお話は、人によって残酷に感じるかもしれません。
ここは人間達にジカの森と呼ばれる場所
この森に強い魔物はいない。しかし人間たちが思っているより弱い魔物だけではなかった。
ホブゴブリン。それは、戦闘訓練を受けてない人間では到底勝てない強さを持つ魔物。
☆☆☆☆☆☆
ホブゴブリンの朝は早い。
まずは自己紹介をしよう。
俺はこの森で最強の種族、ホブゴブリンだ。
ホブゴブリンはゴブリンの上位種で、ゴブリンに比べて様々能力を持ち個体差が大きい。
俺の名前? 名前は特にない。
え? 呼び名があったほうがいいって?
そうだな、ゴブ……いや、ホブ太郎とでも呼んでくれ。
ゴブリンじゃなくてホブゴブリンだからな。
俺たちホブゴブリンはゴブリンを従えて生活している。
俺はそんなホブゴブリン達のリーダーをやっている。
え? いったい誰と話してるのかって?
おいおい何言っちゃってるの?
俺の心を読んでるお前だよ。知ってるんだぜ?
俺の主な仕事は洞窟の拡張だ。
俺の能力は、洞窟を構築、保守することに特化している。
罠を設置して洞窟を広くする。差し詰め迷宮の主ってところだな。
俺がこの洞窟を構築しているのには理由がある。
さっきも言ったが俺はホブゴブリンのリーダーだ。
しかし、俺たちよりさらに上の存在。つまり王がいる。
俺は王のためにこの洞窟を構築している。王にふさわしく、そして王を守るため。
そうして洞窟の構築を進めていると、我らの王が帰還なされた。
「タマ、お帰り」
最高に可愛い。俺たちはタマの近衛騎士。
森の最強種である俺たちの上に立つタマは、まさに森の王様だ。
タマが帰ってくるとついつい表情筋がゆるんじまう。
やばいやばい。
一通り撫でまわしたあと、抱き抱えて奥へ向かう。
俺と仲間のホブゴブリン四人、そして王様のタマで六人家族だ。
最近は、妙な視線を感じる気もするが……。
いつも同じ時間に食事をする
そしていつも同じ時間に寝る。
いつも同じように暮らす。
そんな日常を送り続ける事。それが俺にとっての夢だ。
しかし今日はそんな俺たちの生活を脅かす存在が表れた。
人間だ。それも三匹もいる。
俺は洞窟に侵入する物を感じることができる。
そして位置だけではなく、ある程度敵の強さ、種族、そして数がわかる。
人間に対抗して俺たちが立ち向かうかって?
それは否だ。断じて否だ。
戦っても何もいいことはない。
それに奴らが向かっているのは食糧庫へのルートだ。最悪食糧を奪われるだけで済む。
そんなものより家族の命のほうが大事だ。
それに、この洞窟には俺が仕掛けた罠が沢山ある。
しかし洞窟に仕掛けた罠の大半は獣用だ。
大抵の人間は罠を掻い潜って奥へ進む。
だが俺は人間を罠にかける事をあきらめていない。
罠を警戒している人間を罠にかける。さて、どのようにすれば良いか?
答えは簡単だ。相手の想定を上回ればいい。
ではどうやって上回るか?
それは想定を下げればいい。想定を下げれば、必然的に想定を上回ることが容易くなる。
そのために獣用の罠を入り口付近に仕掛けている。
そしてこの洞窟の対人間用の罠は最奥にある花畑だ。
植えているのは蚊の子草という花だ。
美しい花だが、それだけではない。
こいつには強い催眠作用がある。
強い光に反応して花を咲かせる。そして、花粉に強い催眠作用がある。
洞窟の前半にある簡単な罠を掻い潜った奴らは、この洞窟にある罠のレベルを判断する。
そして段々と油断して、途中で罠がなくなる。
普通だったら罠がなくなったら返って警戒するだろう。しかしその頃には、奴らは花粉を吸って判断能力が低下している。
花粉で低下した思考能力のなか、罠のない道を進んでいくとどうなるか?
油断し、いつの間にかリラックスしているという寸法だ。
敵地でリラックスする。圧倒的強者であれば問題ないだろう。そんな相手であれば俺たちは洞窟を捨てて逃げている。
しかしあの人間たちはそうではない。俺たちと正面から戦っても五分五分って程度だ。
冷静であれば途中で引き換えしたりもするだろう。
だが、既に奴らはここが敵地だということを忘れている。
そしてついに奴らは花畑の前にやってきた。
あんな眩しいところに警戒もせずに突っ込む。普通だったらあり得ない行為だが。
しかし、奴らは普通の状態ではない。
おいおい、いくらなんでも全員で一緒に入るか?
奴らは一斉に花畑に入る。
そして……寝た。
蚊の子草で埋め尽くされた部屋に、無防備で入れば当然そうなる。
俺は奴らが深く寝たのを確認して、花畑の光を消す。
こうすることで花が窄み、催眠効果がなくなる。
「お前たち、準備はいいか?」
仲間たちと眠った人間たちの元へ行く。
もちろんタマは置いて行く、眠ったとはいえ完全に危険がなくなったわけではない。
「俺が解体する。お前たちは他の奴を見張ってろ」
まずは人間のリーダーらしきやつから仕留める。
斧を一振りし、人間の首を一瞬でたたき切る。
一発でやらないと起きて反撃される恐れがあるため、きっちり一発で仕留めないといけない。
残酷じゃないかって? 俺たちの住居に勝手に入って勝手に寝た人間。
それも恐らく俺たちの命を狙ってのことだろう。場合によっては立場は逆だった可能性もある。
許す道理がない。
そして俺たちにとってこいつらは食糧、それもとびっきりのご馳走だ。
つまり食べないって選択肢があるわけない。
無事解体も終わった。
沢山の返り血を浴びたが、補って余りある収穫があった。
今日はご馳走だ!
自宅けい(ry
どちらも悪い奴じゃないって感じで描写したつもりですが、いかがでしょうか?
生物は生存競争の過程で命を奪い合いますが、別に悪いことじゃないですからね。
それぞれの視点で見ると面白いのではないでしょうか。
人間視点で悪い事してるように見える蚊ですが、視点を変えると子供のために命がけで栄養を集める母ですからね。