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魔法世界にようこそ!  作者: 冷鳥ルイ
第一章 ランカーネ襲撃編
7/22

1‐6 三番隊


カタカタッと蹄の音がして、少女の体は軽く揺さぶられる。

警報がでてから早三十分。

王国騎士は一番、二番隊と速やかに人員をランカーネ市へ派遣することができたが、三番隊以降は中々準備が整わず、出発できなかった。

よって、彼女……三番隊隊長は部下と共に馬を目一杯走らせる。

仲間にいち早く加勢せねばならない。

友人の安否も気にかかる。

約一か月ぶりの魔獣騒動で、情報がほぼない状況だったため騎士団も焦っている。

敵の正体も数も予測が立たない。


「お、おいあれ…人じゃないか?」


一人の隊員が急に前方を指さした。

まだ距離があり、良く見えないが、白い服を着た人のような影が見える。


「何故だ?もうここはとっくに避難指示がだされたはず…」


そう、ここはランカーネの隣街。

念のため、他の街への避難を促された地域だ。

仮にまだこの市にいる者があるとすれば、家の中にでも閉じこもっているはず。


「まさか、逃げ遅れた人が……?」


別の隊員がボソっと呟いた。

もしもこの隊員の言うとうりならば放っておくわけにはいかない。

今すぐ助けなければ。

隊長は嘆息すると、すかさず対応する。


「……仕方ないわね。私が様子を見てくる。」


隊長は静かに発言した。

自ら救助に向かうつもりの様なので、他の隊員たちは異論を唱える。


「何も、隊長自ら行かなくても…」


近くの隊員が代表として提案した。

集団行動には指揮官が必須。

騎士団に入っている物ならば誰でも心得ている。


「そう?でも私以外に適任がいると思う?」


「そ、それは…」


少女は年上の隊員に対して強い態度で言い放った。

隊長の言葉に隊員たちは口ごもる。

確かに一番適任なのは他でもない隊長であった。

一番判断が素早く的確で、乗っている馬も騎士団内で一、二位を争う速さ。

文句の付けどころがない。


「で、ですが指揮官がいないとなると…」


再び隊員は問題点を指摘した。

この少女は少女ではあるが隊長。

腐っても隊長である。


「じゃあ、あなたが指揮をとればいいんじゃない?」


少女は指摘してきた隊員に向かって言った。

思わず隊員は「は?」と声を上げてしまう。


「だってあなた、みんなの代表を担ってたじゃない。」


少女は平然と言った。

これには隊員たちも唖然とする。

さらに少女は「それに、」と付け足して話をつづけた。


「指示がないと動けないだなんて無能もいいところじゃない。そんなに指示してほしいのなら向こうでルカさんにたっぷりしてもらえば?」


かなりの毒を吐いているが、少女は顔色一つ変えない。

きりりとした雰囲気のままだ。


「え、あ…その…」


「それじゃ、異論ないみたいだから。」


少女は吐き捨てると行ってしまった。

隊員達は止めたいとは思っているが、行動には移さなかった。


「やっぱ、たまにわがままなんだよなぁ…あの人。」


少女が遠くなってから誰かが呟いたようだが、気にする者はいなかった。

全員感じていることだったからだ。



*************************************


「はぁ…はぁ…」


少年は息を切らしていた。

それもそのはず、さんさんと太陽が照るなか、シャトルラン並に走ったのだから。

周りの景色はもはや建物がなく、牧場や田んぼの様な施設ばかりだった。

遠くには微かに見える建物があったのだが、もしあれがランカーネだとするとまだまだ先は長い。


「このままだとまじで死ぬ。」


息切れの中、小さく呟く陽向。

喉はもうカラカラで限界を迎えている。

せめて川でもあればいいが、生憎それらしきものはない。


「ああ、騎士団か?あんなとこ走ってないでここまで来いや。」


力なく陽向は言った。

何十メートルか斜め後方には馬に乗って進む集団が。

あそこまで走って助けてもらいたいところだが、陽向にはその体力も水分もなかった。


「え?」


不意に後ろから蹄の音が聞こえたので、陽向は振り向く。

見れば、馬にまたがる長い髪を束ねた女の子が。

こちらに向かって走ってくる。

命の危険を感じた陽向は道を大幅にずれる。

あんなスピードで馬に蹴られたらたまったもんじゃない。

しかし、少女とその馬は徐々にスピードを落としていく。

馬はだんだんと歩くような足使いになり、陽向の近くにつく頃には散歩並のスピードになった。


「あなた……こんなとこで何を?」


少女は陽向を見たとたん、怪訝そうな顔で言った。

まるで、変人を見るような目だった。

陽向はなんだかイラっと来たので正直に言ってやることにした。


「えっとー、ルカさんに急用があって、王国騎士団に行ったんですけど、なんか門前払いされて、仕方なく二番隊追いかけてたんですけど。」


陽向は嫌な言い方をした。

少女が悪くないことは重々承知だったのだが、ストレスから言わずにはいられなかった。


「追い払われたからって、徒歩でランカーネ目指すなんて……常識ないのかしら。」


少女は最後の一言だけ小さな声で言った。

陽向にはもちろん聞こえていない。

はぁはぁとまだ息を切らしている。


「あなた、それにしてもなかなか珍しい格好してるのね。」


少女は陽向を見ていった。

またこれか…と思う陽向。

今度はどうごまかそうか。


「ごめんなさい。まだ調子が良くないのね。質問攻めして悪かったわ。」


少女は優しく声をかけてきた。

どうやら陽向が疲れ切っているのが伝わったらしい。


「ちょ、すんません、水持ってないですか?」


陽向は限界に来ていたので、たまらず訊いた。

すると、少女は馬に着けている荷物入れから水筒の様な物を取り出した。


「これでいいかしら。私の飲みかけだけど。」


いいながら、少女は馬から降りる。

そして、水筒を差し出した。

陽向はこれを受け取り、キャップをはずす。


「あれ、気のせいかな…今飲みかけって…」


水筒を覗いてみると、どうやら五分の四くらいしか入っておらず陽向はとどまる。

つまりこの五分の一をこの少女が飲んだということなのか。


「あら、もしかしてそういうの気にするタイプ?」


逆に気にしないタイプが一般的なのか?と疑問に思う陽向。

無論、陽向は気にするタイプだ。

だが、少女がずっとこちらを見てくるので水筒の水を飲まないのは不自然だ。


「いや、気にするタイプじゃないんだけど、うんやっぱいいや。喉乾いてないし。トイレ近くなるし。」


陽向は少女に押し返した。

念願の水だったのに…と肩を落とす陽向。

けれど、あのまま関節キスをするのも罪悪感があって嫌だ。

ここはこのまま耐えよう。

少女は「そう。」と言って水筒を受け取ると、荷物入れの中に戻した。

そして、陽向に向き直り、こういった。


「はぁ…見た感じ、あなたもう自力で避難は無理よね…じゃあ、私が馬に乗せて避難させてあげなきゃいけないのかしら…」


困った、という表情をしている。

彼女としては早くランカーネに向かいたいようだ。


「あれでも、私を信頼してくれてる部下だし…」


「部下?」


少女が呟いたのを陽向が拾う。

すると、少女はすこし緩んだ顔で


「そう、三番隊の部下。私こう見えても隊長なのよ。」


と返した。

隊長だということを自慢げに思っているらしい。


「あなたが隊長なんですか?まだそんなに歳もいってないですよね?」


陽向は躊躇なく訊いた。

もう息も安定してきている。


「当たり前でしょ。まだ16よ。あーそうそう、私、小春っていうの。残念ながら苗字はないわ。」


陽向が小春のことを『あなた』と呼んだのが気にかかったようだ。

けれど、陽向としても小春の発言に引っかかるところがあった。

名字がないだの和名だのと色々質問したい。


「自分は『佐々木 陽向』っていうんです。」


初対面の人にぐいぐい質問するのは失礼だと感じたのでとりあえず名を名乗る。

すると、少女はニコッと笑い、


「じゃあ陽向って呼ぶわね。よろしく。」


愛想よく呼び掛けてくる少女に少年も「よろしく。」と返す。

話が逸れてきてしまったので、陽向は話題を戻す。


「さっきの事なんですが…その…自分も連れていけばいいんじゃないですか。」


陽向もランカーネまで同行するという意味合いだ。

勿論、ここまで来たのもランカーネまでたどり着くのが目的。

馬で連れて行ってもらえるのならば都合が良い。


「でもあなた、騎士でも何でもないのよね?」


小春の問いかけに陽向は「はい」ときっぱり返した。

騎士どころか魔法の概念すら知らない渡来人だ。

もっと言えば今日の寝床も確保できていないくらい追い込まれている。


「状況がわからない以上、一般人を連れていくわけには…」


「でも、このままだと仲間への加勢ができませんよ。」


陽向は最後の追い打ちをかける。

もしかしたら、乗馬体験ができるかもしれない。

そんな淡い希望を感じながら。

しばらくして、少女は顔を上げる。

考え事が終わったのだろうか。


「いいわ、あなたの口車に乗せられてあげる。ただし、向こうについてからルカさんを捜しまわったりしないこと。」


少女は申し出を承認する代わり、条件を出した。

二番隊隊長のルカさんに迷惑をかけるわけにはいかないのだ。

自分の地位をさげかけない。


「うーん、それは約束しがたい…」


陽向は小春に聞こえないくらいの声で呟いた。

捜させてもらえないとなると、最悪振り出しに戻ってしまう。

だが、顔を上げてみれば、小春が困った様な顔でこちらを見ていた。


「わかりました。そんなことしないですから。」


この空気に負けて、陽向はとりあえず譲ることにした。

馬に乗せてもらえるだけありがたいと思うようにしたのだ。


「そう…じゃあ早くこの馬に乗って。急いでるからちょっと飛ばすわよ!」



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